事の始まりはここから
お、お久しぶりです…汗
あまりの忙しさに結構な時間がたっていました…
それにもかかわらず、お気に入り登録して下さったかた、ありがとうございます(T ^ T)
完結まできちんと書くつもりですので、よければこれからもよろしくお願いします
真夜中、明かりも付けずに真っ暗な部屋の中でソファに向かい合って二人の青年が座っていた。
「どんな感じだ?」
「まだわかっていません」
「そうか…」
「すみません」
「気にするな。監視が多い中、逆によくここまで頑張ってくれたと言いたい位だ。しかし、情報を集めるのも一苦労だな。誰が味方で敵なのかが判別できれば、少しは楽なのだが」
「じゃあ、良い情報あげようか?」
「?!誰だ!!」
「なぜ?さっきまでいなかったのに…」
「ふふふーどうしてでしょー?」
「なめやがって…」
「キャー怖い」
「…殺す」
「待て、こんな所で本性を出すな!私の部屋だぞ!」
「ちっ」
「遊ばないの?ざんねん」
「それで?情報とは?」
「あらー、意外と冷静?つまんなーい」
「あからさまな挑発にはのらない。で、情報をくれるのか?くれないのか?」
「ぶー、もっと動揺してくれればいいのにー。まぁいいや。あのね、明日の午前三時。ここから南に10キロ行った山奥の中の隠れた屋敷。調べて覗いて見たら?」
「「は?」」
「それだけ!じゃねー」
そこまで少女は言うと、長い髪をたなびかせながら、閉まっていたはずなのになぜか空いている窓から外に出て下へ飛び降りた
「なっ?!ここは6階だぞ?!」
慌てて二人が窓から出て、バルコニーから下を覗くも、そこにはすでに人影は無かった
「…一体、何者だったんでしょうか?」
「さあ、な」
「さっきの情報は本当ですかね?」
「調べて損はない。三日後というのが気になる。急いで調べろ」
「罠かもしれないのに?」
「それでも、だ」
「…わかりました。では、」
「待て。先ほど少女はラストに覗いて見たら?と言っていたよな?」
「確かに言ってましたね。…潜入捜索のことですかね?」
「その可能性があるな。潜入捜索の準備も
並行して行うぞ」
「わかりました。屋敷の調査と準備の手配を
します」
「お前は屋敷の調査と人手だけでいい。武器の手配はこちらでしとく」
「わかりました。頼みます。では、私はこれで」
「ああ」
そう言い、男が足早に部屋を出て行くと、もう一人は夜空を見上げる。そしそこには暗雲な雰囲気が漂っていた部屋とは逆に綺麗な星空が広がっていた。そしてその下に広がる森を一瞥すると、部屋に戻りカーテンを閉めた
* * *
「準備は?」
「出来てるぞ、もちろん」
「あとどの位で始まる?」
「一時間ちょいだろうなー」
「彼らは?」
「多分…来る。侵入するための準備してたのを…見た」
「そう。良かった。のってくれたのね」
「彼らは今八方塞がりの状態でしたから。藁にもすがる思いでしょうね。それにしても、この前の演技は面白かったですよ。悪戯好きな少女でしたね」
「…白、やっぱりみてたのね?」
「私たちだけでなく、他の三人ともみてましたよ」
「覗き?」
「まさか。何かあった時に対応出来るように見張っていたのですよ」
「ものはいいようね。まぁ、いいわ」
一つため息をついたシャルは前方の屋敷の方に向き直った。シャルと黒たちは今、屋敷からそう離れていない木の上に潜んでいる。下手すれば屋敷の見張りに見つかるが、全くと言っていいほど見張りのものたちはこちらに気付いていない
「じゃあ、私と朱は行くわ。後は任せる」
「ああ、奴らが来たら俺が見とく」
「彼らの好きなようにさせといて。あの人たちが来た時に会えるように誘導はして欲しいけど」
「了解した」
クローゼンが頷くのを見た二人は、そのまま木々の間を走って行きあっという間に姿を消した
