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聖魔戦士オルフェウス

 次世代ヒーローアクションゲーム『聖魔戦士オルフェウス』テストプレイヤー大募集!

 マスターみらこが作成したアクションステージを、チートレベルの主人公『オルフェウス』になってクリアするだけの簡単なお仕事です! 時給3000より!

 詳細はTEL:0120-481ta-game


 という手書きポスターが通学路の電柱に張られていたので、夏休みに突入して暇を持て余していた俺はその場ですぐ携帯で電凸した。

「お電話有難うございます! 『聖魔戦士オルフェウス』テストプレイヤー採用係のミラコです!」

「あの、実はいまプレイヤー募集の広告を見――」

「おめでとうございます! 厳正な審査の結果、貴方はオルフェウステストプレイヤーとして採用されました!」


 厳正な審査の結果口頭で採用通知された俺は、そのまま早速テストプレイに付き合って欲しいとのことだったので、自宅にも寄らず指定の場所に直行した。

「わぁ! 先程お電話頂いた方ですね!? 初めまして! ゲームマスターのみらこです!」

 ペコリ、と頭を下げてくれたのは、ダボダボの白衣と大きな黒フチ眼鏡をかけた小学三年生ぐらいの女の子だった。ていうか声的にさっき電話した子だった。

「どうも初めまして。テストプレイヤーの真澄ますみです。あの、みらこさん?」

「何ですか!? 私の事ならみらこで良いですよ!」

「えっと、洗脳デバイス的なヘルメットを持って目をキラキラさせてるところ大変申し訳ないんですけど、いっこ質問良いですか?」

「あ、はいはいなんなりどうぞ! ちなみにこれはゲーム用ヘッドマウントディスプレイであって、断じて人命を危険に晒すような如何わしいアイテムじゃないですよ? ハァ……ハァ」

「えっと、このハイテクっぽい研究所に入ってここに来るまでの廊下でですね。タンカに乗ったミイラ男と擦れ違いまくったり、カプセルルームから断末魔めいた声が聞こえたりしたんですが。何ですかあれ」

「禁則事項です。それより早くオルフェウスのテストプレイを始めましょう! 時は金なりです! さぁ、まずはそこのリクライニングシートに寝転がってこの精神強制転――シツレイ噛みましたヘッドマウンドディスプレイを装着して下さい!」

 指示された通り、手術台とマッサージチェアを組み合わせた様なシートに寝転ぶと、みらこさんはせっせと俺の手足をベルトで固定し、何か色々なプラグや配線を繋ぎ、最後に頭にスッポリとさっきのヘルメットのようなものを装着した。視界が真っ暗になる。

 カチャチャチャチャッターン! っという高速タイピング音のあと、クゥオオオンっというモーターが高速回転するような駆動音が鳴り、シートが振動し始めた。

「あの、何か大がかりなゲームなんですね。それから俺、まだ具体的にどういうゲームなのか聞い――」

「準備は万端ですね! では行きます! 出力最大! 生命維持装置解除! 精神吸引開始!」

「え、いま命に抵触しそうなフレーズが――」

 と、急に頭から中身をバキュームで吸われるような感覚が襲いかかり

「おおおお!?!?!? す、吸われる吸われる吸われる!?」

「真澄さん逆らっちゃダメです!!! 逆らったらダメです!! 逆らったら死にます!!」

「えぇえええええ!?!?」

 気がソレた途端、俺は極彩色のイルミネーションの中をジェットコースターのように駆け巡った。

「ぎゃぁあああああ!!!!」

 キィイイインともはや耳鳴りの様な駆動音。あまりの超スピードで熔解して見えるイルミネーション。回る回る世界が回る!

「ぎゃぁあああああ!?!?!?」

 溶ける溶ける世界が溶ける。溶けまくる!

「オルフェウス接続完了!!!」

 閃光が視界で弾ける! 全身が何かを突き抜けた様な感覚!

