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シェーラザードと見知らぬ人




「シェーラ、やっぱり似合っているよ」

『ありがとうございます!』


 ご主人様は、とろけるような笑みを浮かべて、私の首元のリボンに触れる。

 このリボンは、先ほど入ったお店で買ったものなんですよ。…最初は兎のアクセサリーが欲しいなぁと思ったんですけど、よくよく考えてみたら、私使えないなーって。ほら、私狼ですから。

 ペンダントは私の首に掛けるにしては長すぎますし、鞄はくわえて運ぶしかないのですが、それだと鞄が汚れてしまいそうなので却下です。

 でもこのデザイン可愛いと悶えて(悩んで)いたら、ご主人様が「買う?」と。

 慌てて『結構です!』と首を振ったら、「そう?」と少し残念そうな声と表情でご主人様が首を傾げてくるものだから、もう……っ!

 あぁ、肩から降りていて良かったです。肩に乗っていたら、真っ正面からご主人様を見れませんでしたからね。

 あ。ちなみにこれ、同じお店の中の、違うコーナーに売ってたんです。

 そこには、動物シリーズ以外の色のリボンも含めた数十種類のリボンが売っていました。おそらくプレゼントをデコレーションする用だったんでしょう。そこに、今私の首に巻かれているこのリボンが売っていたんですけど、つい一目惚れして、買ってとご主人様にねだりました。

 このリボン、少し硬めだけれど肌触りは非常に滑らかなんですよ。今までお目にかかった事のない生地です。

 欲しい長さだけカットして戴くという形式で売られていたんですけど、首に巻くのには少し長めかなぁと思うくらいの長さで切って貰いました。そこはご主人様の采配です。

 ですから、首にゆるふわに大きくリボン結びをしても、風にひらひらと靡かせるくらいの遊びは出来るんです。

 …うーん。ご主人様はこれを見通してたのでしょうか。さすがは我がご主人様です!


「シェーラ、でも、本当にもういいの? まだ時間あるけど…」

『満足ですっ』

 

 ご主人様の身体が慣れるまでは、無理は禁物ですからね。体調を崩さないためには、少し早めに帰ってたっぷり寝るに限ります。あ、朝はちゃんと起こしますよ? …任せて下さい、ご主人様。私、朝は得意なんです!


「あ、あの…!」


 第三者の声が聞こえてきたのは、そんなときでした。

 声が発せられた方に耳をぱたっと向け、無理のない程度に身体を傾けて首を傾げます。


『あの、ご主人様に何か用ですか? ………って! ちょ、声かけられてますってご主人様!? …無視しないであげて下さいっ』


 前脚でご主人様の肩をポンポンと叩いて、そう知らせます。鳴き声はすごく小さかったんですけど、ご主人様は分かってくれました。


「──何だ?」


 ご主人様が渋々といった風に振り向きました。それに倣って、私もほぼ正面から、声をかけてきた方──深緑色の髪の男性を見ることが出来ました。

 何の用だろうかと内心首を傾げていると、


「用もないのに呼び掛けるな。不愉快だ」

『ちょっと、ご主人様! それは言い過ぎです!!』


 本当に、ただの通りすがりの通行人なんでしょうから、そこまで敵視しなくても…!

 ご主人様の言葉を受けた男性は、しどろもどろで答えます。…ご主人様の冷たい視線にも負けずに、頑張って答えてます。偉いです。


『……うー』


 それにしてもご主人様、対応冷たすぎませんか?

 小さく唸りながら、抗議の意味を込めて尻尾でパシパシとご主人様の背を叩きます。…えぇっと、伝わってるでしょうか?


「どうしたの? シェーラ」


 ん?と首を傾げて問うてくるご主人様に、『仲良く!』と短く鳴いて意志を表明します。


「そ、その…肩にいる狼は魔獣なのかな?」

「だとしたら何か?」

『…って、ご主人様っ!?』


 ──意味、伝わってなかった!

 たしかに人間には直接は伝わらない言葉だろうけど、それでも普段のご主人様なら理解してくれるというのに! なんでこういう時ばっかり意図を汲み取ってくれないんですか!? わざとですか? わざとなんですか?


『(ああ、人の言葉を喋れないのが凄くもどかしいですっ…!!)』


 この銀狼として生を受けて幾年、何度か心の底から願ったことのある事を、心中で叫びました。

 不満たらたらでふてくされていると、不意に、グラッと地面が動きました。


『うぇっ!?』


 慌てて伏せると同時に、自分がご主人様の肩にいたことを思い出しました。

 …えーっと。ていうことは、今、ご主人様は歩いているという事なんでしょうか。──うん、周りの景色を確認するに、その様ですね。


『(お、落っこちるかと思いました。これでも、まだ肩乗りに慣れていないんですよ…?)』


 そりゃあ、初めよりはよっぽどバランスをとれるようになりましたから、危なっかしくは無いですけどね。


 それはそうと、一つ気掛かりがあるんです……。あの、



『…ご主人様、怒ってますか?』


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