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シェーラザードと悩み事



『ご主人様。ご主人様ってば! ………ごーしゅーじーんーっ』


 いい加減気付けー!とばかりに、アレンの耳許できゃんきゃんと叫ぶ銀狼。

 道行く人が何事かと振り返り、次いでほとんどの人が数秒後には興味が失せたというように元凶から目をそらし、それと同時にアレンの方を惚けたように茫然と見つめる。

 そんな周りにも気を向ける余裕がないシェーラは、尚も、『ってか流石に聞こえてますよね!? ……あーもう!』と、人間であれば地団駄を踏んでいるくらいには吼えているのだった。


 ──そうすること一、二分。

 てんで何の反応も示さない主をして遂に諦めたのか、シェーラはぷっつりと口を閉ざした。

 先ほどとは打って変わって、二人を静寂が包む。

 アレンの方は無表情だから心の内は読めないが、その肩に座っているシェーラは、大変不満そうに尻尾をばたりと降っている。


『(どれだけあの人が気に食わなかったんですかー…)』


 無視され続けたことにより少々ささぐれた心の中で、シェーラはそうボヤいた。

 楽しいお買い物が台無しである。


『うぅー…』


 つい先程まではあんなに面白かったのに、と買い物中の情景を思い出して、シェーラはうなだれた。一体何が悪かったのだろう、と耳をへたらせる。


『………』


 シェーラがどこか落ち着かなそうに視線をさまよわせていると、不意にアレンが口を開いた。


「シェーラ」

『…………はい。何ですか?』

「あのさ。…怒ってる?」

『…はい?』


 予想だにしない質問に一瞬固まった後で、慌てたようにぶんぶんと首を振る。


『っていうか、ご主人様こそ怒ってるんじゃなかったんですか!?』

「…えっと、ね? ほら──さっきのやつで、素っ気ない対応をしたから」

『……あ、自覚あったんですね』


 思わずそう呟いてしまったシェーラである。


 その件で怒っているとあらぬ誤解をされては困ると、シェーラは唸った。


『…ご主人様が終始無言で困惑はしましたけど、怒ってないですよ』


 シェーラは、言葉じゃ伝わらないので身体で表現すべく、アレンの頬に頭を擦り寄せた。ちなみに、アレンが怒ってないとわかったので、尻尾もぱたぱたと動いている。


『(考えてみれば、ご主人様は幼い頃から外部との接触があまり無かったですから、コミュニケーションの取り方や他人との距離の計り方が判らないのは道理ですよね。…まぁ、だからといって、身の回り全てを敵と捕らえなくても良いと思いますが…)』


 私が人間なら、ご主人様と他者との橋渡し役になりますけど、実際それは無理ですからねぇ。……うーん…。


『……あ』


 それまでうんうんと悩んでいたシェーラは、そう声を発すると同時にピン、と耳と尻尾を立てた。


 ──名案が浮かびましたよ、ご主人様!





◆◇◆◇




『名付けて、“友達の友達は友達である作戦”!!』


 …ね、ネーミングセンスはこの際置いといてください。うぅ、触れないでくださると嬉しいです…。

 いや、それはさておき! この“友友作戦”の説明をするとですね──


 その一、私が他の魔獣と友達になる。その二、その魔獣の主とご主人様が友達となる仲立ちをする。

 うん、これなら私もご主人様の友達もできて、一石二鳥じゃないですか?

 あ、仮にご主人様が友達を欲してないとしても、この作戦は決行しますよ? これから先、一人っきりで生きていくのは難しいと思うからです。生まれてこの方の対応から、ご家族の方々には期待できませんし、将来私に何かあった時のことを考えると(無いことを願いますが)、今の状態じゃ心配じゃないですか、色々と。

 まあ、そろそろ私も他の魔獣たちと話してみたいですし。そういう目標があった方が、私としても気持ち的に仲良くなりやすくなるというか、会話をする時のモチベーションが上がるというか。


『…ん?』


 そういえば、今まで一度も、他の魔獣と言葉を交わしたことが無いのですが。


『……ご主人様あー』


 自分のベッドに入って読書をしているご主人様にそっと話しかけると、直ぐに返事が返ってきた。


「…どうしたの、シェーラ?」

『ご主人様。……私、他の魔獣に避けられてますよね?』

「……えっと。ごめん、何て?」

『……あ』


 そういえば、ご主人様とは種族が違うんでした!

 大体違和感なく会話成立していたから、あまり意識してませんでしたけど。

 多分あれは文脈と私の行動から鑑みているんでしょうから、こういう何ら脈絡のない発言に対しては、そりゃあハテナマーク浮かべますよねぇ…。

 まぁ、それでも、お腹が空いたと言っているだのと、てんで的外れの鳴き声に捉えないというのは凄いことだと思いますが。


『…うーん…』


 どうにかして伝えようと頭をひねりますが、良い案は浮かびません。

 そのうち、ご主人様の読書をずっと中断させていることに気づいたので、『やっぱり何でもないです』と小さく首を振ってご主人様に読書を再開してもらってから、床へと飛び降りました。


『(き、嫌われてはいないはずです……!)』


 そもそも喋ってないのですから、嫌われる要素がありません。何かの噂が広まっているのならまだしも、初日からそれはいくら何でも無いと思いますし…。

 でも、私が気が付いていないだけで、周りから見れば変な行動をしたとか…? ……これは、魔獣の基準(常識)が分かりませんから、何とも言えませんね。

 そういえば、他の魔獣はどのような感じなのでしょう?

 魔物と違って知性がある、というのは聞いていますが、どのくらいの知識力なのでしょうか。


『…あぁ。もしかして、頭のいい方ばかりだとか……?』


 自分の想像で落ち込んでいると、ご主人様が私の名を呼んだ。


『…はーい』


 元気にご主人様の元までダッシュ、という気分にはなれなかったので、ぽてぽてと歩いてご主人様のいるベッドへと飛び乗る。


「……ん? シェーラ、元気ない?」

『ごしゅじんさまー…。私、他の魔獣さん達と仲良くできる自信が無くなってきました……』

「……? 誰かに、何か言われたりした?」

『いーえ』


 力なく首を横に振り、そのままボフンとご主人様の傍に倒れ込んだ。

 もう私は限界です。頭を使いすぎて疲れました……。


「シェーラ、大丈夫っ!?」

『だいじょうぶです』


 慌てるご主人様にそう返すと、ご主人様はまだ不安そうながらも、次の言葉をかけてくれた。


「…ご飯、どうする? 部屋で食べるか、食堂に行って食べるか──シェーラがしたい方でいいよ。ちなみに、メニューはほぼ一緒らしいね」


 ご主人様は、そう言いながらメニューを見やすいようにしてくれたので、そこから美味しそうなもの──気分的にシチュー──を選んだ。そして、部屋の方が良いと前脚でメニューを叩いて意思表示した。

 ちなみに、人間用と魔獣用で分かれているらしい。塩分の量とかが違うんだろう。

 …とはいえ、やっぱり人間用の濃い味付けが食べたいです。身体を壊すことになると悪いから、泣く泣く諦めますけども。




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