カデン
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東洋の神秘
現代において裏の世界ではその言葉はある一族の一部の女性たちを示す
その一族の名前は真桜家
裏の世界では知る人ぞ知る家系だ。彼等は表には出てこない。その姿を見たことがあるのはほんの一握りの人々だけであり、住みかすらも知られてはいない。けれどもその名は轟いている。決して彼らにたてついてはいけないという、戒めとともに。
謎が多い一族だが、一つだけ広く知れ渡っていることがある。それが、東洋の神秘という言葉が示す、一族の中で巫女と呼ばれる女性たちのことである。元々、この一族に手を出したものは、親族もろとも消される、末代まで祟られるなど言われているため、中々手を出すものはいないが、彼女らに関してはあらゆる国や組織のトップや中枢から、手を出すことを禁止することを厳命されている。しかし、その理由を語るものはいない。それ故に、彼女らは東洋の神秘とよばれるのである
そんな神秘の存在として認識されている真桜家の巫女たち。かれれは術を駆使することで、家に利益をもたらしている。その巫女の中でも強い力をもつものは何人かいた
しかしあまりにも力が強いため、術を使っている時に彼女らを守ろうとしてもその力にあてられて、気を失ってしまう人が続出した。しかし、大事な巫女が術を使っている時に守りを薄くして、力に耐えれる刺客を差し向けられてはたまったものではない。そこで、真桜家は考えた。耐えれる“もの”をつくればいいのだと―――
* * *
少女は現在進行形で後悔していた
なぜ、一人で来なかったのかと…
先ほど身体を大きくさせた少女は身体を慣らすためと、ある目的のために屋敷がある首都から少し離れている。首都と並ぶくらい栄えている街、カデンに来ていた。ここカデンは首都と帝国最大の港街のちょうど中間地点にあることから、港町ほどではないが他国のものが入ってき、首都の目ぼしいものも手に入る。また、隣国と首都との中間地点でもあるので、通るひとも多く、宿屋が多い。それに比例し、花街も大きい。ここの花街で一番になることはこの国の中で一番の花売りであるとも言えるのだ。
そのような街だ、夕方に歩けば多くの花売りと会うことはわかっていたはずだ。それなのに…
「なぜついてくることを許可した、自分!」
「わっ、びっくりした。いきなり叫んでどうした?」
いきなり道のおうらいで叫んだその少女にびっくりしつつも顔を覗き込んだ朱
しかし、その朱の腕にはしなだれかかるように朱の腕に手をまわしている花売りが一人いた。いや、腕に手をまわしている花売りは一人しかいないと言った方が正しいだろう。朱の胸に手をはわしているもの、顔を撫でているものと、まるで通せんぼをするように色々な花売りが朱を取り囲んでいる。
しかも、朱だけでなく他の3人も似たような状態になっている。さきほどから上手くさばいてはいるのだが、歩いて進んでいるうちにすぐに新たな集団に取り囲まれてしまうのだ
これらは全て、お前らが人外のような美貌をもっているからだ!と心の中で呟きながら、中々目的場所に着かないことに少女はいらいらしていた
しかし、少女はこの4人の真ん中に立っているために置いていこうとしても出来ないのだ。少女はこの時間に女の子一人でこの街で歩くのは危ないのはわかる。心配しているからこそ、ついてきてくれたのもわかる。けれども、今は逆にお荷物にしかなっていない。これならば無理にでも置いてくればよかったと、いまさらながら思っているのだった
なぜこのような状態になったと遠い目をしながら少女は数時間前のことを思い出した
「青、情報は集まった?」
「この世界の言語に常識、礼儀作法その他もろもろ集めた」
「じゃあ、お願い」
声をかけられた青は紫の目をパチクリさせると、静かに告げ、少女に頼まれると近づいていき、少女の額に自分のそれを合わせると目を閉じ、静かに歌うように呟く
「声を風にのせ、主へと紡ぐ、アーフェ」
瞬間、あたりに風が吹き、少女の髪を舞い上がらせる。青年の結ばれた髪もたなびいている
「んー…」
風が収まり、青年が離れた後も、こめかみをぐりぐり押しながら少女は目を瞑りうなり続ける。青によって頭に吹き込まれた新たな世界の知識を整理している最中なのだ
しばらくして、ふっと一息つくと少女は顔をあげた
「…結構世界観が違う世界に来たわね」
「さすがに転生先の世界を指定することまでは出来ないからな」
「まぁ、その方がお互いの行動が読みにくくて良いと思いますよ。似てる世界だと、こちらも行動がよめる分、向こうもよみやすいですから。下手に色々と考えて行動しなくてすみますし」
むーんとまたもや唸っている少女に肩をすくめる黒に、頭に手をあててよしよしとなでる白
