長旅②
俺が見張りを始めてから、2時間が経った。
いつの間にか夜は明け、外の景色もはっきり見えるようになっていた。
「そろそろ交代か。」
この2時間、特に異常はなし。
……まぁ、当然だな。
流石に列車に追いつける神託なんて存在しないだろうし。いや、待てよ。あの雷の邪教徒なら追いつけるのか?
「交代だ。」
そんなことを考えていると、ドアが開き、中から次の見張り役であるチェルキオが外へ出てきた。
チェルキオはさっきまで寝ていたのだろう。髪が少し跳ねており、あくびをしている。
「あぁ。中は異常ないか?」
「無いな、全員静かに寝てる。」
「そうか。」
俺はチェルキオに中の様子を聞いた後、すぐに部屋に入り、空いているスペースに倒れ込むように横になった。
つ、疲れた。
夜風を長時間浴び続けたせいだ。身体がだるい。
ちゃんと着込むんだったな。
俺はそのまま目を閉じ、眠りについた。
ガタンッ!
俺が寝てから30分位経っただろうか、列車が大きく揺れ、そのまま急停止した。
「なんだ?」
俺は目を覚ますと、今まで窓から流れて見えていた景色は止まり、急停止した影響で幾つかの物が床に散乱していた。起き上がり、辺りを見回したが誰も部屋の中に居らず全員外に出て、列車の先頭の方を見ていた。
「何かあったのか?」
俺は外に出ると、カズに話しかけた。
「あれ、ソラカド君はてっきり先に外に出たものかと思ってた。」
カズは俺を見ると驚いた様な顔をしてこちらを見た。
「多分、俺床に寝てたから普通に気づかなかったんだろ。」
半笑いで答える。これで大分素性は知られただろう。まぁ、そういうことを気にする連中じゃないと思うから良いけど。
「そうか、とりあえず俺は今から運転室まで行って事情を聞いてくるから、お前らはここで待機してろ。」
チェルキオはそう名乗り出ると地面に突き刺していた大剣を背中に装備する。
「待て。俺も行く。」
「待ってよ。私も行く。」
俺とアヤが同時にそう言った。
「ハモったね。」
カズは笑顔でそう言う。
「はぁ……。俺一人でも何とかなる。」
チェルキオは溜息をつきながらそう答える。
「何かあって、それを戻って来て伝える奴も必要だろ。」
「それに関しては一理あるね。」
頷きながらカズは微笑んでいる。
「なんか面白そうだから行きたい!」
「それは良く分からないけど。
いいんじゃない?チェル、連れて行っても。」
「そうだな、お前は疲れているみたいだし、ここに残ってレイナさんの護衛で良いか。」
「そうだな。」
「私は異論ないよー?」
「じゃあ行くぞ。」
チェルキオは俺達の背中を叩くと、そのまま列車の運転室まで歩き始めた。俺とアヤも、チェルキオの後を追って歩きだした。
少し歩くと先頭車両が見え始めた。よく目を凝らして見てみたが特に何も見えない。
「何も無いのか?」
「いや、やけに静かすぎる。」
確かにここに来るまで人の話し声が聞こえない。
不自然だ不自然すぎる。
「そんなことより早く何があったか確認しに行こうよ。」
アヤは急かすよう言うと、その場で足踏みをしている。
「じゃ、俺は客室に入るからお前ら二人で先頭見て来い。」
チェルキオは客室車両に飛び乗ると、そう言って客室に入った。
俺達はチェルキオに言われるがまま先頭車両を見に行く。先頭車両に着き、中を確認するが、運転手が見当たらない。
「運転手がいないな。」
俺は運転室の様子をアヤに伝えた。
「なんか線路に大きめの荷馬車転がってるけど轢く?」アヤは俺を荷馬車の見える位置に誘導すると、馬車を指差す。
「轢いたわけないだろ。手前で止まってるし。」
「こっち血痕あるよ。」
「え?」
俺がアヤの方へ顔を向けようとした直後だった。
ヒュンッ
風を切る音がした次の瞬間、矢が俺の右腕を射抜いた。俺は右腕を押さえ、咄嗟に車両に飛び乗った。
「油断した。」
突き刺さった矢を抜き服を破り、止血する。
「大丈夫?」
アヤは俺の後を追い、列車の中へ乗り込み外を確認する。
「敵の姿見たか?」
「うーん、チラッと見えた感じ……。緑色で人の半分くらいの身長だったかなぁ。」
「あぁ……。ゴブリンだなそりゃ。」
ゴブリンとなるとかなり厄介だな。魔物の中でも知能はあるほうだし、何より群れで行動するタイプだ。この規模の列車を襲うってことは、かなり大な群れな。
となると、キングゴブリンは絶対居るよなぁ……。
さて、どうしよう。
「ゴブリンねぇ。初めて戦うなぁ。」
アヤは少し息が荒くなり身体が震えていた。
「……あぁ。そうか、東大陸にはゴブリンどころか魔物自体が存在しないんだよな。」
「そうそう。だからこれが魔物との初戦闘!」
「まぁ。まずは、弓使いのゴブリンを倒さない事にはどうにもならないけどな。」
「それなら任せてよ。」
アヤは胸を張り、自信満々にそう言った。
不安でしかないが今は任せるしかない。
「じゃあやってみてくれ。どのみち、今俺は利き腕使えないから満足に戦えないし。」
俺は右腕を押さえながらアヤにそう告げた。
「まぁ見てなって。」
アヤは刀を鞘から抜くとそのまま外へと飛び出す。
「おいバカ、何してんだ。」
無謀すぎる、俺は最初はそう思っていた。すると次の瞬間、飛んできた無数の矢をアヤは全て斬り落とす。アヤの額を見ると、左側から白い角が生えていた。
す、凄ぇ。あの数の矢を一瞬で落としやがった。
いや、斬り落としたのも凄いんだが、矢を打つ瞬間しかゴブリンの姿が見えなかった。つまりゴブリン共は何らかの術を使ってやがる。
「おい、アヤこのゴブリン共なんだか様子がおかしい少し周りに注意しろ!」
俺がそう叫んだその時。アヤの真後ろから突然小刀を持ったゴブリンが五体現れ、アヤに飛びかかった。
「ふぅ……。」
アヤは一呼吸置くと刀を持ち直し、体勢を変え、飛びかかって来たゴブリンを一体残らず斬り殺す。
刀に付いた血を払うとアヤは静かに刀を鞘にもどした。
「アヤお前何もんだよ。」
「ただの侍だよ。」
アヤはこちらを向き、笑いながらそう答える。
額にはもう角は生えていなかった。
これが鬼郷家に伝わる鬼人化というやつなのか。




