優霊姉さん
白、ただ白い。体を起こしてみても、右を向いても左を向いても、上も下も前も後ろもみんな白い。
何もなく無機質な空間になぜおれがここにいるのかわからない。寝て起きたらここにいた、だけどなぜか焦らない。いや、逆に安心している自分がいる。
「…ごめん、太一。ごめんね」
何もなく俺以外誰も何もいなかったはずのここに後ろから声が聞こえてきた。驚いたという感情よりなぜか目頭が熱くなった、ただ一言の声に俺は嬉しさを隠せないでいた。
目を開けると俺はいつものベットで寝ていた、いつもなら変な夢だったなと思うだけなのだが俺はまるであの白い空間から一瞬で戻ってきた感覚になった。それはあの声がそう思わせているのかもしれない、あのか細く悲しそうな声。ふと時計を見てみるとそこには設定してある時間の二分前という二度寝するほどの時間では無かったが俺は無性に二度寝がしたかった、別に眠いわけではない。ただ、あの夢の続きが見たかったのだ。だがその願いもある一本の電話によってかなわなくなってしまった。
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
朝早くの住宅街、いつもなら少しも響くことのない電話のコール音が小さく弱くそして儚く鳴り響いた。
そのコール音が消えたと同時に母さんの声が小さく聞こえてきた、小さすぎて何を言っているかわからないが何か嫌な予感がした。春に入ったばっかりでそれほど暑いわけではないのに嫌な汗が出る。母さんの話し声がしている、俺は恐る恐るにいつも開けている自分の部屋のドアを開けた。まるでドアの向こうは全く違う場所があるかのように。開けた先はいつもと変わりない場所で左を見ても階段があるだけである、俺は横にあるスイッチを入れた。いつもならパチッの音を響かせるのにそれを書き消すかのように物が落ちるような音がした、俺はその音に体を少し震わしたがすぐに何だと思いドタドタと階段を下りて行った。そしてそこにいたのは受話器が落ちているのにも関わらず顔を隠して泣いている母さんとその母さんを落ち着かせようとしている父さんの姿があった。そんな二人なんてお構いなしかのように目覚ましの音が響いた。
優華姉さんが死んだ、父さんからそう告げられた。死因は事故による出血死らしい、詳しいことを聞く前に母さんが泣き崩れてしまい詳しくは分からないそうだ。母さんは泣きじゃくりながらそのことを話した、俺は泣いている母さんとそれをなだめている母さんをしり目に優華姉さんについて考えていた。優華姉さんは俺の一つ上の従姉で家が近くであったのでよく遊んだ。姉さんは運動神経抜群、成績優秀で人望も厚く昔は俺の憧れだった。だが小学生のころ、教師もクラスメートのみんなも優華姉さんの従弟であるというだけで俺に大きく期待をして俺が優華姉さんみたいになんでもできるわけでないことを知ると失望したかのような顔をして手のひらを反してきた。その時は姉さんのことを嫌いになったけどあることがあってからその関係も直った。そして姉さんは俺の初恋の人だった。
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
ギシッ安めのベッドが少し音を立てた、俺は着ている制服にしわがつくのも気にせずただ天井を見上げていた。あの後母さんが落ち着いてから父さんが電話をかけた、初めは謝罪の一言を入れゆっくり自分を落ち着かせるように何があったのか聞いていた。俺はゆっくりと二階の自分の部屋に上がっていった、姉さんが死んだ。ただそのことが頭の中で繰り返されどうにかなってしまいそうだった。少し経つと下から呼ぶ声が聞こえ俺は上ってきたときよりも心なしか遅くまるでこれから聞かされることを体が拒んでいるように感じた。そのあと聞かされたのは姉さんの事故死の一部始終だった、姉さんは死にそうだった女の子を助けたらしい。父さんはもう少し詳しく俺に聞かせるように話していたが俺が理解できたのはその一言だけだった。父さんと俺はその日は学校や会社を休んだ、母さんの様子がひどかったのと俺もゆっくりと整理がしたかったからだ。そしてさっき俺や父さん、母さんと線香をあげてきた。下で呼んでいる様だったけど俺は目をつぶった、もしかしたら俺は夢の中なら姉さんに会える気がしていたのかもしれない。