それからしばらくして、ずっと目をつむって立っていた青が目を開け東に顔をやった
「…来た。ここから東に1キロ」
「わかった。行って来る」
「私たちも移動します」
「ヘマするなよ」
「そちらこそ、彼らに尾行をさとられないように気を付けて下さい。…一人、この前私達が伺っていたことに気付いていましたよ。さすがにどこからかはわかっていないようでしたが」
「ああ、わかってる」
そう言い残して去って行った黒を見届ける。
「さて、この国の王子様とその側近は
どこまでできるのでしょうかね」
「…。彼らは、頑張るしかない。彼らが、この国の…最後の良心だ。彼らが死んだら…」
「この国は終わりでしょうね。なるほど、崖っぷちだからこその踏ん張りですが。面白そうだね、ふふっ」
「…遊んじゃ、だめ」
「わかってますよ。信用ないなぁ」
「ハァ…。いいや、行こう」
「はーい」
二人は目を交わすと、枝を全く揺らさずに屋敷の西に向かって行った
「ストレートフラッシュ」
「くそっ」
「何でさっきから貴様だけそんなに良いカード持っているんだ?!イカサマしてるじゃなかろうな?!」
「何をいいがかりを…。しているところを
見たのですか?証拠は?」
シャルたちが屋敷の中に紛れ込んでから、30分ほどたったころ、カジノを開いている部屋の中、ポーカーをやっている場所で、見た目麗しい一人の男が揃ってでっぷりと太り派手に着飾った三人の男を相手に一人勝ちをしていた。先程から全く勝てないために、そのうちの一人は我慢を迎えたのか立ち上がり指差しながら、わめいていた
「ふん、さっきからお前しか稼いでいないのが証拠だろう!そんなことありえるわけないではないか!」
「こじつけはやめていただけませんかね?自分が負けているからといって、あたらないで下さい」
「な、バカにしおって!わしを誰だと思っている!」
「あまり、世情に聡くなくて…。そこまで特徴のある顔でもないですし、似たような体型の方も多いですから。すみませんが、わからないですねぇ」
「な、な、な…」
あまりの慇懃無礼さに男が顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせるのを見て、男は綺麗な顔でクスリと笑った。何を騒いでいるのだろうと見ていた観客の中にいる女の人たちはその微笑みにほうっと見惚れた
「まるで鯉のようになってますよ?」
しかしながら、紡がれたのはあまりな言葉で男の限界に来たのか、衛兵!コイツを捕らえろ!と、唾を撒き散らしながら叫んだ。呼ばれた衛兵たちは素直に綺麗な男の横に立ち腕を掴んで立たせた
「おやおや、物騒な…」
「お前がイカサマをやったのはわかっている。これからたっぷりと反省してもらおう。連れて行け!」
ふん!と鼻息あらく踏ん反り返って男は言うと、取り巻きを連れて去って行った。一方捕まえられた男はやれやれと首を振って大人しく連れていかれた。乱暴に引きずられながら、部屋を出てしばらく廊下を歩き、ある扉の中に入ろうとするとようやくその男は反論した
「本当にしてないのですがねぇ…」
「はっ!ここでは、あの方たちが法律なんだよ!ほら、さっさといくぞ!」
反論も意味なさないその態度にため息を一息つくと、曲がり角をチラリと見るとそのまま扉をくぐった。その部屋にはものが一切無く、もう一枚向かい側に扉があるだけだった。更にその扉をくぐると、そのにはポツリと下に下がる螺旋階段があった。中を覗くと結構ね段数がある。その長い階段を降りてまたもや扉をくぐるとそこは薄暗い廊下が広がっていた。その廊下の両脇に等間隔で扉がある。そこを進むと、嫌な臭いが鼻を刺激した
(これは…)
よく耳をすますと扉の中から悲鳴やうめき声が聞こえる。男が顔を顰めると衛兵がお前があの部屋に入るのはいつだろうなぁ。と下卑た顔で笑った。そのまま進み突き当たりにある扉をくぐると、そこには地下牢があった。その1つに男が突き飛ばされいれられると、ガチャンと音ともに閉められ、兵たちは去って行った