「やったー!! 2341人の犠牲者を出して初の成功です!!!」

「えぇええええ!?!?」

 と絶叫してハタと気付いた。俺は何もないモノトーンの世界に、フワリと立っていた――否――浮いていた。


『テストステージに接続しました。聖魔戦士オルフェウス、起動します』


 クリアな女性ボイスが聞こえた時、身体を包みこんでいる赤色のユニフォームに気付く。安っぽく言えば子供向け戦隊ヒーローの『レッド』という感じだった。


『ペルソナ適合率……。100パーセント。 基本運動技能ベーシックアクションスキル……インスートル終了。近接戦闘技能クロスコンバットスキル……イントール終了。オールグリーンです』


 女性の声が止んだ時、スゥと静かに、足が地に着いた。

「あの、真澄さん!」

 どこからか、否、世界そのものからみらこさんの声が響いてきた。

「先に断って置きますけど、ゲーム終了時に副作用が出るかもなんで御覚悟です!」

「断るタイミングを著しく逸してませんか!?!? ていうかさっきから初体験の連続で不安全開なんですが!?」

「大丈夫です!! オルフェウスはそのくらいではクジけません!!」

「オルフェイスじゃなくて俺がクジけそうなんです!! ていうかどんな副作用が起きるんですか!?」

「具体的に言うと」

 具体的に言うと何なんだ一体。俺の頭を不安となって過るのはタンカのミイラ男やカプセルルームの断末魔。

「何が起きるか見当も尽きませんがあまり嬉しくない事は確かです!」

「怖くて現実に帰れないです!!」

「副作用はこの際クリア後のお楽しみと割りきっていきましょう!!」

「みらこさん! 貴方人の命を何だと思ってるんですか!?」

「とりあえずクリアしたら戻れますのでサクっとクリアしちゃいましょう! これも世界を救う為です!」

 世界を救う!? という疑問の声をあげようとした時、モノトーンの世界の中央に突如として人型の怪人が現れた! 二足歩行のザリガニみたいな恰好で、大きなハサミを開け閉めしてフォッフォッフォッフォと笑っている!

「デルトラマンに出てくるバスタン星人をパクってきました!」

「アッサリ認めた!! このゲームちゃんと市場に出られるの!?」

「そんなことより戦って下さい真澄さん! いえ! 戦って下さいオルフェウス!」

「え、でも戦えって言われても 俺そんな格闘技の経験とかないし……」

 俺は急に弱気なってしまった。

「子供の頃に見たヒーローものを適当にイメージして再現してみて下さい! デルトラマンとか!」

「ヒーローまでパクんの!?」

「残り時間がもうありません! 急がないと真澄さんが『危ない』です!」

「俺本体が危ないの!?」

「さっきから真澄さんの寝顔を見ているのですがラピットアイムービングがハンパないです! これは早くクリアしないと確実に『危ない』です!」 

「くそーー!!!」

 ヤブレカブレで突っ込んで行くとザリガニ怪人がカウンター気味に殴りかかって来た! やられる! と思ったが俺の身体はスルリとそれをかわし

「ハ!」

 気付けば鮮やかなサイドキックを放っていた! 腹を打たれた怪人は特撮ヒーローものの御約束、力学を無視して放物線を描いて吹き飛んだ! 自分の動きに唖然となるのも束の間、すぐさま立ち上がった怪人が猛然と突っ込んでくる!

「フォッフォッフォ!」

 突き出されるハサミのパンチ! 俺は左手で裁いて右でカウンターを叩きこむ! ヨロめいた相手にジャブ! ボディ! フック! アッパー! 既に浮いてる相手にトドメのスピンキック! 再び吹き飛ぶ怪人! おお、スゲーぞオルフェウス! 燃えて来た燃えて来た!

「さぁ最後は必殺技で倒すのがヒーローの定番です! 貴方がイメージする一番かっこいい必殺技を再現して下さい!」

「OK!」

 もはや俺はノリノリだった! ここまでくればデルトラマンで決めざるを得ない! そしてその象徴的必殺技と言えばもちろんスペシネフ光線! 胸の前で腕をクロスさせ、その中央から稲妻の様なビームが迸るのをイメージする! そして発射の掛け声!

「せや!!」

 爆発して稲妻の様に吹き飛んだ! 俺が! なんで?

