♯002 デビル
「おかえりなさい、貴方。ご飯にする? お風呂にする? それとも……」
「チェンジで」
自宅の玄関で三つ指を付いていた見知らぬ少女を見て、信吾は迷わずそう言い、ドアを閉めた。
「うぬう!? 地獄ではこれが人間を懐柔させる一番の方法だと教わったのに!?」
家の中から聞こえてくる謎の少女の声を聞き流しながら、信吾は大きくため息を吐いた。
家の鍵は閉まっていた筈だ。
更に両親が既に亡くなっている為、鍵を持っているのは信吾のみ。
つまり玄関で三つ指を付いていたあの少女は、不法侵入ということだ。
しかし、見た限りでは、少女の年齢は小学生高学年程度。良くて中学生だ。鍵破りの技術があるとは到底思えない。
それに、先ほど少女が叫んだことが、信吾にはどうも気になった。
『地獄』『人間』
確かに、彼女はそう言った。
――何かしらの頭の病にかかった人だろうか。
だとしたら、今すぐ通報しなくてはなるまい。
信吾はポケットの携帯電話を握りしめながら、再び扉を開けた。
「……ム? おお、先ほどの人間か。どれ。遠慮することはない。上がれ」
まるで我が家のようにふるまう、謎の少女。
もしかしたら、自分が家を間違えてしまったのだろうか。
信吾は突然不安になり、一度ドアを閉め、表札を確認した。
だがそこには間違いなく、『黒崎』の二文字。
つまり、間違いなくあの少女は不法侵入者で、自分は‘被害者’なのだ。
「いや、誰だよ」
自分が正しいことを確認し、ドアを開け、少女に問い掛ける。
少女は『何を言っているんだコイツは』という目で信吾を見た後、胸を張って叫んだ。
「私はロキ! 恐れ多くも悪魔軍第一小隊の隊長だ!」
「あ、そうですか」
間違いなく、彼女は変な病気を抱えた不法侵入者だ。
おそらく、どこかの窓を割って侵入したのであろう。
そう考えていたことに気付いたのか、少女は不愉快そうに顔を歪め、
「貴様、信じていないな?」