カーテンの隙間から入ってきた日の光が俺の目のあたりを照らした、一瞬だけ昨日のは全部夢だったのだと思ったが俺自身が着ている少ししわの付いた制服を見て違うのだと悟った。ふと周りを見回してみる、いつものベッドいつものカーテンそれら全てはいつもと変わらないはずなのになぜか少し色あせているように感じた。俺はそのあと朝食を食べて学校に行くのだが、今日は学校の創立記念日で祝日だった。特に何もすることのなかった俺は何となくいつもはしない散歩をしていた、適当に歩いているはずなのになぜか公園や神社など優華姉さんとよく遊んだ場所ばかりに足が向いてしまう。「太一君。」後ろから聞こえてきたのは俺の幼馴染で髪を結んでいる鈴のついたリボンが、トレードマークのさっき行った神社の一人娘だった、俺とあいつは別に中が悪いわけではないいやむしろいいほうだろう。だが、俺は後ろから呼ばれるとあの夢、優華姉さんに似た声をした人のことを思い出す。あいつは俺を気にかけているのはわかっているつもりだった、つもりだったけどそっけない、いや乱暴な言葉であいつを拒絶した。そのあと、俺は走って行ったあいつを追いかけなかった。ただずっと少し寒い風が吹く場所でじっと海を見ていた、特に何もないこの場所だけど俺にとって大切の思い出の詰まった場所だった。なぜならここは「太一。」俺がこの…なぜか後ろにいる優華姉さんを好きになった場所なのだから。
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
俺の目の前にはあり得ない光景が写っていた、少し外側にはねた茶色い髪、白くとも健康的な肌、優しそうな雰囲気の中に芯をしっかり持っているように感じさせる目。俺は昔から何度も何度も見てきたけど今では居るはずのない人物、俺の口からゆっくり確かめるようにつぶやくような声が出ていた。
「優華…姉さん。」
姉さんは俺の問いに答えるように笑った。
「よっ、元気かな。太一君」俺が困惑しているのも関係なしかというぐらいな快活さで言ってきた。俺がそれに ああっ としか答えなかったので私不満ですと顔に書いてありそうなふくめっつらをしてきた、俺はその顔が面白くて少し吹き出してしまった。普通なら目を疑ったり不思議に思ったりするのかもしれないけど俺はいつもと変わらない優華姉さんを見てさっきまでのイライラとかが全て消えてしまったように感じた。姉さんは俺が少し吹いたのに気づいたのかふくめっつらをやめて少し笑ってくれた。俺の頭あの日のことが蘇った、俺が優華姉さん…いや優華を好きになった今みたいに雲一つない空の上に一羽だけ鳥が飛んでいるあの日を。
俺はあの時優華姉さんが疎ましかった、俺がいくら努力しても優華姉さんに追いつけなくたまにいい結果を出しても他の人には優華姉さんの従姉弟だからと言われていた。もともと俺にとって優華姉さんは目標だった、だがいつの間にかにいて欲しくない存在になっていた。そんな中放課後に俺は海の見える高台で何も考えずにボーっとしていることが好きだった、こんないいところを優華姉さんは知らないただそれだけのことなのに少し自分が優華姉さんに勝てたという実感があった。だけどある日、いつもと違うことがあった。いつも俺一人のはずのところに人がいたのだ、俺はまるで自分の部屋に土足で入られたような気分になった。どんな顔か見てやると思い気づかれないように音を立てずにもし気づかれてもおかしくないようにゆっくり近づいて行った。そこにいたのは麦わら帽子で顔を隠し黄色いワンピースを着た女性だった、いや顔を隠しているというより目のあたりが見えないだけで俺の頭に一人の今この場所で会いたくなかった人の顔が頭をよぎった。俺に気が付いたのかその女性「太一、よーす。」優華姉さんはそう言ってきた、俺は感情を顔に出さないためにも平坦なこえで「姉さん、どうしてここに。いつもなら追いかけまわされてるのに。」そう姉さんは放課後毎日といっていいほど部活の勧誘や告白で追い回されているはずなのになぜかここにいる。「そういう言い方されるとお姉さん悲しいな、まあ部活の勧誘はたまに助っ人に行くってことで手を打ったし男子たちは…まあどうにかした。」