つながる人々
とてもながくなってしまった…
分けようとも考えたのですが、まとまった話なのできってしまうと
なにか違うような気がして…
残酷描写ありです
苦手なヒトはバックをお願いします
よければ最後まで読んでやって下さい
逃げたい
逃げ出したい
もう、こんなことしたくない
誰か助けて
助けて…
私の母親はとある国の公爵令嬢だった
とても優しく、いつもにこにこと微笑んでいた
母の両親もとても優しい人だった
父親の方は先帝の弟なのに権力を振りかざしたりせずに、どちらかというと平凡に暮らしたいと望んでいたらしい
おかげで、先帝が皇帝になるときは跡継ぎ問題は全くおこらずに、スムーズに交代した
母親は父親の幼馴染の伯爵令嬢で、控えめだけど、芯のある人だった
二人は恋愛結婚だった
そんな両親の間にできた子供のため、母は愛されて育った
けれど甘やかされたわけではなく、きちんと躾されたようで、我儘ではなく色々な人に優しさを分け与えれる人に育った
そんな母は身分とかを気にしない人のため、家に勤めていた、執事と恋に落ちてしまった
私という子供もできてしまい、両親に打ち明けたが意外にもばれていたらしく、すんなり認めてくれた
結婚は難しかったが、子供はそのまま公爵家でひっそり育て、いつか養子にしようという
話になった
母の夫もそのまま執事として勤めてくれていいという話になり、夫は涙して、一生仕えると誓った
そんな母の両親だ
優しすぎたのだろう
よく、ここまで権力闘争の中生きられたと思う
私が5歳の時、身に覚えのない罪で捕まることになった
詳しいことはまだ小さかった私にはわからない
けど、その日のことはよく覚えてる
真夜中に私の父が私をいきなり起こしてきて、着替えされられ母と一緒に屋敷から逃げることになった
馬車に入る瞬間、父に抱きしめられ、生きてくれと言われた
その後、泣きじゃくる母を父は抱きしめキスをすると馬車に乗り込ませ出発させた
私はわけもわからず、馬車の中で泣いている母に抱きしめられていた
しばらくたって、母の拘束が緩んだので屋敷の方をを振り返ってみると、小さくしか見えなかったが、屋敷が燃えていた
私はただ呆然として、屋敷を見つめ続けることしかできなかった
ただ、全く動かない頭で優しい日々が終わりを告げたのだけは涙する母の顔で理解した
その後は、よく覚えていない
途中で馬車を降り、ほとんど歩いたこともない身で、気が付いたら国境を超えて今の国にたどり着いていた
馬が好きだった私はしょっちゅう馬を見に行き、お嬢さんは馬が好きですねとそのつど笑って馬に乗せたり、触らせてくれた馬車の御者の人は、馬車を降りた時に別れた
離れたくないとだだをこねる私に、馬車を処分しなぎゃならないのですよ、後から追いつきますから先に行って待ってて下さいといつもの笑顔で言われた
けど、いつまで待っても御者の人は来なかった
私と母は二人であちこち彷徨い、そしてこのカデンにたどり着いた
何も持たず、働いたこともない母は、子供の私を抱えながら満足に育てるためには娼婦になるしかなかったのだろう
母親に似て美しく優しかった母は、すぐに人気者となった
カデンの中でも一番大きい店の稼ぎ頭となった
けれど、今までの疲労がたたったのか私が7歳の時にあっけなく病気で死んでしまった
それまでは母のおかげてその店の下働きとして働かせてくれたが、母に似ていた私をそのままにしとくわけがなかったのだ
母が死んですぐ、私がお客をとることになった
まだ体のできていない私にとってはとても辛かった
けど、母のお客だった人は母に似た私を可愛がり、お金を沢山おとしていった
最初、上手く隙をみて、逃げたがすぐに捕まってしまった
その後、監視は厳しくなり、けどお客に上手く奉仕できないと鞭や食事抜きが待っていた
生きるためには必死で学んだ
そして、3年がたち、10歳になったある日、たまたま逃げる隙ができた
私は必死で逃げた
これが最後のチャンスだと感じた
ここで捕まったら二度と逃げれない、そんな気がした
必死に走って、走って
でもここ何年か、外を歩くことすらほとんどなかったから、途中でいきなり足から力が抜けて座り込んでいた
そこに、いきなり足音が全くしてないのに人が現れた
こんな街の裏通りを足音をさせずに歩いている人だ。絶対、その道の人だと思って慌てて立とうとしたけど、力が抜けた足はなかなかたってくれなかった
目の前の人は私を見つけるとホッとした顔をした後、手を横に広げて空中を見上げた。魔術で誰かと交信でもしているのだろうか。けど、手を下げたその人はぽそりと呟いた
