♯001 バッド
黒崎信吾は、巷では有名な不良である。
トレードマークは、紅い髪に咥え煙草。そして、高校生とは思えない、その体系。
全てが筋肉で出来ているとも思える彼の身長は、平均の高校生のそれを軽く凌駕している。
そんな彼は現在、体育館の裏で自身の配下にいた不良たちに囲まれていた。
所謂、下克上というやつである。
信吾一人に対し、彼に反旗を翻し、各々凶器を片手に円を作る敵は、六人。
誰がどう判断しても、信吾が圧倒的に不利な状況である。
だが、彼の口元には、気味の悪い笑みすら浮かんでいた。
「黒崎さん。アンタが入学した時から俺ァずっとナンバー2としてアンタの下に付いてましたが、もう我慢ならねェ」
その‘反逆軍’のリーダーとも呼べる男が、信吾にそう口を開いた。
八坂雄二。信吾が入学してから初めて彼に喧嘩を売った相手でもあり、同時に、信吾が初めて支配下に置いた人間でもあった。
因みにだが、彼は信吾の一つ上の学年、三年だ。
「俺はお前の嫌がることをしたつもりは無いんだがな。……何か気に障ることがあったなら、謝るよ。だから、その木刀を置いてはくれないか?」
信吾は未だ薄ら笑いを浮かべたまま、雄二にそう問い掛けた。
信吾の眉間に、恐ろしいほどの皺が刻まれる。
「俺らが気に喰わ無ェのは、黒崎さんのその態度でさァ。……まったく、この高校のアタマらしく無ェ。正直、甘っちょろいんですよ、アンタ」
「避けられる喧嘩を避けて、何が悪い? 謝って許してもらえるなら、それが一番だろう?」
信吾のその言葉に、雄二は舌打ちで返事をした。
沈黙が、七人の間に鎮座する。
それを破る合図は、信吾の咥えた煙草から落ちた、灰だった。
それが、サラリと地面に落ちるのと、ほぼ同時。
「黒崎さん、悪ィけど……ウチの番長の座、返して貰うぜ!」
六人が、それぞれの武器を振りかぶった。
それらの向かう先は、間違いなく信吾にある。
だが、信吾は依然として、両手をポケットにしまったまま、雄二を睨み続けている。
無論、口元に笑みを携えて、だ。
「‘石沢の悪魔’ァ!! その首頂くぜェ!!」
雄二が、勝利を確信し、木刀を振り下ろす。
が、その手に勝利の感触は無かった。
刹那、驚きを隠せないでいる雄二の腹部を、体験したことの無いほどの衝撃が襲い掛かる。
「――ッ!?」
そこにいたのは、間違いなく、黒崎信吾である。
信吾は六人の襲撃をいとも簡単に回避し、強烈な一撃を、雄二の腹部に叩き込んだのである。
雄二はまるで後ろから引っ張られているかのように飛び、壁に叩き付けられた。
「さぁ……次は誰だ?」
指を鳴らしながら、信吾がたじろぐ五人に向けて問うた。
「う……うあああああああああっ!?」
五人のうちの一人。
先月信吾の支配下に入ったばかりの新入りが、錯乱しながらその手に持った金属バットを振りかぶった。
信吾はその姿を見て、溜息まじりに、両手を広げる。
「な……!? アイツ、まさか新入りの一撃を受け入れるのかッ!?」
四人のうちの一人が、未だ何もしない信吾を見て、驚愕の声を上げる。
「死ねぇぇぇえええッ!」
半泣きの新入りが、そのバットを振り下ろすのと、同時。
信吾は、その固く瞑っていた眼を大きく開き、右手でそのバットを弾き飛ばした。
「焦るなよ、雑魚」
信吾は余裕の笑みを浮かべ、そう新入りに言った。
ペタリと、新入りが地面に足をつく。
「腰が抜けたか? 新入り」
そう問い掛ける信吾の目に浮かぶのは、侮蔑。
雑魚に興味は無いとでも言うように、信吾は右足で、新入りの顔面を蹴り飛ばした。
「――さて、そろそろ飽きたな」
退屈そうな瞳で、信吾はそう呟いた。
彼の圧倒的強さに恐怖を抱いた四人がたじろいだ、その刹那。
不意に、信吾の姿が消えた。
否。見えなくなったのだ。
次の瞬間には、四人は気を失い、地面に伏していたのだ。
「口ほどにもないな。もっと力を付けてから挑みに来い」
そう言って、信吾は雄二の顔に、既に半分以下になった煙草を吐き捨てた。
しんごの一連の行動を見つめていた‘そいつ’は、口元を歪め、にやりと笑った。
彼が。
彼こそが相応しい。
そいつはそう零すと、足音も立てず、その場を立ち去った。
てな感じで、始まりました、デビル×バッド。
……とはいいましても、書くことはあまりないので、ここで主人公の容姿説明でも。
黒崎信吾(17)
短い紅い髪と咥え煙草がトレードマーク(因みに銘柄はブライト・10)
喧嘩無敗で、‘石沢の悪魔’の異名を持つ。
因みに、石沢は彼が番長を務める学園の名前。
意外と正義感が強く、容姿も端麗な為、実はファンクラブが存在していたりする。
……以上です。
続いて、次回予告をば。
え~、次回、邂逅編『デビル』
それでは、また次回、お会いしましょう。
アデュー。