どうにかってどうしたんだよ、っと突っ込むといつも姉さんのペースになるのでここは抑えて「ふーん」と返してやった。その返答に不満があったのか少し怒ったように「そう、なら誰かと付き合ってもいいんだ。そういえば今日告白してきたサッカー部の田中君かっこよかったなー」と俺をちらちら見ながら言ってきた。「そうですか、そうですか良いですね。優華お姉さんは俺と違ってなんでもできて男子からもモテモテですもんね。」俺はたっぷりとヒニクを込めて言ったが内心それが俺自身逆切れなのもわかっていた。姉さんはその言葉に何を思ったのか俺に「ばっかじゃないの」と言ってきた、いきなりなんだよと思ったが矢継ぎ早に「別に太一と私が従姉弟でも別の人間なんだから関係ないでしょ。」俺はそういわれて体に電気が走った、目から鱗だった。考えてもみなかった、いや優華姉さんから言われたからこそこんなにも心に響くのかもしれない。
「それはそうとさっきの質問の答えは」姉さんは俺が感銘受けているのもお構いなしに答えを急かしてきた、俺は「田中は確かにもてるけど女癖は悪いかな」とだけ答えた、その答えになぜか嬉しそうな顔をしながら「ふーん」と言ってきた。いきなり俺の手を取って「帰ろ、おばさんに晩御飯の御馳走をしてもらうんだー」そういいながら笑顔で引っ張ってきた。俺はその笑顔を見た瞬間鼓動が早くなった。
俺はその時からずっと告白したかった、『好きだ』って言いたかった。でも、いつも近くに優華姉さんがいつも隣にいてくれただから内心怖かった、この関係が崩れるんじゃないかって。だから俺は告白できずにいた、姉さんが死んだときは後悔したよ。あのとき告白しとけばってな、でも…今ならできる姉さんに好きだって伝えれる。姉さんに最後でいいから、好きだって…今までの思いを伝えたい。だから、いるなら神様今だけでいいから俺と姉さんとの時間をください。
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
姉さんは笑顔から少しさびしそうな顔になっていった、俺は姉さんが何も言わなくても何となくわかった。『怖い』。普通なら確かに死んだはずの姉さんが見えてたら怖いだろうし姉さんも怖がられるのが怖いだろうだけど俺は「姉さん、俺は姉さんが怖くない。だって優華姉さん…いや優華俺はお前が好きだから。」姉さんいや優華は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして何を思ったのか優華の左手をゆっくり俺の首に添えて動かなくなってしまった、俺はこの急展開についていけずにいると優華は俺を少し引き寄せて…デコピンをしてきた。俺はいきなりのデコピンに驚いているのにそんなのお構いなしに「あほか、太一。私はもう死んでるんだよ、それなのに未練残すようなことを言うな。私を成仏させたくないのか。…だからさ太一の告白は受けれない。」優華はまくし立ててそう言ってきて告白を拒否されたときに自分でもわかってしまうほど落ち込んだ。それをしり目に優華は振り返って俺に背を向けて「…もしね、私をいつまでも好きっていうのなら私の死んだ日に毎年線香をあげなさい、大学にいっても、就職しても結婚しても、子供ができても、おじいちゃんになってもずっどき゛な゛さ゛い゛。」優華の声は途中から涙声になっていき俺は振られたことの悲しさより自分の心の弱さに苛立ちさえ覚えた。優華は俺のほうを向いて少し赤くなった目で見てきた、それと同時に優華の体が少し光り出していきゆっくり優華の体が透明になっていった。「…もう時間みたい行かなくちゃ。後、太一最後にあえてよかった。ありがとう、そ…し……て…●●●●。」姉さんの声は最後聞こえなかったけどわかった バイバイ それが姉さんが俺に最後に言ってくれた言葉だった。
ギュウ 後ろから抱きつかれた、少し遅れて鈴の音が聞こえてきて「泣いてもいいですよ、太一君。」俺は彼女にそう言われると感情が抑えられなくなり泣いてしまった、振られたことも自分の運のなさにも呪い泣いた。俺は彼女がいなかったら自殺していたかもしれない、そういう意味でも「ありがとう、北斗」
そして俺の人生はまた進んでいく。