「結構、近いな…」
わけがわからなかった。けど、もっと疑問だったのはここ最近は誰も信じずに生きていた私が、誰にも頼らずにきた私が、そこまで、慌てて逃げなくてもいいと思っていたことだ。立ち上がり、逃げる準備はしていたが、もう少し様子をみようと考えている私がいた
その後は手を掴まれ、逃げるよ、と言われるままについて行った自分がこの人は心の奥で味方だと感じていることを知った。しかも、相手が誰か聞く前に気を失うなんてありえない―――――
* * *
「ちょ、どこにいくつもりですか!?」
「ち、口うるさいのに見つかった」
アイゼン帝国の隣、ウェンデル王国のある侯爵家の領地。その一角にたつ立派な屋敷の外、8・9歳位の二人の少年が押し問答をしていた
「待ってください、その馬はなんですか!?」
「いや、最近外を歩かせてないからちょっと外をあるかせようと…」
「おとついも遠出をしたばかりで何をおっしゃっているのですか!第一、あと半刻もしたら許嫁の方がいらっしゃると朝にお伝えしたではないですか!前の顔合わせも、勝手に消えて言い訳を繰り返すこっちの身にもなって下さい!!」
「あー、向こうも避けられてることには気付いてるだろー。だから、大丈夫だ」
「何が大丈夫なんですか!全然大丈夫なわけないじゃないですか!!いい加減にして下さい!!お館様の顔を何回潰せばすむんですか!?」
「…父上は俺が何をしようと気にはしてないさ。今までのことでも何も言われてないだろう?」
「それはっ、…。すみません」
「はは、何を謝るんだ?全て本当のことだ。4男でしかも、妾の子供とくれば一番の使い道は良いところの家との結びつき位しかないさ。なまじ上が優秀だと苦労するなー」
「…そんなこと言わないで下さい」
「なんでお前がそんな泣きそうな顔をしてるんだ。別に悲観してるわけじゃない。ただ、わからないだけだ。このままでいいのかってな。父上の言うレールにのって生きていくのが本当に正しいのか…」
「アルベルト様…」
「っと、そろそろじいやたちに見つかるかもしれん。俺は行くぞ」
「なっ!?」
「お前も行くか?俺が馬でどこか行くってわかってたんだ、馬は用意してあるんだろう?」
「ですがっ」
「久しぶりにお前と二人だけの遠出と行くか!」
「…はぁ。わかりました。先に行っていて下さい追いかけます」
「おう!あ、行先はいつもの湖なー」
「あー良い風だなぁ~」
「帰ったら絶対怒られる…」
「おい、いつまでぶつぶつ言ってるんだ。せっかく外にいるんだ。外の景色を楽しめ!」
「…お気楽そうな頭で羨ましいです」
「おい、さらりとけなしただろ…」
「気のせいですよ。…あれ、湖に先客がいますよ?」
「流したな…。って、本当だ。珍しいな」
鬱蒼と茂る森の中、またがった馬を並べながら湖へと二人の少年は進んでいた。お気楽と呼ばれた方の少年は赤みを帯びた金髪を頭の後でとめている。軽薄そうだが、利発そうな金色の目をしている。整った顔で将来は美形になるだろうことがうかがえる
もう一人の従者のような少年は茶色の髪と目をしており、こちらも良く見ると整った顔をしているのだが、いかんせん雰囲気が幸薄そうで暗いため気付かない者も多いだろう。普段から緑の髪の少年の後始末をしてまわっているうちにこのような雰囲気になってしまったと本人は嘆いている
「…おい」
「わかっています。この近くには家はお館様の屋敷しかないですからね。どう考えても怪しいです」
二人は腰に提げていた剣の柄に手をかけたまま片手で器用に馬を操り湖で遊んでいるように見える人物たちに近づいていった
「あー、水が冷たくて気持ちー。というか、まだかなー。よく来るって言ってたのになかなか来ないね」
今日は、シャルは朱と二人で隣国までやって来ていた。今日は朱とつながる人を探しに来ていた。この湖で待っていれば向こうからやってくると青に言われたので、シャルは足を水につけながら朱と会話をしつつ来るのを待っているのだ。朱の方は近くの木にのもたれかかりながら、周りを見回していた
「いつも来るとは言って無かったからなー。今日は来ないんじゃないかー?」
「でも、青が今日は絶対来るって言ってたんだよね?なら来ると…ほら、朱」
「ああ、来たな」
二人は揃って森の入口の方に顔を向けた。二人とも転生前から人の気配をよめるようにしているため、わざと気配を消されていなければ多少距離が離れていてもわかるのだ
「今、森に入ったところかな?」
「そうだな。あと少ししたらここに着くだろうね」
「うーん…眠くなってきた」