足音が全く聞こえなくなると、その男は扉から視線を外し、辺りを見回した。向いの牢屋を見るとボロボロの中年男が入っていた。他には無残に服が破けてすすり泣く女の人や小さな子供まで色々な人が入れられている
「ここが…」
酷い臭いげ鼻につき、顔を顰める。そして、目に入る人々の姿にさらに渋面な顔になる。そして気分をかえるために一回頭を振ると、口元に手をあて口笛を吹くようにした。けれども音は全く出ていない。ところがしばらくして、男の頭上からカタンと音がした瞬間、誰かが飛び降りて来た。飛び降りた者が男の背後に近寄ると、その者と言葉をヒソヒソと交わし、何かを手渡される。背後の者が頷き、頭を垂れたあと天井に戻ると立ち上がり手渡された鍵を使ってその牢屋を脱出した。また、鍵と一緒に渡されたこの屋敷の地図を見ると所々部屋に印がついている。その部屋を全部確認すると男は音もなく走り出した。
「リバィアンはそろそろ始めた頃だな…」
側近のリバィアンが牢屋から出た一方同時刻、王子様の方は屋敷の中を歩いていた。リバィアンが扉の中に連れていかれるのを見届けた後、屋敷の中で催されているイベントを一つ一つ見てまわっているのだ。リバィアンには、この屋敷の捜索を頼んでいるので、自分は催し物を確認することになっている。回ってみると、この国はここまで堕落しているのかと目の当たりにすることばかりだった。普通のダンスパーティーでさえよくみると所々麻薬の取引をしていたり、入るのにチェックが厳しい扉の中では違法賭博などが行われていた。その一つを見ながらも、表ではずっと微笑を浮かべてまわっている彼はーーー
魔法によって顔を平凡に変えてもらっているので、上手く周囲にとけていると、思っていた
「上手くまぎれているな、第二王子、サディアス・ル・フルール様?」
「なっ」
「おっと、振り向くなよ。目立つ行動も控えてくれ。ばれて困るのはそちらだろう?」
「何の用だ」
「ここではなく、部屋から出て人ないないところまで進んでくれ」
ちっ、と舌打ちをするもばれて困るのは確かにこっちなので大人しく部屋を出て、突き当たりの階段の裏にまわり向き直った
「それで?一体、何の用だ。お前はこの前、私の部屋に少女が侵入したときに遠くから様子を伺っていたやつの一人だろう?」
「やはり気付いていたか」
「わざとらしい。わざと気付かせただろう」
「いや、ある程度は気配がよめないとわからない程度にしか出していない。それ以下ならあいつは心配ないからな」
「…」
「そんな怖い顔しないでくれ」
「御託は良い。さっさと本題に入れ」
「そうだな。どうだ?色々と見付かりそうな屋敷だろう?」
「ほればほるほど、きな臭い話が沢山出てきたな」
「もう一つ、君たちにプレゼントを与えようと思ってな。会った方が良いやつらがいてな。会うか会わないかは任せるが、会うなら案内するぞ」
「…わかった。案内してくれ」
「随分とあっさりだな?」
「元々罠だと覚悟して来ている。行くことで何かが変わるなら危険もおかすさ」
「良い心構えだ。案内する。ついてこい」
その言葉に従いサディアスがついていくと、ある部屋を横切り、階段を昇り降りし、しばらく歩いた。ようやくある扉から出て止まったと思ったらそこは外だった
「なぜここに」
「しっ。…耳をすませてみろ」
「?…」
『向こうに通用口があったぞ』
『一通り中を見てみたが、見える場所には下に降りれそうな階段は無かったぞ』
『探すしかあるまい。元よりそのつもりだったはずだ。よし、皆準備は良いな。中に入ったら予定通り三つに別れるぞ。絶対、全員見つけて帰るぞ』
こっちに来るな。あそこの草むらに隠れるぞ」
「ああ」
