ドキドキワクワク。あなたの訪れお待ちしております。
大変お久しぶりです。
前に感想を頂きまして、イベントはおいしいことをすっかり忘れておりました。
このイベントは絶対書くぞ!と決めて、自分自身にノルマを課していたのですが、なんとかクリアすることが出来ました。
少しでも楽しんでいただけたらと思います。
「皇くん!お願いっっ!!」
今、澪は必死だった。
皇紀の前に膝立ちになり、手と手を合わせていた。
合わせた手に力が入っていく。
「みおちゃん。かおあげて?」
「ううん!皇くんがうんって言ってくれるまであげられないわ」
困ったような声が皇紀から聞こえてくるも、澪はどうしても皇紀の望むように顔を上げることが出来なかった。
「うちの息子を困らせないでちょうだいな♪」
ポコン。
予想していなかった衝撃に頭を震わせながら、「あれ?前にもこんなことなかったっけ?」と澪は思った。
拝むのをやめて背後をうかがえば、丸めた新聞を持った亜紀恵が立っていた。
笑顔は笑顔だが、周りを包む雰囲気はただならぬものを放っているようで、澪の血の気はざーっと落ちていく。
澪は困っていた。
とっても困っていた。
でも、亜紀恵は怖いと感じていた。
ゴクリと唾を飲み込む。
亜紀絵恵が口を開く。
「ー」
「おかあさん」
声が発される前に幼い声がそれに割り込んだ。
「”めっ”でしょ!いまは、ぼくとみおちゃんがおはなししてるのよ。」
困った顔をしていると思った皇紀は頬を膨らませて怒っていた。
亜紀恵も予想外の皇紀の反応に不穏な空気はあっという間に消えてしまう。
今度は何の含みもなく、亜紀恵が微笑んで口を開いた。
「あらあら。お母さん、皇紀が困っているのだと思ったけど、早とちりしちゃったのかしら?」
「ううん。こまってたのはほんとう」
「…」
軽くなった空気にほっと息を吐き出したのも数秒、またもや訪れる緊張。
パクパクと口を開けるが、声は出ず、皇紀を見るしかない。
「やっぱり困ってたんじゃないの」
「う~ん…でも、こまってたのは、みおちゃんがなんでぼくをおがんでいるのかがわからなかったからだよ?おねがいがあるのはわかったけど、なにをおねがいしてるのかわからなかったから。…おねがいきいてあげたくても、ぼく、どうしていいのかわからないもの」
「…」
「澪ちゃん…」
「ご、ごめんなさい」
簡単に説明をしてしまえばこういうことだ。
澪は、皇紀に会いに宮ノ内家を訪れた。
皇紀を見かけるなり駆け寄り、目線を合わせるためにしゃがみ込む。
皇紀が目を見開いて驚いてる間に、両手を目の前で合わせて頼み込みはじめた。
何をどうして欲しいのかの願いの内容も話さずに。
さすがの皇紀もこれには困った。
常々、母親に人からの頼まれ事は、内容も聞かずにほいほいと引き受けては駄目だと言われていたのだ。
母親との約束事を破ることの出来ない皇紀は、それ故に大層困っていたという事だったのである。
「ごめんね、皇くん…」
「だいじょうぶだよ~。それでね、みおちゃんのおねがいってなあに?」
「あ、あのね…明日の24日のことなんだけど…」
「クリスマスかいだね!明日は保育園お休みして朝からみおちゃんちいくよ」
「う、うん…」
「?」
何故か歯切れの悪い澪に皇紀が首を傾げる。
もごもごと口を動かして続きを言わない澪の前にいい香りのするカップが置かれた。
「こぉら、澪ちゃん!はっきりと言っちゃいなさい。いつまでもグダグダした人のところにはいい事なんて起こらないわよ!!」
「!そ、それは困るっ!」
「なら、さくさく言っちゃいなさいな」
「あう…皇くん」