そう言うと、シャルは草の上に寝っ転がった
「近づいてきたら起こすから寝てていーぞ。まだその体になれてないんだろ?体力もその分消費するだろうし」
「大丈夫ー。…じゃあ、眠気覚ましに付き合って!」
そう言うとシャルは体を起こし、朱に水をかけ始めた
「うおっ!やったな、俺で遊ぼうなど100年早いわ!」
その後壮絶な水のかけ合いっこが大人げないほど続き、結局目的の人物が近づいてくるまで長引いた
「…凄く楽しそうだな」
「ええ。…何というか、毒気が抜かれるというか…」
「俺も混ざりたくなってきた!」
「はぁ?って、ちょっと…!」
そのまま馬を器用に扱い、かけだしたアルベルトを従者は慌てて追いかけた
「ちょ、もうビショビショ…」
アルベルトが湖にたどり着くとようやくひと段落したのか、シャルが湖からあがり着ていた服を絞っているところだった。近づいてくる馬の足音に気付いたように顔をあげた。もちろん、シャルはとっくに気付いていたが。朱の方は上半身裸になっており、綺麗に筋肉がついている体をさらして、草の上に座り込んでいた
「こんにちは。水浴びでもしてたのですか?」
そう言いながらアルベルトは馬から降り、朱に近付いた
「あはは、最初は足だけつかってたんだけどなー。気がついたら全身びしょぬれになってたんだ」
「この暖かい季節にはここの水は気持ち良いですからね」
「俺は足をつける前に水をかけられてなー。よくわからないな」
「仲が良いんですね」
「違いまーす。この人が子供なだけです」
「おい…。先にかけてきたのはどっちだ」
服を絞り終わったシャルが湖の傍を離れ近づいてきた。くすくすとわらいながら笑いながら濡れた髪を後ろに流し、アルベルトの方を向くとにっこり微笑む。童顔な顔に大人っぽさをだしながら妖艶に微笑む彼女に思わずアルベルトは赤面した。そこにちょうど良く、従者が追いついた
「いきなり駆けださないで下さい!って、顔が赤いですよ?どうしました?」
「い、いやなんでもない。ところで、あなたたちはなぜここへ?この近くには家は建っていないはずですし、旅人にしては身軽ですし…」
苦し紛れに話題を転換し聞いて来たアルベルトだがその目は笑っていない。その目は嘘をついたら許さないと語っている。それに苦笑しながらシャルは朱と顔を見合わせると、申し合わせたように朱は立ち上がり、シャルはアルベルトに話しかけた
「あなたに会いに来たの」
「俺に…?我が侯爵家に何か用でも?」
「いいえ、アルベルト=ダークハラム。あなた個人に用があるの」
「なぜ?今日が会うのは初めてですよね?」
「ええ、そうよ。でも、あなたじゃないとだめなの。…理由はなんとなくわかると思うけど。あなたは朱が武装していないからといっても普通は無暗に近づかないわ。でもあなたは、朱に自ら近づいていった。初めてだけど、敵ではないと判断したでしょう?」
「…」
今気付いたとでもいうように顔に驚嘆の色をのせているアルベルトに子供らしさを感じつつシャルは近づき顔を覗き込む
「少しで良いから私たちの話を聞いてみない?」
複雑そうな顔をしつつも頷いたアルベルトに従者は驚きつつも慌てて止める
「駄目ですよ!何を言っているんですか、こんな怪しい人たちに…」
「まぁ、とにかく行こうぜ!」
「えっ!?」
有無を言わせずに従者を抱えあげた朱を認めるとシャルは目の前のアルベルトの手を掴むと何事かを呟いた。すると湖の水がシャルたちの方にむけて跳ね上がった。シャルたちにかかった水が地面に全て落ちる頃にはそこには誰もいなかった
* * *
「お腹空いた…」
ここはウェンデル王国の中でもアイゼン帝国からは離れた所、僻地ここは帝国とは別の隣国との戦争に巻き込まれて多くの人が亡くなった。今、一人で歩いている少女ルーネもその戦争に巻き込まれ、親を亡くした。ルーネの綺麗だった薄水色の髪の毛はぼさぼさになり、幼いながらも凛とした雰囲気が漂っていたはずの顔は黒い目と同様に生気を無くしていた。それでもルーネはただ歩き続けた。ただ何も考えられず、歩き続ける