「せっかく新しい世界に来たんだ、楽しもうぜ。似てない分、新しい発見が沢山あると思うぞ。なぁ、青」
「…ああ。…大丈夫か…?」
うきうきと楽しそうに呟く朱とそれに同意を示す青に目を向けて少女は苦笑をかえす
「おかげで、収集した情報の処理に時間がかかるけどね。大丈夫、さすがにいきなり色々と入ってきて、頭がくわんくわんしてるだけ。一応規格外とは言え、元は赤ちゃんの身体なわけだしね」
にこっりと笑うと、さてと少女は話を変えた
「話を進めましょう。まずは一つ目。私のこの世界での名前は、シャルリーヌ=オーウェン。オーウェン公爵の娘。ただ、魂にきざまれているのは前の名前よ。だから、私を呼ぶ時はシャルでお願い。ただ、コードネームは別につけるわ。公爵令嬢とばれるわけにはいけないから。二つ目。転生前にも言ったけど、チーム…こちらで言うギルドを立ち上げる。と言っても、最初は冒険者ギルドに登録かな。幸い、チームの登録もできるから。あとは、商業ギルドにも加入はしたいわね。情報が手に入りやすくなるし、色々な国の王宮にも手がのばしやすくなる。だから、色々な方面の仲間を増やさなくてはだめね。三つ目は拠点。本拠点と、あとは他にもいくつか。と、いうわけで…報告をお願い♪」
「冒険者ギルドには俺たち4人でチーム登録をすませてある。これから活動するにも少しはお金が必要になるだろうから、稼いでおいた。そのツテで目ぼしい人材も見付けた。あとで詳しく伝える」
「商業ギルドは僕がトップで貿易商を始めたよ。大変だったね、最初は他の商業ギルドに何ヶ月かいさせてもらって、パイプをつくったから。あとはまだまだ知られてないけど売れそうなものをつくってる人に直接交渉したり、かな。まぁ、まだ小さいけど任せて」
黒、白とそれぞれ報告をする
「拠点は俺と黒が主に冒険者ギルドで頑張って稼いだお金で、ますはここの首都近くに広がる森のなかに家を建てたぜ。まぁ、一通りの生活用品は揃えたけど、建てること自体は黒がいるからそんなに費用はかかってないなー。んで、本拠点だけど、青が渡した情報の中に、ここから海をまたいで、北側に広がる凍土地帯あるだろ?」
「人が住んでないとこね」
「そ。というか今のこっちの世界の技術レベルでは人が住めないとこ。そこの地下を掘っといた。ある程度人が住めるように、色々頑張ったぞー俺」
「新しい世界がどうなのかわからないから、ほとんど細かいこと決めてなかったけど…私がぱっと思いついたことは網羅してるのね…」
「ははは、もっと褒めろー」
目をぱちくりとさせる少女、シャルの頭を朱はぐしゃぐしゃとかき混ぜた
「ちょっ、髪の毛が!うざったい!」
「えー、うざいはないだろー」
「そう言いながら更にかき混ぜんないで!」
真面目な話し合いから一変、じゃれあい始めた朱とシャルに黒がため息をついた
「おい、話が進まない。じゃれあいはあとでにしろ」
「えーつまんないなー」
「じゃれてない、朱が勝手に…!」
「うん、わかったからあとでね?シャル」
「うっ」
反論しようとしたシャルに微笑みをうかべつつも、有無を言わなさいオーラを出す白にシャルは黙り込んだ
「そ、それで…青は?」
取り繕うようにまだ発言をしてない青にシャルは目をやった
「…見付けた。ますは俺らと直につながる人と…シャルに近い人」
青の静かな発言に顔をひきしめたシャルは続きをうながした
「それで…うけいれてくれそう?」
「わからない。…ただ、元は魂がきれいな人しかいない。けど、今の境遇があまりよくなくて、みな大変そう…」
「そう…。じゃあ、まずはその人たちを迎えに行きましょう」
「うん。まずは、カデンに向かった方が良い。…ちょっとまずそう」
「わかったわ」
そう、今私たちは青が行った私に近い人を探してこのカデンに来た
…一刻を争うはずだ、青がまずいと言ったのだから
それなのに…
「守ってもらうどころか、ただの邪魔」
これで何回目の足どめだろうと、あたりをみまわした。自分を守れるよう囲むように立つ整った顔の男が4人。さらにそのまりを囲む、きわどい格好をした多くの女性たち
もうこれはやるしかない、突撃だ。そう決心したシャルは呼吸を整えると奇声をあげながら人だかりに突進した
「うあああああああああーーーーー!」
「「「「!?」」」」
突然奇声をあげて突進してきたものに驚きかたまりつつも押されて人垣が割れていく
人垣がみずから道をあけるようになる頃、ようやく抜け出せた
よしっと、ガッツポーズをしつつも4人につかまったらまた同じことなのでそのまま爆走しだす
「ちょ、え!?」
「おい、待て!」
「あらら」
「…」
人垣から抜け出し、そのまま走りだしたのを認めて声をあげたのは、上から朱、黒、白、青である
