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迷宮奇譚書  作者: 渦雷
プロローグ
4/19

正直者は宝を見る  中編

200X年9月11日 19:21 根下がり松交差点 自動販売機


 自動販売機のルーレットが「3・3・3」と揃っている。電子パネルはフルカラーではなく、オレンジ一色の質素な作りなのに、数字が揃っているだけで、こんなも美しく見事なものだとは…山田は、一瞬の達成感と、その後の空しさに軽い疲労感を覚えた。


「勝った…結局、運頼りが勝利への道だったのか?だとしても勝利への代償はあまりにも大きかった。」


 財布の中身を凝視する。長財布には札束は無論無く、代わりにレシートが数枚入っており、小銭入れには、321円が鈍い輝きを見せていた。


「来月まで、これだけで過ごすのかよ…チャレンジャーだな、おい…」


 今回の迷宮が金目の宝物であることを、山田は心底願い、ルーレットの電子パネルを見つめる。電子パネルはしばらくの間、美しく揃った数字を写し、消失後、ひらがなの文章が右から左へと流れてきた。


「お・め・で・と・う・お・ま・け・で・も・う・い・っ・ぽ・ん・ど・う・ぞ」


「ね・さ・が・り・ま・つ・の・ね・っ・こ・し・た」電子パネルは沈黙した。


「根下がり松の根っこ下ね。ふぅむ…迷宮の入り口が分からなかったとはいえ、答えが分かると、分かりそうな場所なだけに悔しいな。」


 18本となった飲み物の缶を、ビジネスバッグと常備していたビニール袋に振り分け、コンビニ「ジェイソン」に停めていたマイカーに缶を置いてから、根下り松公園に向かった。


 根下がり松の由来は、江戸時代に大名行列で使われていた街道に小高い崖があり、そこに生えていた松から根が飛び出し、垂れ下がっていた場所を旅人たちが休憩地にしていたと伝えられている。都市伝説では、休憩していた大名行列が出発するときに従者が千両箱を持ち忘れてしまったという、なんともお粗末な埋蔵金伝説が噂となっている由緒正しき場所である。


 今現在、小高い崖はコンクリートで固められ、整地された場所には公園としてブランコ、鉄棒、すべり台等が設置されている。しかし、今も昔と変わらず、街道としては交通量が多い場所のため、自動車の騒音と排気ガスにまみれており、根下がり松公園には子どもはもちろんホームレスさえも見たことがない場所となっていた。


 山田は根下がり松公園の入口に立ち、周囲を観察した。季節は秋を感じさせており、夜は少し肌寒い風が吹いて湿気の無い闇が広がっていた。当然のことながら人の気配は無い。公園の遊具は所々に錆が浮き出ており年季を感じさせている。


「人がいないのは好都合だが、なんだこの重い空気は…本当に怪物が出てきそうな雰囲気じゃねぇか。」


 プッレシャーを感じつつ公園内に足を踏み入れる。一瞬、公園内の空間が歪んだような錯覚を感じた。「あれ?」眩暈を感じたのか、山田は目を閉じ一呼吸おいて目を開ける。すると、音が聞こえなくなっていった。いや、正確に言うと公園内の音は聞こえるが、公園外の自動車の走る音等、生活雑音が一切聞こえなくなっていた。さらに目を凝らして公園内を良く見ると、ブランコが黄緑色の光を帯びて揺れているではないか!


「うゥワアアあああああああああああああああぁ~出たアアアアアアアアアア!」


 山田は絶叫し、3歩後ろの公園外に一目散に逃げ出した。公園の外に出ると、部活帰りであろう女子高生と鉢合わせとなった。女子高生は山田の慌てぶりに、痴漢と勘違いし「ヒィッ!」と声を上げ逃げ出してしまった。勢いよく逃げ出したため、スカートが捲れ、水色縞模様のパンティが見えてしまっている。そして、生徒手帳を落としてしまっているのに気付いてない。


 公園の外は異常無く、生活の音も聞こえている。


「洒落になってねーよ。なんだったんだ今のは…」


 生徒手帳を拾い上げ、恐怖に駆られながらも公園を観察する。公園の外から見ても特別に公園内は変化が無い。しかし、もう一度公園内に入る気にもなれず、今夜はすぐに家に帰ることを決めた。


今回の宝物:無し

装備:無し


プロフィール

部活帰りの女子高生:部活帰りと思われるのに、汗臭さは無くほのかに太陽とシャンプーの香りがしている。胸がデカイ。





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