貧しくても両親と兄弟たちと仲良く暮らしていたのに、戦争は一瞬で全てを無くした。ある夜、兄弟たちと仲良く寝てい時、村人の悲鳴で目が覚めた。どうやら隣国の兵士が攻め込んできたらしかった。守ってくれるはずの領地の騎士たちはさっさと逃げたらしく、村人たちだけで抵抗したが、あっさり殺されていった。母と幼い弟妹と一緒に家の中で逃げる暇すらなかったために、隠れていたが見つかった。外に引きずり出され、家の前で守ってくれていた兄たちの姿を探したが見当たらず、よくみると地面に倒れてこときれていた。げひた笑いをしながら、母を犯す兵士を目の前に弟妹たちは次々と殺されていく。最後に私だけになった時に、母を犯すのに夢中になり油断した兵士の腰に差していた剣を母は無我夢中で掴み、兵士を刺した。母の逃げて!という声を背にとっさのことで行動出来なかった兵士たちの間を潜り抜け、森の中に私は駆け込んだ。追いかけてくる気配がしたが、いつも駆け回っている森だ。地の利は私にあり、すぐに消えていった。けれど、私は足を止めなかった。母の悲鳴が聞こえた時も…。そのまま私は川の水を飲んだり、果物をとったりして生きながらえたが、すぐに生きることに意味が見出せなくなり、ある木の根にもたれしゃがみ込んだ。それから何日経ったのだろうか。もう動く気力も無くなり、死ぬのかな、と考えた私の耳に明るい声が響き渡った
「いたー!」
体を起こす気力も無く、目だけを動かした私の目に入ったのは一組の男女だった。どちらも整った顔をしているため、私はお迎えの天使が来たのかと思った
「て、んし…?」
「え、ちょっと待って!天国からのお迎えとかじゃないから!まだ、三途の川は渡らないで!!ってか、こっちには三途の川って知られてないからわからないよね、ってそんなことはどうでもよくて!!!まずは、水を飲もう!青!」
綺麗な髪の色をした男の人が私を抱き起こすと口に竹筒みたいなのをあてて、水を飲ませてくれた。久しぶりだから咳き込んでしまったが、男の人のゆっくり飲んでという声に従ってゆっくり飲んだ。ある程度飲み、回復した私に女の人が果物をさしだしてきた
「これ、ワイヤーって言って、ちょっと高いんだけど、病人の人とかに好まれて食べられるんだ。だから、お腹にも優しいと思う。お腹すいているでしょう?これ食べて」
そう言われて差し出されたけど、私は自ら食べ物を食べなくなったのだ。飲み物は衝動的に飲んでしまったが、親兄弟、知っている人が全員死んでしまった今、生きていても意味は無い。死にたかった。ほっといて欲しかった。だから、差し出された果物を無視していたのに、遠慮したと思われたのか果物を剥かれて食べやすくされて目の前に差しだされた
「遠慮しないで食べて、ほら」
「…いらない」
「なんで?お腹空いているでしょう?」
「…だって知ってる人、もう誰もいない。私は一人ぼっち…。死にたいの」
久々に声を出してかれていて聞きにくかっただろうが目の前の人には聞こえたようで、なぜか傷ついた顔をされた
「…でも、あなたは今、生きているわ。それは誰かが助けよとしてくれたからじゃないの?」
その言葉にお母さんの姿が思い浮かんできた。酷い目にあいながら、私を助けてくれたお母さん。逃げて来た後、一回も涙は出てこなかったのに、いまさら溢れてきた。そんな私を目の前の女の人は抱きしめてきた
「今は、辛いかもしれない。でも生きて。あなたを助けてくれた人のためにも」
「でも…」
言い淀む私に抱きしめてくれた女の人は体を離して覗き込んできた。視界が広がり先ほどからほとんど話していない男の人の姿が目に入った。静かな目でこちらを見下ろしているけれど、不思議と冷たい感じはしなかった。その目に見入っていたが、目の前の女の人の声で我に返った
「…私はあなたを探してここまで来たの」
「わたしを…?」
「そう、あなたを。…あなたがもし私たちに付いてきてくれるなら、あなたはあなたのような子供が産まれるのを阻止できるわ。そして、あなたをそんな風にした人たちに復讐もできる」
「ふくしゅう…?」
「ええ、同じように辛い目に合わせれる。あなたにはそれだけの力があるから」
「…痛いのは、いや。お母さんはだまされてもだますようなにんげんにはなるなって。だから、だから、ふくしゅうはしちゃいけない。でも、憎い!私たちが何をしたの!?ただ、ただ平和に暮らしていただけなのに!!」
「…ええ、知っているわ。でもね、その辛さを乗り越えるのも、何をするにもまずは生きなくちゃ。死んだら何も出来ない。だから、ねぇ、私たちと来ない?」
先ほどまで、生気が無かった私の目はらんらんとしていると思う。でも、今は生きたいと思った。これからどうなるかわからないけど、まずは生きないとお母さんのいうような人間になるのも、復讐もなにもできないとわかったから
「行く」
二人をまっすぐ見て私は答えた。そしたら泣きそうな顔で女の人はありがとうと抱きしめてくれて、男の人は頭を撫でてくれた
* * *
「ここ?」
「うん、そうだよ」
「…これは」
