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オレの使い魔


 ……何でこうなった。その時の俺は途方に暮れた。


 異世界に来て、帰れなくなって、なし崩し的に魔王討伐に参加させられるとかマジでどうなの。

 命のやり取りなんて身近にない現代日本で暮らしていた俺にこの世界は容赦なかった。平和ボケした日本人にはもう本当に勘弁してくれっつー感じ。平和ボケの何が悪い。身の危険がない事は良い事だ。常に命の危険にさらされてる荒んだ生活なんてたいていの人間は嫌だろう。


 そもそもどうして俺が魔王を退治しに行く勇者一行に付いて行かねばならないのか。何て事はない。俺を喚び出した連中が勇者一行で、魔王を退治するための旅の途中であり、今後の俺の身の振り方を決めるには魔王を倒した後にお偉いさんに決めてもらうしかないから、らしい。

 安全な場所で魔王退治が終わるのを待ってるとか、今からお偉いさんの所へ行くなんて俺の案は却下された。国が滅んだら保護も保障もないだろ、と半ば脅された形。反則的な魔法を使えた俺がいた方がいいのは解る。出来るだけ安全に、かつ早く旅を終わらせるためにも『使えるものは使おうぜ☆』精神も良いとは思う。……俺に関係がなければな。


 そんなこんなで魔王退治御一行様に一名様追加で付いて行く事になった俺は、それなりに活躍しつつ旅を終えた。え?旅の様子とか魔王との闘いとかはって?説明がめんどいからパス……。まあその内話す事もあるかもしれないかもな。


 この旅の途中でこの世界の常識やら何やらを教えてもらいながら今後の事を考えると溜息しか出てこなかった。異世界で言葉がわかっただけマシなのかもしれないが、生活するために色々と一から築いていかなければならないなんて。

 しかし人間は順応する生き物である。異世界に召喚されて数年。おかげさまで食べるために生きてた動物も捌けるようにもなりました。

 始めの頃は無理だった。自分の手で生き物の命を奪うのはなかなか慣れなかった。だって現代では肉も魚もパックで売られていたんだから。生きているものを絞める時の断末魔の声とか、手に伝わる感触とかホントもう、な……。そしてようやく捌けるようになっても食えなかったり。……うん、俺の血肉になってくれる食べ物に感謝。

 魔物を倒していただろうって?魔物を倒していた時は魔法しか使ってなかったから直に命を絶つ感触はなかったし。そもそも殺るか殺られるかという状況で自分の命を選択するのは当たり前だ。生きたいのならば。


 ゴタゴタが無かったとはとてもじゃないが言えないが、そんなこんなで魔王討伐後。それなりにのんびり暮らしていた俺の元にまた厄介ごとがやってきやがって下さいました。溜息しか出ないな、ホントに。






 現在、俺の住まいは自然あふれる森の中の一軒家である。王都の住まいをお偉いさんから勧められたが、政治やなんかの厄介事には巻き込まれたくなかった為、せめてもの抵抗で王都から離れた場所に住む事にしたのだ。この世界に居るからには完全には厄介事からは逃げられはしないのだが。

 なんせ勇者様御一行に数えられている『偉大なる魔法使い様』というのがこの世界での俺の肩書き。しかも異世界人で、国や個人に忠誠を誓っているわけでもなし。下手したらこの国の、あるいは世界にとって都合のいいように使われ、使い捨ての駒のごとく消される可能性が常に付きまとう。大きな力を持つものを野放しにするのは国としても、個人の感情としても危機感が募るのは明白。

 考えてもみてほしい。自分の住む場所に核爆弾並みの兵器がいつ爆発するかもしれない状態で放置してあるのだ。普通は排除しにかかるだろう。


 実際魔王討伐の祝いの式典中、城に滞在していた時は暗殺者が来ていたし。常時気が抜けない中、寝不足やらこの世界に一方的に喚ばれた理不尽やら闘いのストレスやら、その他諸々が溜まりに溜まりまくった俺はぶち切れました。