二人が草むらに移動した後、通用口前に人影が現れ、中に入って行った
「やつらは攫われた人を取り返しに来たんだな」
「ここからそう遠くない領地の者たちだ」
「あの者たちと私を会わせてどういうー…、待て、領民にしては身のこなしは綺麗だった。ということはやつらは、騎士か!」
「ご名答。領民からの訴えを聞いた領主が騎士を使ってようやくこの屋敷を見つけ出し、とうとう侵入したってわけだ」
「…」
「どうした?」
「随分、都合が良いなと思ってな。私たちは味方となる貴族を一人でも多く探してはいるが、行動が見張られているために情報を集めるにしろ、連絡をとるのも一苦労な状態だった。それがここ何日か見張りが薄くなり、あまつさえ、先ほどの貴族の件だ」
「…で?」
「こんなことをして、どんな利益が手に入るんだ?」
「言っとくが、強制はしない。やるかやらないかは任せる。俺はもう行く」
「待て、まだ質問の」
「罠かもしれないのに、覚悟を決めて来たんだろう?今更、心が変わったのか?」
「それはない!」
「では、自分のできることをしたらどうだ?じゃあな」
そのまま森の中を歩き出した姿に一瞬躊躇うも、視線を剥がし屋敷の方へ向かうが、ピタリと止まり振り返った
「感謝する!」
そして屋敷の方へ走り出し、中に入っていった
一方歩いていた男、黒は逆に止まり閉まった扉を見て少し笑うと一瞬でその場から消えた
「王子様が合流したぞ」
「じゃあ始めましょう」
「よっしゃ、やりますか!」
「本当にやるのか?力技過ぎるだろう」
「跡形も無く痕跡も残らない。こんなに手っ取り早い方法は無いでしょう」
「そうだが…」
「黒は気にしすぎる所があるからなー。俺がやるんだから、死人が出るわけ無いだろう」
「嘘をつくな。屋敷関係のやつらは別なんだろう」
「嘘じゃないって。やつらは人間じゃないんだから。死人じゃなくて…なんだ?」
「私がわかるわけないでしょう。でも、彼らの中に死人が出ないと不自然でしょう。牢屋の中の人達の死体は用意してても彼らのはないのだから」
「と言ってもすぐに逃げれば死なないだろうけどなー。死ぬのは金とかを取りに戻ったりするやつらだろ」
「そんなやつらにまで、情けをかける必要はない。ってことか?」
「違うのか?」
「いや、否定はしない」
「違うわよ、朱。黒が懸念してるのは建物が燃えることで周りに出る被害の心配でしょう?」
「ああ、木とかに燃えうつるかもしれないからか。でもなー、木が燃えてない方が不自然だろうなぁ」
「根っこは守って、木が死ぬ事はないように配慮するって青たちが言ってたわ」
「ああ、そうなのか」
「ええ」
「話がまとまったなら始めるぞー」
「私は行くわ」
「いってらっしゃい」
「…あの格好似合ってるな」
「大丈夫!青に記録とらせた!」
「よくやった」
「おや、美しいお嬢さん。見かけない顔ですが、どこの方でいらっしゃいますか?」
「あら、ありがとう。でもレディに名前を聞く時は、そちらから名乗るのが礼儀ではなくて?」
「これはこれは、失礼しました。あまりの美しさに魅入られてしまっているようです。改めて、フォンドル・ゲヘナーでございます」
「ということは…」
「ええ、この屋敷の持ち主ですよ。それでお嬢さん…お名前をお教えいただいても…?」
そっとフォンドルが手を握ってくる。それを自然に外しながら、内心叫び声をあげていた
(気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!なに、この脂ぎった顔に手!そんなベトベトのくせに触って来ないでよ!ってか、私の見た目は16位なのよ!政略で年が離れた結婚がよくあると言っても、わざわざ自分から声かけるとか自信過剰すぎる!一回鏡で顔見てきなさいよ!その顎何重なの?!もう、無理無理無理!!さっさと終わらせよう!)