今、白とシャルはアイゼン帝国の中でも端にいちする地域に来ていた。隣国からは離れた端だが、海と近いためそれなりに栄えている。その分、国でも把握ができない地域が多い。そんな中、ある山奥の中にひっそりと建つ建物の前に来ていた。このような山奥に建つにしては、立派な建物である
この建物は密貿易をひっそりと行っている港からほど近く、色々な種族の男女を集め娼館としての役割以外にも、奴隷を争わせる賭闘技場、ヤク売り場など他にもあくどいことに色々と使われている。そのため、下手な貴族の館よりも立派で大きい。だが、よく見るとあちこちにお金が使われ、悪趣味な彫像が屋敷の玄関を飾っている。入って行く人たちも、綺麗な服を着てはいるが、でっぷり肥った貴族、裏の道に精通していそうな荒くれな感じが隠せてない人などが多い。そんな中二人は黒が冒険者ギルドで働いたことによって得たパイプを駆使して手に入れてくれたチケットを使って入って行った。もちろん、そんな簡単に手に入る物ではないのをすました顔で、これで入れるぞと手に入れたいきさつすら説明もせずにぽんと手渡してきたのだから、彼の有能さが伺える。そんなことをつらつらと考えていたシャルはエントランスホールを抜け奥に入ったことで変った雰囲気を感じ取り、気を引き締めてた。今は二人とも浮かないように正装している。ただし、どこでばれるかわからないので変装もしている。二人ともどこにでも有り触れた顔に見えるように幻術をかけているが、オーラがあるのか白は違う感じの美形にしか見えない。そんな白は優しい感じを壊さない白を基調としてラインに金色が使われている貴族風の服を着ている。シャルも白に合わせ白地に黒の縁取りをした丈の短いワンピースだ。この服は白が用意したもので、やっぱり足は出さなきゃねとにこやかに笑いながら渡されたものだ。にこやかに笑っているのに、あの4人の中で一番変態なのは、白だとシャルは思っている。綺麗な顔しているのに、残念な奴だ、と白の横顔を見ているとん?と視線に気付いたのか笑いかけられた
「…喋らなければかっこいいのにと思っただけ」
それに対して思っていたことをさらりと返す。長い付き合いなので遠慮はいらないし、本人も入った時から多くの女の人から向けられる視線には気付いているはずだ
「酷いなぁ。喋らなければって…」
「本当のこと。それよりもどっち?」
苦笑する白をばっさり切り、ここに来た目的をさっさとすまそうとシャルは話を変えてきた。こんな所に一秒でも長くいたくないのよとぽつりと零したシャルの頭を優しく撫でながら白はあたりを見回した。一番目につくのは部屋の中央に空いている吹き抜けである。天井は最上階から下は4~5階分空いている。ここからはちょうど良い位置に手すりがあり下が楽に覗けるようになっている。ここから下の地下一階と二階の壁ははガラス張りになっている。中は個室になっているのがわかる。観覧しながらご飯が食べれるようになっているのだ。そこから下は壁になっていて床は石板がひかれている。そこで、16歳位の二人の少年があきらかに突然変異した巨大な虎に追われていた。そこで、何分持つかをかけているのだ。虫唾がはしると顔を辛そうに歪めて見下ろすシャルを腕の中に囲みまわりを見えないようにするとそのまま別のところへ促した。シャルは白に連れられるままある扉の中に入り人気が無いことを確認すると二人とも走りだした。そのまま、人に見つからないように隠れたりしながら二人は一つの木製の扉の前にたどり着いた
「この奥?」
「青から聞いた話だとこの中の牢屋に閉じ込められているって聞いたよ」
「そう。…入りましょう」
中に人の気配が無いことを扉越しに確認するとシャルはゆっくりと扉を押し開けた。そこには比較的大きく中もそこまでは汚れていない牢屋が数個ならんでいた。その牢屋の中でただ一つ住人がいる牢屋の前まで二人が歩を進めると、牢屋の中にある机と色々な書類のようなかみがあたりに散らばっているも気にせず蹲っていた人物が顔をあげた。そこにいたのはまだ成人していないにもかかわらず、鋭利なかんじのためか大人っぽさを感じる整った顔だちをした少年がいた。肩よりも少し長い銀髪は牢屋の窓から入ってくる月の光に照らされて輝いている。琥珀の瞳はまるで宝石のように温かみが無く、今その瞳は細められている。形の良い唇だなーとシャルが見ているとそこから声が発せられた
「誰?また勧誘?悪いけど僕はついていかないよ。ここで十分満足してるから。だから、早く帰ってくれる?」
いきなりの拒絶に目をぱちくりさせると、シャルは静かに話し出した
