銀の蝶の紋様を背負うものたち
連続投稿、三回目
『トンッ』
『ト、トンッ』
『トンッ』
『トンッ』
『ト、ト、ト、トンッ』
ここは王宮の屋根の上、舞いながら足で陣を描いていく
歌うように囁くように詠唱を紡ぐ
『始まりの刻が鈴を鳴らす
蛹は蝶となり空へはばたき
甘い匂いを垂れ流す花たちの
蜜を枯れ果てるまで吸い付くす
我らは蝶
いざ空へ舞い上がらん』
舞いながら指なし手袋をはずすと、手の甲に書かれた蝶が現れる
そのまま手をまっすぐに伸ばすと、まわりに銀色の透明な蝶がわまりに沢山現れ、一瞬で弾けとんだ
残ったのは、銀色にキラキラ光る落ちていく粒たちだった
『チリーン』
『チリーン』
『チリーン』
ここはフルールとガライアの国境付近の第一砦近くの崖の上、遠くには既にガライアの兵たちの行軍が見えている
ヒラヒラと銀色の透明な蝶が、蝶が背中に刻まれた真っ黒な外套をはおり、フードをふかく被った二人組の前に現れた
「聞こえたー?」
「ええ、合図ですね」
「それにしても、ずいぶん沢山の兵を連れてきたよねー。ふーふーふー、今回はどんな叫び声をあげて散ってくれるかな」
「悪趣味ですわよ」
「特大な、血飛沫、あげてくれる、かなっ」
「…聞いてませんね」
「ウィル…聞こえた?」
「聞こえた!聞こえた!ピッタリだね!ちょうどやつらが国境にさしかかったところ!さっすが、マスター!よし、ウィリー!どっちが多くやれるか勝負だ!」
「だ、ダメだよぅ。お仕事なんだから」
「楽しんだ方がお得じゃん!」
「…意味がわからないよぅ。けど、人の命がかかってるんだから、遊ぶのは不謹慎だよ?」
「えー、ルーネねぇちゃんと組んだとき、やったぞ?」
「ルーネねぇさんは戦闘になると人が変わるから…」
「合図ですね。さて、始めますか」
「…コクリ」
「ウィルが勝負だとか言って遊んでないといいですが」
「…コクリ」
「そうですね。本当にありえそうですね。…終わったら、ウィリーから聞き出しましょう」
「…コクリ」
「始まりの合図か」
深い森の中、フルール国内に入り込んでいた間者を屠った男は黒い外套のフードを取ると、現れた蝶に触れる
「マスター?」
『クローゼンね。首尾は?』
「やっぱり結構な人数が入り込んでますよ。上手く隠してますが、戦い方でガライアだとバレバレです。アホだな」
『王宮内の方は黒や青が、城下町やその近辺は朱が頑張ってる。他は任せるわ』
「ケルガとキャロは潜入して、伯爵や殿下の手の者と一緒にガライアへ通じる裏ルートを探り出して、予定通り一つ一つ潰しています。だからしばらくは連絡をよこさないと思いますよ。俺は国境付近の第三砦まで近付いてきたので、いったん砦に行って殿下から依頼を受けたことを告げて、それからまた森に潜って間者を見つけ出します」
『はいはーい』
「どうもー!今晩は!…いや、こんにちはか?」
戦闘準備をあらかた終わらせて、第一砦を出発し、行軍中の一団の前にいきなり人影が現れた
「…君が殿下が言っていた味方か?一人か?」
周りがおどろくなか、一番前を進んでいたこの軍の責任者の男がジロジロと見やる
ぶつぶついまだに挨拶のことを考えているアルベルトは全く聞いていなかった
「…おい?」
「!お、悪い、悪い。えーっと?」
「だから、君が殿下が送ってくれた味方なのかと聞いている。一人だけのようだが?」
「いや、俺は戦闘に参加しない。多分、もうはじめ」
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』
「?!なんだ、この魔力の奔流は…」
魔力の余波が伝わり、地面を大きく揺らしていく
「あーあー、あいつまた暴走してんな。先走りやがって。…おっさん!この先の大きくあいた場所で俺の仲間が戦ってる。俺と同じく真っ黒な外套羽織ってるからわかりやすいと思うから、攻撃しないでやってくれ!じゃな!」
有無を言わせず去って行ったアルベルト
あっという間に気配すら掴めなくなり、仕方なく戦地に一同は急いだ
森を抜けた途端、目の前に広がっていたのはたった二人に翻弄されているガライア軍だった
一人は両手に大きな鈴を一つずつ持っており、その鈴で剣を上手くいなしている
あれでどう攻撃をするのか伺っていると、いきなりその鈴を投げた
鈴に繋がっている布をグイッとひきながら大きくゆらすと、とても大きな音が鳴りーーー
『ブシュウ!』
鈴のまわりにいた人間たちが内部から破裂した
それを見ていたガライア軍から悲鳴があがる
そして、その様を見て嬉しそうな声をあげる女の声がここまで聞こえた
いや、聞こえてしまったとも言えるか…
「…なんなんだ」
もう一人の方を伺うと両方に細長い刃がついた槍を軽々振り回していた
一見普通そうに見えるが、そいつが一振りするだけでそこから扇状に人間の手足や体の一部が飛んでいく
見えない刃が飛んでいるように
こちらは奇声などあげていないが時折ふと見える口は常に弧を描いている
まるで遊ぶのが楽しいとでも言うように
徐々に奴らの近くからガライア軍は離れようとするも、奴らの移動の方が早くあっという間に群れの中に入り込み、どんどん人数を減らしていく
二人で足りるのではないかと一瞬思ってしまったが、そういうわけにはいくまいと、号令をかけ、ガライア軍を方位するように広がりながら、突っ込んで行った
奴らが味方には攻撃をあてないことを祈りながら
「うんうん、ウィル君、張り切ってるねー。ウィリー君は相変わらず、肝が小さいなぁ。そんなビクビクしなくても」
第二砦付近の国境線付近でガライア軍とフルール軍が衝突している所から少し離れた、木の枝の上に白は寝転びながら、双眼鏡で戦いを眺めていた
あふ、とあくびをするともう一度双眼鏡を覗いた
覗いたその先には、ウィルがあちこちに特大な雷を落としているのがまず目に付く
一応、ガライア軍を狙っているのはわかるが雷が大きすぎてフルールの騎士たちも余波を食らう範囲にいる
それをウィリーが落ちた雷の一部を操ってあたらないようにしている。時々、いてっ!との声が響いているので全てを防ぐことはできていないみたいだが。けれども大きな怪我をしている人はいない。特大の雷を落とせるウィルも凄いが、まわりを見て細かい操作をできて、かつレーザーを飛ばしてきちんと攻撃もしているウィリーも凄い
我が弟子たちは大分立派になってきたと関心すると白はゴロンと仰向けになり、寝る体勢になった
「半分寝やがったな」
「どうした?」
呻いた蝶の後ろにいた先ほど合流した黒が尋ねる
「白よ。一応、間者を見つけだして屠ってはいるんだけど、木の上に寝ながらやってる」
ぶっ、と吹き出した黒はポンポンと蝶の頭を叩き、宥める
「あいつは寝るのが好きだからなぁ…。仕事をしているのなら許してやってくれ。切羽詰まるようならさすがに起きるだろ」
「…黒は甘すぎるのよ」
「そんな不貞腐れんな。ほら、まだ俺らもやることは残ってる。行くぞ」
ジッと黒を見つめるもニコリと笑いかけられる
はぁとため息をつき、頭をふると歩き出した