 お偉いさん相手にOHANASHIである。お偉いさんが誰とか、どんな手段を使ったとかの詳しくは省く。HAHAHA、肉体言語は使ってませんよ?仮にも俺は魔法使いだし。俺以外の勇者一行と違って肉弾戦は向いてないし。でも魔法って肉体を傷つけるもの以外にも色々あるよな。ふはは。

 そんなわけで平和主義者な俺は、こんな事態に巻き込まれた賠償金と互いの不干渉という約束を取り付け、一応の安息の地を得た。そして勇者御一行の伝手と国からの賠償金とを使い、王都から離れた街にある森の中に家を建てたのである。






 森の中の一人暮らしにもそれなりに慣れた俺はその日、日用品を買い足すために街に出ていた。人間、一人では生きていけないものだ。隠者を気取ろうとも生きていくためには色々と必要なものも出てくる。

 で、欲しかった物を手に入れ、買い物から帰ってきたら家の玄関の真ん前に何かあるのが見て取れた。出かける前はなかった物だ。近づくと手の平大の丸い物体が二個、ドアの前に転がっている。白いのと黒いの。陽の光に照らされ、キラキラとしているそれは宝石のようにも見えた。

 ……正直嫌な予感しかしなかった。まったくもって怪しすぎる。何かの罠かと勘ぐるほどに。誰が置いたか知らないが、もうこれは厄介事だろう。見て見ぬ振りをしたいがドアを開けなければ家に入れない。逡巡したのはわずかな間。俺はその二つを拾い上げ、全力で樹々の生い茂る方へ投げ捨て……ようとしたら、ガラスの割れるような甲高い音をたてて石ころ(仮)が割れた。


「あるじー」


「あるじさまー」


 石ころ(仮)はどうやら何かの卵だったようだ。割れた欠片はサラサラと砂のように崩れ、俺の手の中には卵から生まれた何かが。ああ、やっぱり厄介事か……と遠い目をした俺は悪くない。ここは投げるではなく蹴り飛ばすのが正解だったか?と現実逃避する俺は悪くない。悪いのはおそらく多分きっと俺の運なのだろう……。あーもう。


「ムシするでない!」


「あるじさま、気をしっかり」


 右の手の平の上でピコピコ飛べ跳ねながら自己主張する謎の生き物その一と、左の手の平の上に座り込みペシペシと叩く謎の生き物その二。現実かな、現実だな、現実でしかないな。この世界は卵から人間が生まれるのか?ってそんなわけあるか。両手に四、五歳程の年齢的にも物理的にも小さい女の子を乗せた俺は途方に暮れた。

 人間ではあり得ない。もしかしたら魔物とか?


「なっ、まものなどではないぞ!」


「ゆいしょ正しいせいれいなのですー」


 どうやら口に出していたようだ。しかし精霊ときたか。反則的な魔法の力まであるのに精霊まで……。精霊信仰もあるこの世界で精霊の主とか。やっと落ち着いてきた状況にまた爆弾が降ってきたな、オイ。

 このままここで突っ立っていても仕方ない。家の中に入るとしよう。色々と聞きたい事もあるしな。しかし精霊っつーのは卵生なのか。いや、うん、まあどうでもいい事だな。






「で、何でお前ら俺ん家の前にいたの」


 一応リビングと言えるような部屋で話を聞く。ちなみにウチは俺のこだわりで土足厳禁である。家を建てる際、どうせなら住み慣れた環境がいいかと思い一般的な現代日本風の家を建ててもらったのだ。家の中でまで靴は履きたくない……蒸れるし。雨の日の後の掃除とか面倒くさいし。

 お茶と一緒に机の上に置いたクッキーを口いっぱいに頬張る自称・精霊共に胡乱な目を向ける。これ食ったら出て行かないかなーと考えるがまあ無理だろうなあ。『主』言われたしな……。