「…ヘライア・ウィリア、11歳。まだ若いにもかかわらず頭の回転がとても早く、奴隷ながらこの館のまとめ役の一人となり、またお金関係の仕事も任されている。しかし、ある時に出会った年下の双子を連れて突然脱走するもあっけなく捕まり、双子と離され、二人の身の安全と引き換えに牢屋に閉じ込められ仕事をさせられている。牢屋暮らしだが、比較的良い扱いをされているも捕まってからは一度も外に出されていない。その頭の中には、ここの顧客データから裏取引まで色々とつまっているもあなたでないとまわらない仕事が一部あるために殺されずに現状にいたっている。…合ってる?」
「なんだ、お姉さんたちこの屋敷の仲間のひとだったの?何度も言ってるでしょ、ウィルとウィリーの安全を保障してくれる限り裏切らないって。こんな嵌めるようなことしなくても大丈夫だよ」
そこまで言うと興味を無くしたように壁にももたれかかるのを見届けた二人は目配せをすると、白は扉から出て行った
「?何?お姉さんはまだ話があるの?」
「ええ、まずは誤解をとかせて。私はこことは無関係よ。こんな悪趣味なとこ、好き好んで勤めるわけないでしょう?次に、あなた本当はここから出たくない?もし良かったら私たちと一緒に来てみない?」
「お姉さんどこの誰だろうと関係ない。僕はここにいるよ」
「双子がいるから?彼等も一緒につれてくつもりよ?それくらい簡単に養えるから。だから一緒に来ない?あなたに頼みたいことがあるの。このままここにいても一生牢屋の中よ?ついてくるだけであなたたちは外に出れるからそれだけで世界は広がるわ。協力してくれるかは、話を詳しく聞いてから決めてくれていいから」
「一緒につれてくって、ウィルとウィリーの場所すら知らないだろ…」
そこでちょうど白が入ってきた。両腕に可愛らしい感じのふわふわとした茶色の髪をみち、同じく茶色のくりくりとした目をもつ双子を座らせながら
「「お兄ちゃん!」」
「ウィル!?ウィリーも!」
白の腕からおろしてもらった二人は即座に牢屋に駆け寄った。ヘライアも二人に駆け寄り、柵越しに二人を抱きしめた。そんな三人を横目に見ながらシャルは体を半回転させてその勢いのまま牢屋の扉に蹴りをはなった。扉は勢いよくふっ飛んで壁に激突した
「「「!?」」」
「はいはい、早く出て~」
突然の行動にびっくりして固まっているヘライアをシャル無理やり牢屋から抱え出し、双子の前でおろした。なすがままになり呆然とシャルを見上げるヘライア
「な、なんで…。この牢屋の扉は大人がどんなに突進しても壊れないはずなのに…」
「そうなの?でも出来ちゃったね」
いまだに目の前のことを信じられないのか硬直したまま動かないヘライアの前に膝をついたシャルはにっこりとほほ笑む。実はこの部屋に入る前に変装をといているシャルたち。シャルの素顔はまだ少女のあどけなさを残しているも艶然と微笑むことで年以上にも見え、そのアンバランスさがうきぼりになる。その笑顔にヘライアは真っ赤になった
「あら、朱の時のコと同じ反応」
「ふふ、シャルの微笑みは破壊力抜群だからね」
「お兄ちゃん、顔赤いー」
「真っ赤ー」
双子にそう指摘されてさらに顔を赤くし、その年相応の反応に微笑ましく思いつつもシャルはもう一度問いかけた
「ねぇ、来るだけでも来ない?双子のために警戒心が高いんだろうけどここにいたってずっと牢屋の中よ?さっきもいったとおり、外に出るだけで世界は広がるわ。それに嫌だと思ったら逃げれば良いんだし。ここにいるよりはそれができる可能性高いし、頭が良いなら外の世界でも生きていけるでしょう?」
その言葉に同意するように白も微笑んだ
「…本人たちが逃亡を推奨するってどうなのさ」
「推奨って言葉を知ってる方が驚きだわー…」
「お姉さん、ばかなの?」
綺麗な顔でハンと笑われた
「うわー、将来良い性格になりそうね。腹黒とか?やだー腹黒は白だけで充分ー」
「…シャル?」
こちらもにこにこと笑いながら発言をするも、それは見えないオーラをまとい圧力をかけるように静かに名前を呼ぶ発言。その言葉に絶対に背後を振り向かない決意をして、シャルはヘライアに視線を固定した
「な、なんでもない!さて!少年!!どうする!?」
その言葉に考え込むようにあごに手をあてて双子の方に目線をやる。さらりとした髪がこぼれ落ち、顔にかかる。その絵になるしぐさに美形はほろべ!といらっとしつつも彼の返答を待つ。そしてしばらく考え込んでいた、ヘライアは顔をあげてシャルをまっすぐに見た
