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迷宮奇譚書  作者: 渦雷
プロローグ
3/19

正直者は宝を見る  前編

200X年9月11日 18:43 根下がり松交差点 コンビニ「ジェイソン」店内


「意外に人通りが多いな…。」


 山田某はボソリと心の中で呟き、根下がり松交差点近くのコンビニ「ジェイソン」の店内で、雑誌を立ち読みしている振りをして真向かいにある自動販売機の様子を窺っていた。

 迷宮の入口となっている自動販売機前には、野球部終わりであろう中学生が屯しており、遠目からでもゴロナミンZで喉を潤していることが分かる。


「ゴロナミン飲んだら、とっとと帰れよ…。」


 再度、心で呟きながら、雑誌コーナーに目を戻すと、立読み禁止の張り紙に目が留まる。山田は極まりが悪くなり、ミネラルウォーターをレジに持って行きコンビニを出た。こうなったら、堂々と自販機に向かうしかない。


「よく考えれば、なに中坊に俺はびびってるんだ!自分が自販機に買いに行けば中坊は退くだろ。まさかオヤジ狩りはされないと思うが、独学で八極拳を習ってるから大丈夫!」


 山田が自動販売機の目前まで近づくと、中学生達はゴロナミンZを飲み終わり家路に向かう様子であった。中学生の声変わりがしている子、していない子の会話が山田の耳にはいる。まるで、大人と子どもが会話をしているみたいだが、内容は思春期特有のオスの会話である。


声変わりしている子:「この自販機のオマケ機能、マジ当らねーよなぁ。レア度高すぎでしょ。ところで、カイトぉ~お前、アイナのことが好きなんだってぇ~ん!マジかよぉ~ぅ♪クラスん中でも、一番胸デケぇもんなぁ♪オカズでしょあれは♪ヤベェよ告っちまえよ♪」


声変わりしていない子:「うっうっせーな!いいだろそんなこと…アイナは胸がデカイだけじゃねーよ…いつも、笑顔だし…優しいし…。ケンシロウはアイナの外見だけしか理解してねーよ。」


ケンシロウ:「外見?意味分からんし!あぁぁぁっ、今夜はアイナで5発抜こう♪・・・・・・。」


カイト:「マジでやめっ・・・・。」


 青春の香りを漂わせながら、中学生達は去っていった。山田は見送りながら、


「今夜だけで5発だと!ええぃ、中学生の精力は化け物か!それにしても、ケンシロウにカイトにアイナ…キラキラネームのオンパレードですな。いづれ時代がキラキラネームじゃない奴のほうがおかしいと思うことになるかもな。しかし、ケンシロウよ、胸とはまだ青いな…」


 と心に呟いた。世代のギャップと対抗心を燃やしつつ、自動販売機の前に陣取り、飲み物のラインナップやオマケ機能である電子ルーレットを観察する。オマケ機能が搭載された自動販売機は、電子ルーレットで同じ数字が揃えば、もう一本タダで貰える仕組みとなっている。


「迷宮奇譚書のヒントから推測すれば、当たりが出れば入口OKという感じだな。分かりやすいわ。飲み物のラインナップは…ゴロナミンZに極み茶、ボカリリセット、んっ…!あたたかいの列にゴロナミンZ!!、それに聖母生ミルク!?なんじゃこれ。」


 一瞬、山田某の思考が停止するが、再び考察する。


「あたたかい列のゴロナミンはウケ狙いとして、いや違う、当たりが出る確率は?…聖母生ミルクは、何の乳なのか?本当に母乳…じゃなくて、迷宮の入り口はどうやって出現するのか?…生乳って保存大丈夫なのか?結論としては、聖母生ミルクはパスだな俺は牛乳飲むとお腹がユルくなるからな。」


 混乱が入り混じりながら考察していたが、山田は頭を軽く振り、


「考えるな、とっとりあえず、ルーレットを回そう。そうすれば道が開かれるのだから。」


 山田は120円を投入口に念じながら入れ、極み茶のボタンを勢いよく押した。自動販売機のルーレットは軽快な電子音楽とともにグルグルと数字が回転し、やがて数字が止まる。3…8…6、数字は見事にハズレてしまった。


「いきなりは当たらないよな。それにしてもなんで、コンビニで五光の美味しい水を買っちまったんだろう…飲み物ばかりになるのだから、パンとかにすれば良かった。」


  ブツブツと文句を言いながら、次のコインを投入してボタンを押す…ハズレ。コインを投入してボタンを押す…ハズレ。コインを投入して…ハズレ。コインを…ハズレ。・・・

 …9本目となった極み茶を手に、山田は自動販売機を睨みつけた。極み茶の缶を握り締めた手はワナワナと震えている。山田のビジネスバッグは飲み物でパンパンに膨れ上がっていた。


「おいっ、おいおい自販機さんよぉ~!日頃の行いが良い俺が、なんでこんなにハズレをつかまされなきゃあかんのですか。んんっ~新手の詐欺かなんかかこれは。ケンシロウ君の言うとおりレア度高すぎでしょうが。」人の目を気にしながら、悪態をつく山田であったが、ふと思いなおす。


「だけど、簡単に当たりが出たら、皆迷宮に入り放題だもんな。しかし…そうなると当たる確率は相当低いだろこれ。そもそも、当たる確率ではなくて、当たる方法があると考えたほうがいいのか?ヒントの日頃の行いが良い人とは誰だと考えると…俺、嫁、娘、お釈迦様、イエス様…聖人君子…聖人…聖母…聖母!?聖母生ミルク!そういうことか。」


 山田は勝ち誇った様子で、コインを投入口に入れた。


「謎は全て解けた…カモ~ンッ迷宮への入り口!」


 ルーレットが勢いよく回転する・・・・7・・・・7・・・・「来たっ」・・・・・・・6・・・ハズレ。


「ハズ…レ。あれっ?あれあれあれあれ?」


 キンキンに冷えた聖母生ミルクを手に取り、山田は困惑する。


「どういうことだ?ヒントから考えれば、聖母生ミルクで当たりだろ。何が違うんだ…まさか本当に運頼みなのか?」


聖母生ミルクのイラストである、女神様風の巨乳女性が優しい微笑で山田を見つめている。それを、見つめ返しながら山田は決意を固めた。

 

「上等だよ…俺の小遣いが無くなるまで付き合ってやるよ!」 


 掛け声一番、山田某の何かが解放された。閉ざされた迷宮への入口を開くため、自動販売機との壮絶な戦い…そう、まるでファンタジー小説のような戦闘が繰り広げられた。


 11本目…ハズレ。・・・12本目、ハズレ。「クソっ、ならば、あたたかいゴロナミンで。」・・・・・ハズレ。「ならば、連続でゴロナミンだ!」・・・・ハズレ。


 果てしなく長い戦いが続くかと思われた、総本数18本目、聖母生ミルク3本目にして、ついに…当たりが出た。


 これで・・・迷宮への入口が開かれる。


今回の宝物:無し


装備:軍資金(小遣い残り) 約3000円


プロフィール

ケンシロウ:市立誠武(しりつせいぶ)中学校3年生。野球部所属。ポジション、サードで4番打者。声変わりしており身体は大人、心は子ども。一晩で空撃ち無しの5回発射できる化け物。


カイト:市立誠武(しりつせいぶ)中学校3年生。野球部所属。ポジション、セカンドで7番打者。声変わりしていないが、心は大人。女心が分かる凄い奴。


アイナ:市立誠武(しりつせいぶ)中学校3年生。中学生なのに胸がデカイとの噂。所詮、中学生の視点での評価であろう。

 




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