「われらせいれいは力のかたまり。しぜんの力とまりょくのたまる『場』で生まれるのだ」


 腰まである真っ直ぐな黒髪に、紫の瞳のちんまいのが答える。服はなぜか紫地に鮮やかな華の描かれた振り袖である。そして言葉を続けるこちらは赤地に鮮やかな鳥が描かれた振り袖を着たちんまいの。こっちはオレンジの瞳にふわふわした肩の下くらいまである金髪だ。


「われらはあるじさまのまりょくとこの森の力が合わさって生まれたのです」


 何てこった。この厄介事は意図しないが俺が原因か!あまりの予想外な出来事に机に突っ伏する。動かなくなった俺の頭をつつく黒いのと髪を引っ張る金色の。わかった、わかったから止めろ。家の家系にハゲはいないらしいけど髪の毛薄くなりそうだから止めてくれ。

 気を取り直して話を続ける。どうやら『場』で飽和状態になった力は精霊となるらしい。なら精霊というやつはポコポコ生まれていそうだが、自然の力が溜まるのにも魔力が溜まるのにも、そしてその二つの力が合わさるのにもとてつもない時間がかかるそうで滅多にいないという。『場』自体も少ないから余計に。

 そんな希少生物(?)な精霊が何故俺ん家に二匹……二体もいるのか。答えは簡単、俺の魔力が桁外れに強かったから。


 いやもうほんとかんべんしてくれ。


 もしかしてこの魔力がある限りまたこんなんが増えるのか?と戦々恐々として聞いてみたらそれは無いとの事で少しほっとした。だだ漏れになっていた俺の余剰魔力は、ほぼこいつらに流れていくので今までのように大量に自然の力とは交わらないらしい。

 ちなみに普通生まれたばかりの精霊には姿形は無いそうだ。が、こいつらの場合は俺の力が強かったために姿が人の形になり、俺の影響を受けて着ている物も着物になったということだ。日本人だからなー。気は早いが上の妹の成人式の着物とかも視野に入れてたしなー。まさかこんな所でこんな影響が出るだなんて誰も思うまいよ。

 それにしても生まれたばかりでよくこんな知識を持っているものだ。


「せいれいとしぜんはつながっておるしの。ほかのせいれいによってたくわえられたちしきも、しぜんをかいしてばっちりうけついでおる」


「力のつかい方もだいじょぶなのです」


 おいおいおい、チートだな精霊ってやつは。生まれたばかりでこれって。


「さて、あるじよ。われらに名をつけるがいい」


 黒いのよ。居丈高に胸を張り、腰に手を当てて仁王立ちする姿はお子様がやっても微笑ましいだけである。そして金色の。お前はお菓子に夢中だな。ハムスターみたいに両頬を膨らませてまで頬張るな。ああ、ほら、口の周りに菓子クズを付けた上にぼろぼろこぼしてるから。

 しかし名前、なあ。付けるのはどうせこれから長い付き合いになるのだろうし、呼び名が無いのはさすがにどうかとも思うし別にいいんだが何か特別な意味があるのか?。


「名はひとつの『呪』であり『守』」


「われらをよりせんめいにかたちつくるものなのです」


 何か他にも色々言っていたがまあいい。俺とこいつらの関係はファンタジーな知識でいう所の使い魔とか使役精霊とかいうやつらしい。これからどうなるにせよ、こいつらは俺の側にいる事は決定しているようだ。

 それに元は俺の魔力である。俺の子供みたいなもの、か?恋人も嫁もいないのに子供とか……。あー、うん。ちょっとへこんでいいかな。






「黒髪の方が『ラーリル』、金髪の方が『ルーレロー』でどうだ」


 二人合わせて『らーりるーれろー』。黄色い着物を着て箒を持ったおじさんの口調で言うのがポイントだ。センスが無いとか安易だとかの意見は受け付けない。俺にそれを求めるのが間違いだ。


「うむ、『ラーリル』じゃな。あいわかった。あるじよ、これからよろしくたのむ」


「えっと、『ルーレロー』なのですね。よろしくおねがいしますー」






 とにもかくにも、先行きは不安なものが過ったり過らなかったりするがこれからよろしくな、ラ行共。

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