「お姉さんたちについていく。お姉さんたちは今迄の人たちと全然違う雰囲気だし、逆に毒気を抜かれたもしたし。…それにお姉さんたちなら悪いようにしないって感じるんだ。普段はカンなんて信じないんだけど…」
その言葉にさらににっこりとほほ笑むとシャルはヘライアを抱えあげ、白も再び両腕に双子を座り直させた
「その理由もあとで教えるわ。今はここから出ましょう」
そして、シャルと白は扉から出て行った
その後、三人がいなくなった屋敷は騒然となる。けれどもどんなに探しても三人は見つからなかった
* * *
ここはアイゼン帝国と同じ大陸に位置する小国、フロワーズ。この国があるガイダル大陸は真ん中を巨大な山脈で区切られ、東と西に分かれている。そのために山脈を越えての国交はあまりなされておらず、文化も全く違う。この国やアイゼン帝国、ウェンデル王国があるのはこの大陸の東側であり、こちらの地域にはフローレル教が多くの人々に信仰されている。そのため、その宗教の発生地であるフロワーズは小さいながらもまわりの国から尊敬され強国として名が知られている。そんな国でも長く続けば腐敗はあるもので、多くの貴族が甘い汁を吸っている。そんな貴族の一人がちょうど療養に訪れた先の屋敷の中には、真黒な服に身を包み顔のほとんどを同じ布で覆った、まだそんなに背の高くない、目元から少年だと伺える人物の前ににその屋敷の持ち主は倒れて蹲っていた
「き、きさま…」
「先に剣を抜いたのはそっちだ。殺されても文句は言えないはずだ。じゃあな」
「うぐっ」
そう言うと少年はなんの感慨も無く目の前の人物を殺し、そのまま窓から夜の闇の中へと消えて行った
その数分後、屋敷は爆発した
その屋敷から数キロ離れた木の上に二人の影があった
「わー、スマートな仕事だねぇ…」
「ああ」
周りの木よりも一段と高い木の上の方についている太い枝に、シャルは座わり黒は隣に立ち、屋敷の方を見ていた
この二人はここからシャルの術を使って少年が侵入をして屋敷が爆破されるまでを見ていたのである
「さて、と…会いに行きますか」
シャルが座ったまま滑り落ちるように木から降りトンと地面に軽く着地をし、その隣に飛び降りた黒が並ぶと二人は木々の間をもの凄い勢いで走りぬけて行き、あっという間に見えなくなっていった
屋敷から上手く脱出して、まずは森を抜けようと木の上を少年は飛びながら移動していた。しかし、ある所まで来るといきなり少年は立ち止まり、背後をかえりみた
「…なんの用だ?」
その言葉に少年の後方の木の葉がガサリと揺れるとシャルと黒がいきなり姿を現した。シャルはにこにこと楽しそうに笑いながら、黒は感嘆したような顔をして少年に近づいた
「…ふむ、いつから気付いていた?」
「少し前から。屋敷の方から来たってわけではなさそうだが…何者だ?」
「凄いわねぇ…。その年でそこまでわかるなんて。まだ12歳だよね?屋敷の人にわざと侵入させたことを気付かせて、乱闘さわぎをしてる間にお仲間のコに地下にとらわれていた人たちを助けてあげるなんて。さすが義賊と暗殺者両方こなせてるだけあるわよね、クローゼン君?」
「なぜ、俺の名前を知っている?」
シャルの言葉にかまえる、クローゼンと呼ばれた少年。彼はさきほでまで布で隠していた短い濃い緑は今は風に揺れている。あらわになった顔はひきしまった顔をしていて、大きくなれば精悍な顔になりそうな雰囲気がある。しかし、その赤い瞳は剣呑な光を帯びてこちらを睨んでいる。殺気がほとばしり、ピリピリとした風が三人の間を駆け抜けて行った。風が収まりシンと静かになった途端、いきなり黒が木を蹴り、クローゼンに剣を抜き放った。突進の勢いのまま横殴りされた剣をしゃがむことで避けるとクローゼンも下から剣をとき放った。筋肉がついている体の割に軽く木を蹴り、回転をしながら上に飛び上がりそれを避け、体がちょうど180度回転し、クローゼンの上後方に来た時に肩を掴むと腹筋を使って自分がもう半回転をし、木に着地をするのと同時にクローゼンを投げ飛ばした。いきなりのことで固まるも空中で体勢を整え、木の幹にきれいに到達しクローゼンは顔をあげるも着地と同時に木を蹴って迫って来ていた黒が眼前にあり、腹に思い切り拳を入れられ、叩きつけられた
「がはっ」
そのまま落ちて行くもなんとか途中の枝につかまり、腕の力で枝の上にあがった。しかし、枝の上に膝をつくのと同時に枝が揺れ、音も無く黒が降り立った。そこから逃げようとするもそれよりも早く、胸倉を締めあげられ持ち上げられた。12歳にしては高い身長も背の高い黒に比べれば全然低く、あっという間に足が木から離れた