「リア、と申します」
「リア嬢ですか、可愛らしい名前だ」
「ふふ、ありがとうございます。ところで伯爵様?私、ここにはあることが楽しみで来たのだけれど…どうやら招待状が無いと入れないみたいで…」
悲しそうな顔をして俯くと、伯爵は私がご案内いたしますよと、手を引いて歩き始めた
「おやおや、まだお若いのにもうそちら側に興味が?」
「そんな意地悪おっしゃらないで。私よりも年が若いこもおいでになるのでしょう?」
「そうですなぁ。全く、誰にでもお聞きになったのですかな」
「あら、楽しいお話はあっという間に広がるものでしょう。ましてや、規模が大きいんですもの。さすがにお一人でここまで大きくなさったわけではないのでしょう?」
「陛下を始め、王族の方々は既に力を失ってるとはいえ、あまり表立ってできないものですからねぇ。苦労しましたよ」
「それでもここまで大きくなさることが出来たんですもの。あなた様を始め、みな頭が回る方々なんでしょうね。そういえば、私が知ってる方なんでしょうか?」
わかりやすくおだててやると嬉しそうに伯爵はのってきた
「おや、レディ、おだてても何も出ませんよ?まぁ、あまり大きな声では言えませんが…あそこに立っているターボ子爵殿に向こうのスムーチ伯爵殿などですかね?」
その声につられてそちらを見ると、みるからに二人とも伯爵と似たような体系をしており、その顔を緩ませて若い女にすりよっていた
「あら、意地悪しないでもっと教えて下さいませ」
「おや、そう言って私からのりかえる気ですかな?」
「何をおっしゃるのですか。今のわたしはあなた様にとりこだというのに…」
そっと腕に手を絡めると満更でもなさそうにでかい鼻を伯爵はならすと、スラスラと喋り出した
「そうですね、ゲート伯爵殿にドンリ子爵殿、それに実はロート侯爵様もご協力なさって下さっているのですよ」
「まぁ!あなた様が人望ある証ですわね!」
絡めている腕さらにギュッと抱きしめると、男はにやけていた顔をさらにしまりないものにした
「レディ、今夜私と…」
『キャーッ!!』
「?!な、なんだ?」
「旦那様!」
声と同時に執事の格好をした男が一人こちらに走ってきた。それと共にあちこちで走るような足音が沢山響いてくる
「何があった?!」
隣の女を放り出し、男に伯爵は詰め寄る
「そ、それがお客様が燭台をカーテンに倒してしまい…それが燃え広がり、屋敷にまでうつりはじめたようで…止められない位にまでに…」
「なんだと?本当か?!なぜ、もっと早く気付かなかったんだ?!」
恐縮する男に伯爵は掴みかかった
「も、申し訳…」
「謝ってすむもんではないわ!ここには、お前の命よりも価値のあるものが沢山あるんだそ!この役立たず!!」
そう言うと掴んでいた男を突き飛ばした。ゴホゴホと咳き込む男を一瞥すると、ついて来いと言い、隣の女には目もくれずに歩き出した。その後ろを咳き込んでいた男はついて行く。まるで何もなかったように、女にウインクを一つとばして
「アホ…」
女の呟きが喧騒にまぎれて消えて行った
「早くしろ!わしを殺す気か!!」
先ほど去って行った伯爵はある部屋の隠し部屋に隠していた秘密書類や金品やらを使用人たちに一生懸命鞄に詰め込ませていた。自分は隠し部屋の床のしかけ扉を開けて、そこからある書類たちを取り出していた
「旦那様、それも鞄におつめいたしますか?」
「いや、これは貴様らのような者には渡せない大事な書類だ。自分で持って行く」
「なるほど、探していた書類はそこにあったのか」
「は?」
先ほどまで一生懸命に鞄に詰めていた男は、その鞄をぽいっと床に投げ捨てると、ニコリと微笑んだ。それと同時に周りで作業していた使用人たちの動きがいっせいに止まる
「な、なぜ止まる?!早く作業を続けろ!終わらんではないか!」
「本当にバカなんですねぇ…彼らは本物の使用人ではなく、私がつくった人形ですよ。あなたの命令を聞くわけなじゃないですか」
「は?」
「はぁ…これでわかりますか?」
男は面倒くさそうに指をパチンと鳴らした。すると、使用人たちがいっせいにポンと音をたてて手のひらぐらいの人型の紙に変化した
「な、貴様だましたのか?!使用人たちを返せ!あれはわしのものだ!」
「いやいや、違います。奪ったりなどしていませんよ。彼らはあなたを置いてとっくに逃げたんですよ」
「な、そんなことがあるはずが…」
「今まで彼らをゴミのようにしか扱ってこなかったんだから、当然でしょう?それで彼らが自分のために命をかけてくれると思っているなんて、呆れた人ですね。さて、それはともかくこれはいただいていきますね」
