フルール・ガライア国境戦、終幕。
連続投稿、四回目
フルール王宮前の広場に多くの人々が集まっている
ガライアとの国境での戦いが終わってから既に十日が経っていた
サディアスは王の代理としてその間働いており、今日をもって正式に王としてたつことが決まった
ガライアに賠償金の支払いを求め、その代わりに戦場で捉えたガライアの兵士を返還することになった
捕まえた兵士の多くが人数を増やすために今回収集されたような農民出の兵士ばかりだったので、彼らは返還しても問題無いと会議で判断されたのだ
その会議で出席できるものたちは大幅に変更された
宰相の味方だった者達の多くが処刑されたり僻地に飛ばし監禁したり、反対に僻地に飛ばされたものたちを戻したり、人事異動をあちこちで行った
他にも賠償金を元手に市民の意見を聞く場をもうけ、王宮内に異様に貯えられている食糧を臨時配給として配ったり、税を引き下げ、他にもいくつかの政策をうちだし、ここ数日だが民衆の多くがサディアスを認めるようになった
前王は反省が全く見られず、監禁しても気が付いたら隣国と再び手を組む可能性があるので数日後、処刑されることになった
そしてこれから、王となったサディアスが露台で挨拶をしに出てくるということで、市民たちは広場に集まっているのである
しばらくしてサディアスが露台に出てくると民衆は歓声をあげた
サディアスはいつも無造作にまとめられてる真っ赤な肩よりも少し長い髪は綺麗に撫でつけられ、おろされており、飾り立てられている
以前につくられた真っ赤な正装を着込み、上には白いマントを羽織っている
『わぁぁぁぁぁ!』
『サディアス陛下ー!』
マントをはためかせながら、リヴァイアンを後ろにともなったサディアスは前に進むと、
声を張り上げた
「私は、これからこの国を立て直すことに全力を注ぐ!この国の明るい未来を目指し、進むことをここに誓おう!!」
『サディアス陛下万歳!』
『フルール万歳!』
露台から中へと入ったサディアスはほっと肩をなでおろすと、襟元を緩めた
「お疲れ様です、陛下」
控えていた最近近衛兵として任命され、今回護衛をしていた人たちが頭を下げる
「お疲れー、サディアス陛下。就任おめでとう」
「「「「「?!」」」」」
「何者だ?!」
突如として現れた少女に衛兵たちは剣を突きつける
「おろせ、知り合いだ」
「は、しかし…」
「以前話したろう。今回助けてくれたギルドの奴だ」
「じゃあ!この方が…噂の銀の蝶の…」
「そうそう。怪しいやつじゃないから剣をさげてくれると嬉しいな」
「どう見ても怪しいだろう」
呆れた顔でひいた衛兵たちの間を通って少女、蝶の前に立つ
「王から話を聞き出した後、突然消えたから本当に存在したいるのか、疑ってしまったぞ」
「元々存在が疑われてるギルドだし?」
蝶はイタズラが成功したような顔で笑う
「それで、依頼料はいくらだ?どうやって払えばいい?」
「さっき見てきたけど随分ギリギリでやりくりしてるじゃない?貸しにしとくわ」
「執務室に入ったのか?!…警備が甘いと怒ればいいのか、仕方が無いと目を瞑ればいいのか…」
顔に手を当て天井を見上げる
「も、申し訳ありません!」
頭を深く下げ謝ってくる衛兵にサディアスは顔をあげろと手をふる
「んで?貸しにということはいつか恩を返せばいいんだな?」
サディアスは顔を蝶に戻すと真剣な目で見つめる
「まぁ、いつか?」
「じゃあ、また会えるんだな?」
「ううーん、どうだろう?」
「…そうか。本当に世話になっからな。いつかはお礼をしたいんだ」
「…」
驚いた顔てこちらを見てくる蝶に片眉を器用にあげてなんだと聞く
「そんな殊勝な言葉が言えるなんて…ぷっ」
「馬鹿にしたようにわざわざ笑うな!」
クツクツ蝶が笑続けるのでサディアスはしまいには不貞腐れて横を向いてしまった
「ごめん、ごめん。本当に気にしなくて良いの」
「…」
笑いをおさめてサディアスの横顔を見つめる
嘆息すると顔を戻し、蝶の頬に手を当てた
「…なに?」
「いつか…絶対に捕まえてやる」
「へ?」
そのまま顎に手を滑らせたサディアスはクイッと上を向かせると唇にキスを落とした
ちゅ、と音をたてて離れていく唇をポカンと見送る
「なに、間抜けな顔をさらしてんだ」
ムニュと頬を摘み、サディアスはニヤリと笑う
「いつもいつも人を馬鹿にする罰だ」
「なっ、なっ、なっ!」
顔を真っ赤に染め上げ蝶は後ずさる
「は、初めてなのに…!」
「それは、それは、ご馳走様?美味しかったぞ」
「おいし?!…あ、え、あ、う、わ、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
叫び声をあげて蝶は廊下を爆走していく
と、思ったら、いきなりピタリと止まり、クルリと振り返るとびしっとこちらを指差してきた
「捕まえられるもんなら捕まえてみろ!ばーか!……………うっ、サ、サ、サ、サディアスのへんたいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
振り返ったは良かったが、いまだにニヤニヤ笑うサディアスを見てまた羞恥がわいてきたのか、顔をさらに真っ赤にして再び走り去って行った
「本気ですか?」
ピキンと固まっている周りの代わりに聞きたいことをリヴァィアンが尋ねる
「お前は反対か?」
「いいえ。ただ、彼女、魔法で自分の姿変えてますよ?」
「だろうな」
「そんなんで本当に捕まえられるのですか?」
「やれるさ」
「どこからそんな無駄な自信がわいてくるのですか…」
「仕方が無い。欲しいと思ってしまったんだ」
「…おじいさんにもなって、後継ぎがいないということにならないよう、頑張ってくれればわたしはいいです」
「ふむ。努力しよう」
世間話でもするように、蝶が去ったのとは反対の方へ歩きだした二人の後をようやく硬直が解けた近衛兵たちが慌てて追って行った
序章終了。
次、彼女の日常にいきます