待てと言われて止まるひとなんかいるかー!と叫びつつも足を動かし続けた結果、あっという間に4人の姿がみえなくなった
見えなくなってもしばらく足を動かし続け街の奥深くにまで入りこんだ所でようやく足を止めた
「ちゃんと筋肉もついてるようで良かった」
結構な距離を走ったにもかかわらず息一つ乱していない身体にうむと満足にうなずくとあたりを見回した
「さてと、結構奥まで来た…!?」
瞬間、悲痛な声無き悲鳴がシャルの頭に響いた。悲痛な声が助けて、助けてを繰り返す。何回も、何回も。自分の心臓が鷲掴みされた気分だった。どくどくと心臓がなっているのがわかる。この声の持ち主だ、と思った。青が言っていた人は、私たちが探しに来た人はこの人だとわかった
シャルは声がする方へ走りだした
早く、早く、早くと心が急いた。早く見つけて、安心させてあげたい。こんなにも悲痛な声で叫び、心で泣いているこの人を助けたい。青から移動中に詳しい話を聞いた。その状況からして、一人で外を歩けるはずがない。けれども今は気配をさぐっても一人しか確認できない、ということは、隙を見て逃げてきたのだろう。捕まってしまう前に助けてあげなくては
どんどんペースが上がっていく。まだこの身体に慣れていないから、全力疾走はきつい。慣らしてから身体能力を確かめようと思っていた。けど、今はそれよりも早く会いたい。見付けたい。シャルは走り続けた
裏通りを結構走り、ある一角を曲がった時、建物の壁によりかかって座り込む、10歳くらいの女の子を見付けた。一目でわかった。魂が自分と似ていた
綺麗な金髪が腰くらいまでのびていて、とても儚げな容貌をしている。けれども、綺麗な薄い金色の目は一瞬驚愕に目を見開いたが、今はこちらを睨みつけている。彼女を追っているものだと思われたのだろう。元々は高価そうなワンピースがあちこち引き千切れて、汚れている。体力的に限界を向かえたのか、立って逃げようとしているのだが膝ががくがく震えて失敗している
一呼吸すると、手を横に延ばし風をあちこちに飛ばした。風が通った所の映像が頭の中に流れてくる。色々な方面に風を飛ばしたため、沢山の映像が頭の中に流れてくるが慣れてしまえば簡単に処理できる。これくらいの術なら朝飯前だ
「うーん…近いなぁ」
追手が結構傍まで来ていることを確認すると、目の前の女の子に意識を戻した。少し足に力が入るようになったのか、ちょうど立ちあがったところだ。このぶんだと走れそうだ
「行くよ!」
「え、えっ!?」
家を出てくるときに白に貰った服と一緒に貰って、着ていた外套を脱ぎ女の子に着せ、フードをかぶせ顔を見えなくすると手を引っ張り走りだした。走りだした瞬間、反射的に抵抗されたが、見かけによらず筋肉がきちんとついている体だ。びくともせずに走り続けた
「え、ちょ、はなして…」
「逃げてるのよね?こっちよ。そっちはだめ」
「え、なんで…」
「今は時間がないからあとでね」
有無を言わせず走り続ける。女の子も混乱してはいるが、追手とは違うと感じたのだろう。引っ張られるままについてきた。しばらく走り、ようやく大通りに出た。瞬間、誰かにぶつかった
「あ、いた。って、あれ?その子…」
「白!良いところに!」
大通りに出たところで私を分かれて探していたのだろう、白と会った
「うしろの子が?」
「うん。追われてるみたい」
「そう」
「…なんか、楽しそうね」
にこにこと笑いながら、うしろの子に見向きもせずこちらを見てくる白に訝しげにかえすシャル
「いや、ただね。一番に見付けたのが私で幸せだなーってね」
「は?」
「うん、やっぱりスカートを持ってきて正解だね。凄く可愛いよ」
「…」
「どうしたの?びみょうそうな顔して」
「いや、この状況見て気になるのがそこなのかと…」
「風が服とスカートが綺麗にひるがえって、ふともも…」
「もう、いいよ!とにかく逃げよう!」
止めないと、変態発言をずっとしそうな白を遮り、シャルはもう一度走りだそうとした
「ああ、追手のこと?それなら大丈夫だよ。私がもう朱に伝えて向かってるはずだから」
走りだそうとした瞬間、頭にポンと手を置かれ遮られた
「そうなの?良かった。じゃあ、もう大丈夫ね。あ、色々聞き出すように言っといて?」
ほっと息を吐き出すと、ずっと掴んでいた女の子の手を離した
「うん。でも、そこは朱だから平気じゃないかな?」
「そうね。もう、平気だ…」
そこで、女の子の方を振り向き、安心させるように微笑んだ瞬間、その子がガクンと膝をついた。そのまま倒れこみそうになるのをあわててシャルは抱えた
「あ…」
そのまま女の子は抱えられるまま気を失っていった
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