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第34話|刃が先に出る理由

 北の窓口は、朝が早い。

 早いというより、夜が終わらない。



 ヴォロは建物の影で、雪解け水が石畳を濡らす音を聞いていた。

 音が一定だ。一定すぎる。

 人の流れも、視線の動きも、もう整えられている。



 ――今日は、更新だ。



 剣士、術師、補給兵。

 四人で並ぶことはしない。

 並ぶと、それだけで「団体」になる。

 団体は、今日の議題じゃない。



 順番に入る。

 それぞれ、個人として。



 最初に戻ってきたのは剣士だった。

 扉を閉める音が、いつもより静かだった。



「……不可だ」



 それだけ言う。

 理由を聞く前に、ヴォロは察している。



「条件付きで、なら?」



 剣士は首を振る。



「“前に出る判断を持つ剣は不要”だと」



 管理の言葉だ。

 刃の性能ではなく、配置のしやすさで切る言い方。



 次に術師。

 戻ってきた顔が、少しだけ硬い。



「治療院経由なら席はある。でも……」



「判断をするな?」



 ヴォロが先に言う。

 術師は、何も言わずに頷いた。



 補給兵は、最後だった。

 戻ってくるまでが、妙に長い。



「裏の運搬なら回せるそうだ」



 視線を合わせない。



「地形を見るな。

 現場に口を出すな。

 “運ぶだけ”なら要る」



 三人とも、生きる道はある。

 ただし――

 判断を持たない限り、だ。



 ヴォロだけが、呼ばれない。



 窓口の女が、帳簿を閉じる音が聞こえる。

 閉じ方が、雑だ。

 最初から、開く気がない閉じ方。



「ヴォロ」



 名前を呼ばれる。

 だがそれは、中へ入れという呼び方じゃない。



「今回は、更新は見送る」



「理由は」



 聞くと、罪になる。

 だが聞かないと、同意になる。



 女は顔を上げない。



「判断役の扱いは、未整理だ」



 未整理。

 保留ではない。

 棚上げだ。



「個人契約は不可」



「団体契約は?」



 一拍、間が空く。



「代表不在で不可」



 言葉は丁寧だ。

 だが丁寧な拒否ほど、刃が近い。



「……では今日は、ここまでで」



 ヴォロがそう言った瞬間だった。



 建物の外で、靴音が揃う。

 揃いすぎている。

 制圧班だ。



 逮捕ではない。

 拘束でもない。

 **“安全確認”**という名目の、配置調整。



「動くな」



 命令じゃない。

 確認だ。



 剣士が半歩前に出かける。

 止めるほどでもない動き。

 だが――



「抵抗の兆候、記録」



 即座に声が飛ぶ。



 術師が手を上げる。



「待って。話を――」



「交渉の意思、記録」



 補給兵が後ろへ下がる。



「逃走準備、記録」



 盤面が、閉じる。



 話す=交渉。

 下がる=逃走。

 黙る=同意。

 どこにも、正解がない。



 ヴォロは理解した。



 ――刃を出させるための配置だ。



 最初の一撃は、制圧班だった。

 狙いは剣士。

 致命ではない。

 だが、反射で抜かせる距離。



 剣士の刃が、鞘から半分出る。



「武装確認」



 その瞬間、全員の手が動いた。

 刃が出た、という形が作られる。



 ヴォロは前に出ない。

 出れば、判断役として記録される。



 だが――



 剣士が斬られる。

 制圧ではない。

 過剰防衛。



 血が出る。

 記録に残る量。



 ここで止めれば、

 ヴォロが「戦闘を指揮した」ことになる。



 止めなければ、

 誰かが死ぬ。



 ――同じだ。



 ヴォロは動いた。

 剣を抜かない。

 命令もしない。

 ただ、位置に入る。



 刃と刃の間。

 次に、血が出る場所。



「……これ以上は、成立しない」



 低い声。



 制圧班の一人が、一瞬だけ躊躇する。

 躊躇した瞬間、配置が崩れる。



 術師が視界を潰す。

 補給兵が足場を殺す。

 剣士が刃を叩き落とす。



 殺さない。

 だが、終わらせない。



 数分後。

 その場に立っているのは、四人だけだ。

 制圧班は引いた。

 目的を果たしたからだ。



 危険指定は、更新される。



 窓口の女が、淡々と言う。



「本件、団体性を確認」



「危険指定、更新」



「保護対象外」



 ヴォロは、紙を取り出した。

 だが、書かない。



「……次は?」



 剣士が聞く。



 女は、帳簿を閉じる。



「次はまとめて来い」



「代表を出せ」



 それだけ。



 四人は、何も言わずに外へ出た。



 雪が降り始めている。

 遅れて届く音。



 ヴォロは、紙を握ったまま、まだ書かない。



 名を出さない限り、守られない。

 名を出した瞬間、管理される。



 ――だから刃は、先に出た。



 選ばされたのではない。

 配置されたのだ。



 次に出るのは、

 刃か、名前か。



 その二択しか、もう残っていなかった。

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