「あ~~~!! オルフェウス!! どうして教えてもいない自爆機能とか使っちゃうんですか!?」

 そんなの最初に教えて下さいよ!? ていうか何でそんな不必要な機能が搭載されてるんですか!?

 派手に地面を転げていく中、手で大地を打って跳躍して姿勢を整え、そして再びファイティングポーズ! まだギリかっこいいぞ!

「必殺技名を間違えると次はリアルに真澄さんが『危ない』んでマジメにお願いします!!」

「そういう重要事項は先に教えて下さい! お願いします! ていうか本気で必殺技教えて下さい! オルフェウスは何が使えるんですか!?」

「聖魔神剣オルフェウスを召喚して下さい!」

 怪人が起きあがって襲いかかって来た! 俺はヤツを迎え撃つ!

「その剣はどうやって召喚するんですか!? 教えて下さいみらこさん!」

「『聖魔戦士オルフェウス』のテーマソング『帰って来たオルフェウス』をサビまで歌えば出現します!」

「なんでそんなヤヤコシイことしたの!?!?」

 バスタンのハサミを白刃取りしつつ俺は尋ねる!

「ていうかそんな歌知りませんよどうやって歌えって言うんですか!?」

「大丈夫です! メロディは『帰って来たデルトラマン』と同じで、歌詞はデルトラマンの部分をオルフェウスに変更したら完璧です!」

「完璧に著作権法違反だよ!! 俺達の敵はもはやジャツラックですか!?」

「ちなみに音程一回外すごとにオルフェウスの刃は短くなるのでその辺り気を付けて下さい!」

「だからなんでそんなヤヤコシイことしたの!?!?」

 横殴りのハサミをかわしつつ俺は足払いをかける! バランスを崩して倒れた怪人! よし今がチャンスだ! 俺は息を深く吸い込んで

「君にも見えちゃう オルフェウス星 遥か彼方だ 地球にゃ一人 怪獣退治に使命をかけ――ぶ!」

 バスタンキックが股間にヒットして悶絶するオルフェウス! フォッフォッフォと立ち上がる怪人! くそ~、今は痛みに負けてる場合じゃない! と、手を見れば歌は中途半端だったが確かに聖魔神剣オルフェウスがあった!

 ただし柄に限る。

「みらこさん柄打ちで討伐しちゃダメですか!?!?」

「ダメに決まってるじゃないですか貴方それでも聖魔戦士オルフェウスですか!?」

 俺はただのテストプレイヤーです!! 内心で突っ込みながら怪人に聖魔神剣オルフェウスの柄を投げつけ、それをフェイントにしてローリングソバットで怪人を吹き飛ばした! いちいち放物線で飛んでいく!

「きちんと最後まで歌を――って、ああもう時間がない! こうなったら必殺技その2です! バスタン星人に聖魔戦士オルフェウス秘伝必殺最終奥義の『腕ひしぎ逆十字固め』を決めて下さい!!」

「ものすごく普通のプロレス技じゃないですか!! そんなんで怪人タッピングさせて勝っても良いんですか!?」

「今はしのごと言ってられません!! 早くそのザリガニの腕をもいで下さい!」

「ものすごくイヤな言い方するな!?!?」

「真澄さんがもう『危ない』!!」

「ええい!!」

 自分の窮地ならば是非も無い! 俺は倒れているバスタン星人に飛びかかってそのオオハサミを両手で掴み! 

「せい!!」

 足を肩口に絡めて絶叫する!!

「聖魔戦士オルフェウス秘伝必殺最終奥義『腕ひしぎ逆十字固め』!!!!」

 その瞬間、やっぱり特撮ヒーローものの定番フィニッシュとして――――

「フォー!!」

 ぼこおおおおおおおおん!!!

 と、バスタン星人は謎の大爆発を起こし、オルフェウスもそれに巻き込まれて黒焦げに成った。


「っぷは!?!?」

 プールで溺死寸前の状態から水面に顔を出しかの様に蘇生した俺は、まず真っ暗闇の世界にいた。

「おかえりなさい真澄さん!!」

ヒドい話です。きっと熱中症にかかったんでしょう作者は

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