「なぁに?」
「ーっ!!明日、珠姫のクリスマスプレゼントになってください!!?」
「ーーーーーえ?」
「ーーーーーは?」
仲良く皇紀と亜紀恵の声が揃う。
澪は言いたいことを言い終えたのか、心なしか気の抜けた顔をしている。
「…ーーええと、ぼく…みおちゃんちのこになる?」
首を傾げて皇紀が聞けば、
「っ!!む、無理!無理無理無理無理無理~~~~~!!皇紀はあげられませんっ!!?」
いつもの余裕と落ち着きはどうしたのかと言わんばかりに亜紀恵が叫んだ。
「うひっ!?」
亜紀恵の剣幕に澪は座ったソファから飛び上がった。
飛び上がった拍子に、入れてもらったコップの中身が外へこぼれて机にちいさな水たまりを作ってしまった。
「ちょっ!お、落ち着いて!!」
「これが落ち着いていられますかっ!!うちの皇紀はあげません!!!」
「いや、べ、別に頂戴とは言ってなー…」
「言ったじゃないの~~~~~!!?」
母の剣幕に呆然と見入っていた皇紀だが、我を取り戻してソファから立ち上がり、騒がしい居間をとっとこと出ていくのであった。
「落ち着きましたか、亜紀恵さん?」
「はい…」
「澪さんも?」
「はい…」
数分後、居間は落ち着いた状態を取り戻していた。
しょんぼりと頭を落とす亜紀恵と澪。
その中間に近い場所に立つ皇輔。
「よろしい。ー皇紀、もう大丈夫だからおいで」
「わかった~」
トコトコと部屋の入り口から現れた皇紀。
構図を見ればお分かりだろう。
皇紀は父ー皇輔を呼びに行ったのである。
祝日で休みだった皇輔は、2階にて読書中であったのである。
「それで、皇紀に、珠姫ちゃんのクリスマスプレゼントになって欲しいとのことだったのだが、もう少し詳しく教えて欲しいのだが」
「はいっ!あの…」
ちらりと澪が皇紀を見る。
皇紀はそれに気づかなかった。
何度か皇紀をみた後、澪は意を決して口を開いた。
「明日のクリスマスのために、サンタクロースに欲しいものをお願いすることになって、珠姫に何が欲しいか聞いたんです。そしたらー」
「…皇紀が欲しいと」
「そうなんです。珠姫にはそれは無理だと話したんですが、納得してくれなくて…仕方なくサンタクロースにお手紙を書いたんです」
「わあ!たまきもサンタさんにおてがみかいたんだ!」
「…そうなのよ、皇くん。でも、やっぱりサンタクロースでも皇くんは無理だって返事が返ってきたから、珠姫に違うものを頼みましょうって言ったの」
「そうなんだ~。それで、たまきはなにをたのんだの?」
「…」
「…」
「…」
皇紀が純真な瞳で大人たちを見る。
居たたまれなさそうに3人が身じろぎした。
「珠姫はね、”何もいらない”って言うの」
「え?」
「皇くん以外は”いらない”って」
「…え、と」
皇紀はぽかんとした顔をして、その後、頬をポリポリと掻いた。
そこまで珠姫に求められていることに、皇紀もちょっと照れたようだった。
「でも、クリスマスプレゼントないと悲しいでしょ?」
「うん。そうだね」
「だから、無理を承知で、皇くんに明日は1日、プレゼントとして珠姫のところにいて欲しいの」
「どうやって珠姫のクリスマスプレゼントになるの?」
「珠姫が今日寝てしまってから皇くんはうちに来てもらって珠姫のところで寝てちょうだい。それで、朝起きた珠姫にある言葉を言って」
「なんていうの?」
「『メリークリスマス!』…やってもらえるかな?」
「うんっ!いいよ!!」
そんなことならお安いご用と皇紀は笑顔で頷いた。
大人たちはほっとひといきついて笑顔になった。
待ちに待ったクリスマス。
みんなに笑顔が訪れますように。