呆然自失となっている男から書類をヒョイっととると、先ほど投げだした鞄を肩にかけて男は部屋を出て行った。暫くして、はっと正気に戻った男は慌てて部屋を出る
「ま、待て!それは、わしのものっ」
錯乱したように走り出した男は目の前に炎があるのにも気付かず、炎の中に入り、不自然に勢いよく燃え上がった炎に声をあげることもできないまま、焼かれていった
* * *
「くそっ、炎のまわりが早いな…」
「だめです!こっちの通路にも火がまわってます!」
「手づまりか…」
だんっ!と、壁を叩くと悔しそうに口を噛んだのは、王子のサディアスだった。黒と別れた後、ちょうど囚われた人々を抱えて逃げようとしていたところに出くわすも、炎がまわってきてしまい、自己紹介もままならないままとにかく脱出しようということになったのだ。向こうからしてみたら怪しさまんさいだが、囚われていた人々が思った以上に多く、一人では満足に歩くことができない状態の彼らを抱えて逃げるには人手が足りなかったのである。その後、牢獄から脱出した彼らは途中でサディアスを心配して探しにきたリヴァイアンと部下の者たちが合流し、屋敷から脱出しようとしていたのだがとうとう火に囲まれ、どうにもならなくなってしまった。
「どうにかして、この中か、」
「危ないっ!!」
「あっぶねー。ギリギリセーフか?」
「!お前は…」
「よ。見にきて良かったぜ。まだ出てきてないようだったからな、どっかで足止めくらってるんじゃないかと思ってな」
サディアスの背後から倒れてきた柱を蹴り飛ばしたのは黒だった。隣にはひっそりと青が立っている
「ま、俺らが来たからには安心してくれていいぜ。青」
「ああ」
黒に振り向かれた青は一つコクリと頷くと、目を細めてスッと火に向けて手を上げた。すると、そこだけ燃え上がっていた火が消えた。
「なっ…我らがあんなに頑張っても消せなかった炎が…」
「あー、なかなか消えないだろうなぁ、この火は」
「まさか、お前らがやったのか?!」
「さて、ね」
「誤魔化すな!」
「今はそれよりも脱出が先だ、リヴァイアン」
「ちっ」
「悪いな。後できちんと説明するから、今は急ぐぞ」
黒に掴みかかったリヴァイアンをサディアスが止めるた彼が抱え上げていた三人のうち二人を黒はヒョイと軽く持ち上げると火が消えた方へさっさと歩き出した。青も三人抱えていた人から二人を受け取り、歩き出す。それをポカンと見送っていたが、はっと我に返ると他に三人抱えていた人から一人受け取り黒たちに続いた
火が道を阻むたびに青が道を開いていき、なんなくサディアスたちは屋敷から脱出することができた。その後、騎士たちが用意しているという森のハズレの馬車まで囚われている人たちを運び、サディアスたちもそれに乗って騒動にまぎれて一緒に脱出することになった。黒たちは馬車まで運ぶところまで一緒だったのだが、気が付いたらいなくなっていた。ちなみにリヴァイアン以外の部下は今回持ち出した書類を安全なところまで運ばせており、別行動となった。囚われていた人たちで、怪我をしていた人たちをついてきていた治癒を扱える魔術師が治癒をし、いったんは落ち着いた。怪我をしている人たちをみている人を残して、サディアスをリヴァイアン、そして騎士たちのリーダー格の男とその副官の四人ですみにかたまって座った
「ようやくの自己紹介か。私はサディアス・ル・フルールだ。こっちは従者のリヴァイアンだ」
「…まさか、第二王子?!くそ、我らははめられたのか!」
「待て、多分違うな。…なるほど、何にも無関心で怠惰な第二王子は演技でしたか」
「なぜそう思う?」
「先ほど火に囲まれて柱が倒れてきたとき、もしあの男が助けなかったら本当に死んでいました。嵌めるにしては、自らも火に囲まれるのは捨て身すぎます。それに脱出するとき運んでいる人たちに気をつかって何度も励ましておりましたし、そのしんしな姿は嘘ではないと思いまして」
「信用してくれるのか。それで貴公らはどこのものだ?」
「はっ。お初にお目にかかります。私はここの隣の領地の領主、ウノーバス伯爵の側近、アブラーモ・クロコと申します。こっちは、ハーバード・ゲイコと言います」
「そうか。ウノーバス領のものだったか」
「はい。今向かっている潜伏場所に我らが主、ウノーバス伯爵もおられますので、会っていただけますでしょうか」
「こちらにとっても好都合だ。そうさせてもらおう」
「ありがとうございます」
一先ず、互いの身元を確認し目的地も明確にした四人はほっと息を吐いた
読んで下さり、ありかどうございます
では皆様、よいお年をお迎えください!