「っ、かはっ」
「…確かに、12歳にしては良い反応だが…まだまだだな」
「くっ、あ、う」
「…」
無言で締めあげながらクローゼンを見下ろす黒。逃れようと一生懸命もがくも黒の力はびくともせずにじょじょに意識が朦朧とした時、シャルの慌てたような声が響いた
「あーストップ、ストップ!ちょっと彼を離しなさい、黒!」
その言葉にぱっと黒が手を離すも強く締められていたために強く咳き、枝からずり落ちそうになるが一歩早く背後にシャルがまわり少年を支えた
「彼は普通の少年なのよ!?あなたたちと比べないで!強く締めすぎよ。大丈夫!?」
「ごほ、ごほ、がはっ。はっ、はっ、はっ…」
「ゆっくり息を吸って…。そう、そのまま私によりかかってて良いから」
咳き込み上手く力が入らないクローゼンをそのまま支えながら、キッと黒をシャルは睨んだ
「彼の実力が気になったんだろうけど、まだ仲間でも無いのに意識を落とそうとしないで」
「大丈夫だ。それは俺とつながるやつなんだろう?ならばこの位平気なはずだ。そいつも俺が本気にやろうとしていないことは分かっているはずだ。ただ、試していただけなのだと。そうだろう?」
どこか楽しそうな色をたたえた目をしながらクローゼンを見下ろす黒を少し落ち着いたクローゼンが下から睨んだ
「…なぜ、俺を試す必要がある?」
「俺は青が選んだとしても、信用してるしてないとは別に自分で確かめたかっただけだ。お前が本当に仲間と足りうるのか、そして俺とつながることができるのか」
「?」
わからないというふうに眉をしかめるクローゼンとは違い、シャルは呆れた顔をした
「…はぁ。それで?試験の合否は?」
「結構な力で締めたんだがな。最後まで意識を落とさずに抵抗してた。根性はあるし、これから伸びるぞ」
「そう。それは良かった。…まぁ、誰よりも近しい人になるのは黒だからもう何も言わないど、本当にびっくりしたんだから」
「そうか。悪かったな」
宥めるようにシャルの頭を優しく黒は撫でた。ちょうどシャルが背後だったためにその時の黒の顔を見たクローゼンはとても驚いた。その時の顔が本当に愛しいものを見るような眼を、慈しむように微笑んでいたからだ。先ほどまで何を考えているかわからない冷たい眼をしていた人物とは思えないほどに、とても優しい顔をだった。息もなく混乱する頭でそれを眺めていたクローゼンは黒の瞳がこちらを向いたことで我に返った
「それで、クローゼン。お前はもっと強くなりたくないか?」
「は?」
「お前がもっと多くの者を救う力を欲しているなら、何にも負けない強さを欲しているならば、俺が面倒をみてやる」
「いきなり、なにを…」
「今ここで詳しく話すにしては話が長すぎる。悪いが今、決断してもらう。俺たちについてきて、世界を変えるか。それともこのまま変らない生活を過ごしていくか」
「…」
いきなりのことでわけがわからないという顔をしているクローゼンを静かに黒は見つめる。そこにシャルがぽつりと言葉を紡ぐ
「…あなたには素質がある。この大陸有数の強さを持つだろう資質が。けれどもこのままではそれは開花しない。したとしても、遅いわ。その時にはもう年をとって体が動きにくくなっている位、遅いわ。それくらいあなたの資質は大きくて扱いづらい。でも、私たちにはそれをうまく使えるように教えることができる。今までの…あなたの行動を聞いて来たからわかるわ。あなたは私腹を凝らしている者どもから金品を奪い、貧しいものたちに分けている。悪徳なことに平民たちをつかっているものを暗殺する。それは全部、平和を願ってのこと。私たちの目的もそれなの。だから、お願い。私たちと一緒に戦って欲しいの」
シャルをゆっくりと振り返ったクローゼンはシャルの眼に真摯な光を認めた。もしかしたら、自分は騙されているかもしれない。そう思う気持ちはどこかにある。けれども、信じたいと思っている自分がいる。それに先ほどの黒の言葉も本気に見えるし、何よりあんな冷徹な目を出来る人にあそこまで慈しむような顔をさせるこの人に興味がわいた。だから黒に向き直るとクローゼンは頷いた
「お願いします。ただ、一つだけ。連れていきたい人がいるんだが…」
「ふふ、屋敷で地下の人たちを解放していたコたちよね?もちろんよ。それじゃ、行きましょうか」
「ああ」
その言葉に頷いた黒は、クローゼンの方に一つ頷くとそのまま木を飛び降りた。二人もそれに続き、すぐにあたりは沈黙に包まれた
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