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第38話|同一座標(挿絵)

 北の夜は、足音を裏切らない。

 踏めば沈む雪。

 沈めば、必ず音が遅れて返ってくる。



 ヴォロはその遅れを数えながら歩いていた。

 一、二。

 遅れが二拍を越えない場所。

 逃げるには足りるが、走るには危ない。



 依頼書は短かった。

 座標のみ。

 理由なし。

 条件なし。

 報酬は「成立した場合にのみ提示」。



 ――試しだ。

 それも、善意ではない。



 四人は並ばない。

 横一列ではない。

 前後も決めない。

 決めた瞬間に、それは“隊形”になる。

 隊形は、管理される。



 剣士は右。

 視界の端で、刃が抜ける距離。

 術師は後ろ。

 声が届き、血が見える位置。

 補給兵はさらに外。

 足跡の消え方を見ている。



 ヴォロは、どこにも立っていない。

 立っていないから、全員が見える。



 雪の音が変わった。

 遅れが、なくなる。

 踏み固められているわけではない。

 凍ってもいない。

 それなのに、沈まない。



 ――誰かが、先に立っている。



 ヴォロは足を止めた。

 止めたことで、後ろも止まる。



 前方、谷の入口。

 影が一つ。

 剣を背負っている。

 腰ではない。

 抜くための位置ではない。

 グレイだった。




挿絵(By みてみん)



 距離は、二十歩。

 踏み出せば届く。

 だが、踏み出さない。



 グレイも動かない。

 互いに、武器を見ない。

 見る必要がない。



 風が一拍、止んだ。



「……来たか」



 グレイが言った。

 声は低い。

 問いではない。



「来た」



 ヴォロはそれだけ返す。

 名は呼ばない。

 呼べば、役割が確定する。



 グレイは谷の縁を見た。

 崩し跡。

 意図的な雪割り。



「逃げ道は」



「ある」



「戻れるか」



「条件付きで」



 それ以上、言わない。

 言えば、条件が言葉になる。



 四人の位置を、グレイは一瞬で数えた。

 数えたが、評価しない。



「……増えたな」



「減ってない」



 その返答で、十分だった。



 ここに来た理由は同じだ。

 だが目的は、まだ一致していない。



 グレイは剣の柄に手を置かなかった。

 置いた瞬間に、勝ち筋が走る。



「仕事か」



「配置だ」



 短い会話。

 だが重い。



 グレイは、雪を一歩踏んだ。

 沈まない。

 音も返らない。



「……整えられてる」



「北がやった」



「だろうな」



 それ以上の説明は要らない。



 同一座標。

 同一夜。

 同一条件。

 ――ぶつけるための配置。



 剣士が一歩、動いた。

 動いたが、前には出ない。

 間合いの端に立つ。



 術師は術を構えない。

 構えれば、戦闘になる。



 補給兵は視線を落とす。

 雪層。

 割れ目。

 踏み抜ける場所。



 全員が、同じ判断をしている。

 まだだ。



 グレイは息を吐いた。

 白い息が、すぐ消える。



「……今日は、抜かねえ」



 ヴォロは頷かない。

 同意すると、約束になる。



「俺もだ」



 それだけ言う。



 沈黙が戻る。

 だが沈黙は、解散ではない。

 確認だ。



 ここに、互いがいること。

 互いが逃げていないこと。

 そして――

 次は避けられないということ。



 グレイは背を向けた。

 隙だらけに見える。

 だが隙ではない。



「次は」



 振り返らずに言う。



「刃が出る」



「分かってる」



 ヴォロは答えた。



「理由も」



 グレイが足を止める。



「理由は、後でいい」



 それで、十分だった。



 グレイは歩き出す。

 谷の奥へではない。

 横へ。

 別の逃げ道。

 だが同じ夜の中。



 四人は動かない。

 追わない。

 引かない。

 ただ、配置を覚える。



 雪の音が、また遅れて届く。

 だが今度は、全員が同時に聞いていた。



 同一座標。

 同一夜。

 同一理解。



 刃が先に出る理由は、

 もう、揃っている。

今回は、みてみんにイラストをアップする方法を覚えたので、さっそく挿絵として使ってみました。


AIで生成したイラストになります。

本文の描写と少し矛盾しているところもあるかもしれませんが、雰囲気を楽しんでいただけたら嬉しいです。


まだ手探りですが、今後も合いそうな場面があれば挿絵を使ってみようと思っています。

よろしければ、イメージしながら読んでいただけると嬉しいです。

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