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第45話|値段が上がる音(挿絵)

北の会議室には、窓がない。


正確には、窓が要らない場所に作られている。


地図は壁に掛かっていない。

帳簿も積まれていない。


ここにあるのは、椅子と机と、人間だけだ。


「……断られたか」


最初に口を開いたのは、補給側の調整役だった。


声に感情はない。

結果だけを扱う人間の声だ。


「断った、というより――値段を聞き返された」


ギルド側の使いが答える。


こちらも同じく、温度がない。


「値段?」


「自分たちが、いくらで扱われる存在かを」


一瞬、沈黙が落ちる。


誰かが椅子に体重を預ける音だけがする。


「……面倒だな」


北の男が言った。


苛立ちではない。

手間に対する正直な感想だ。


「普通は、条件を出せば飲む。

 飲めなければ消える。それだけの話だ」


「だが、あの団は消えない」


ギルド側が続ける。


「消えないように動いている。

 しかも、こちらの帳簿を汚さずに」


“汚さずに”


その言葉に、全員が頷いた。


誰も死んでいない。

誰も救われていない。


責任の所在が、どこにも残らない。


「判断役がいる」


北の男が言う。


「だが、前に出ない。

 名前を出さない。書かせない」


「厄介だな」


今度はギルド側。


「管理できない。

 だが放置もできない」


調整役が指を組んだ。


「……剣は?」


「グレイか」


「ええ。

 あれは使える」


北の男は即答だった。


「前に立つ。

 躊躇しない。

 終わらせる」


「だが――」


ギルド側が言葉を継ぐ。


「判断役と組むと、

 成立しない」


成立。


その一語が、全員の共通語だった。


「切り離せるか?」


北の男が問う。


調整役は、少し考えた。


「……時間はかかる。

 だが可能だ」


「ならいい」


北の男は、それ以上興味を示さない。


「問題は、団の方だ」


ギルド側が言う。


「名を持たないまま、

 実績だけを積み始めたら?」


調整役が息を吐いた。


「……値段が上がるな」


誰も否定しなかった。


安く使えない団。

管理しにくい団。

だが、放置できない団。


「試すか」


北の男が言った。


「“選ばせる”」


「危険だな」


「だからいい」


北の男は、淡々と続ける。


「向こうに選ばせろ。

 こちらが用意した中で、

 どれを取るか」


ギルド側が理解した。


「失敗すれば、

 自滅。

 成功すれば――」


「値段が、さらに上がる」


会議は、それで終わった。


結論は一つ。


刃は、まだ出さない。


その頃。


治療院の奥、

灯りを落とした部屋で、

ヴォロは紙を広げていた。


依頼書ではない。

告知でもない。


「……来てるな」


グレイが言う。


外から戻ったばかりだ。


「来てる」


ヴォロは頷く。


「三つ」


紙の上には、

簡単な記号が並んでいる。


・報酬が異様に高い

・撤退基準が曖昧

・成果定義が“成立”


「全部、罠だな」


剣士が言う。


「選ばせる罠だ」


補給兵が続ける。


「どれを取っても、

 責任が集中する」


術士が静かに言った。


「……でも、

 取らないと

 “仕事を選ばない団”になる」


ヴォロは、紙を一度畳んだ。


「だから――」


再び開く。


「四つ目を作る」


挿絵(By みてみん)


全員が顔を上げる。


「用意されてない仕事を取る」


グレイが笑った。


「相変わらず、性格が悪いな」


「性格じゃない」


ヴォロは淡々と答える。


「配置だ」


補給兵が、地図を広げる。


「……実は一つ、

 表に出てない案件がある」


術士が視線を向ける。


「治療院関係?」


「近い」


補給兵は指で線を引く。


「旧街道沿いの廃集落。

 公式には“放棄済み”。

 だが最近、

 夜だけ人が出入りしてる」


「密輸?」


「たぶん。

 でも依頼は出てない」


ヴォロが聞く。


「被害は」


「……出始めてる」


術士の表情が変わる。


「治療を受けられない負傷者が増えてる。

 理由が分からないまま」


沈黙。


グレイが言った。


「誰も頼んでない仕事か」


「だからこそだ」


ヴォロは、紙を裏返した。


「条件は、こちらが決める」


剣士が短く問う。


「報酬は?」


「後払い」


全員が、少し笑った。


「撤退基準は?」


「死者が出る前」


術士が頷く。


「成果定義は?」


「――成立させないこと」


その一言で、

全員が理解した。


安くはない。


だが、

値段はこちらが決める。


グレイが剣を肩に担ぐ。


「面倒な団だな」


「だから、まだ生きてる」


ヴォロはそう答えた。


外で、雪の音が変わる。


遅れて届く音。


だが今回は、

その遅れが

選択肢だった。


値段は、

もう一段、上がる。

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