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転生令嬢人生は、ヤンデレ騎士の監視付き  作者: サモト


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4話 避けていたのに

「ごちそうさまでした」


 ティーセットを下げていると、グラン様が客間にやってきた。

 椅子の背にかけてあった自分の外套を取る。


「お茶、まだあるなら、もう一杯いただいてもいいですか?」

「は、はい」


 ポットを手に取ろうとした瞬間――手が滑った。

 来客用の高価なポットだ。とっさにかばったら、こぼれた中身がわたしの手にかかった。


「――熱っ!」

「大丈夫ですか!?」


 さっと、グラン様がクロスと共にわたしの手を取った。

 さっと、わたしも反射的に手を引く。


「大丈夫です」

「火傷は」

「そんなに熱くありませんでしたから」


 本当は結構熱かったけど、平気なふりをする。

 今のわたしは、グラン様と接触するのが怖い。

 触れられただけで、転生者だとバレるスキルでもあったらどうしよう。


「お茶は淹れ直して、あとでお部屋にお持ちしますね」


 テーブルを手早く片付けて、わたしは客間を出た。

 新たに用意したお茶は、三つ下の弟に託す。


「わたし、そろそろ教会に行かないといけないから。これ、グラン様のところへお運びして」

「分かった!」


 いつもならぐずるのに、弟は二つ返事で請け負った。

 使徒様とお近づきになれるのが嬉しいんだろう。


 さて……ちょっと早いけど。

 弟にああ言った手前、ぐずぐずしていると落ち着かない。教会へ行こう。


(今日の帰り道は、グラン様と出会わずに済むかな)


 坂を下りながら、そんなことを考える。

 善意を迷惑がるなんて良くないことだけど、ボロを出さないようにするには、なるべく接しないのが一番だ。


(……わたしが転生者ってバレたら、きっと家族も酷い目に遭うよね)


 転生者の末路を調べたことがある。

 当人はもちろん使徒に討伐され、家族も共犯として裁かれていた。

 財産は没収、土地からも追放。

 転生者本人がとっくに家族と縁を切っていても、それでも許してもらえないのだ。


(なんて理不尽)


 ぶるっと、背筋に悪寒が走る。

 いけない。まだ何ともなってないのに、こんなに怯えてちゃ。怪しまれる。

 なにか楽しいことを考えよう。


(そういえば、そろそろアメリルの実の季節だっけ)


 アメリルはこの世界特有の実だ。

 大粒のオリーブの実ほどの大きさで、乾燥させるとグミみたいな食感になっておもしろい。

 甘酸っぱくて、小腹が空いた時のおやつにぴったりなのだ。


(寄り道する時間あるし、採りに行ってみよう)


 道をそれて、木立の奥へ。去年と同じ場所に、薄紅色の実がぽつぽつと生っていた。


「とりあえず、このくらいでいっか」


 広げたハンカチいっぱいに採れた。

 立ち去ろうとして――足がすくむ。


(野犬……?)


 犬にしては大きい。体長はゆうに一メートルを超え、目が妖しく光っている。


(まさか……魔物? 森狼!?)


 正体を考えている場合じゃない。あっちが距離を詰めてきてる。

 逃げなくちゃ!


「ひっ!」


 反対方向に逃げようとして、やっぱり足がすくんだ。そっちにもいた。


(囲まれてる……!)


 前後だけでなく、左右にもいる。逃げ場がない。

 でもどこかに逃げ場を探して、目をせわしなく動かす。背中が木の幹に当たった。


(そうだ、上!)


 アメリルの実は捨て、木に飛びつく。

 その瞬間、森狼たちが一斉に飛びかかってきた。


(やだやだやだやだ!)


 吠え声に追い立てられるように、無我夢中で登る。弟妹たちに付き合ってやっていた木登りが、こんなところで役立つなんて。

 なんとか森狼の爪と牙を逃れることができた。


(けど、これ、どうしよう)


 森狼たちは木の下にたむろしている。

 しばらくは後ろ足立ちになって、木の幹をガリガリとかいていたけど、そのうち諦めてその場に腰を落ち着けた。

 一度見つけた獲物を、簡単に諦めたりする気はないようだ。


「だれかーっ! 助けてーっ!」


 助けを呼んでみるけど、こんなところ、普段だれも通らない。声がむなしく反響する。


(今日の奉仕活動は完全に遅刻だ)


 遅刻どころか、欠席だ。

 ――悪くすると、永遠に。


(この年でまた死ぬのは勘弁して!)


 焦るけど、解決策は何も思いつかない。武器なんて持ってないし、攻撃魔法なんて使えないし。

 解決策が思い浮かばないまま、時間だけが無意味に過ぎていく。


(雨降ってきた)


 木の葉のおかげでパラパラとしか当たらないけど、濡れる。ちょっと寒い。


(森狼たち……は、気にしてないな)


 のんびりくつろいでいる。わたしの落としたアメリルの実をつまんでいる。

 アメリルの実には少しだけ魔力回復の効果があるから、魔物も好んで食べるのだ。

 だから、そういう物を採る時は注意しないといけないのは知っていた。


(でも、魔物がこんなところに出るなんて。今まで、見たような話も聞いたこともなかったのに)


 遠くで教会の鐘が鳴る。午後五時になった。


(わたしが夜になっても家に帰ってこなかったら、みんな探してくれるよね?)


 天気が悪いせいで、あたりはもう暗い。

 下を見れば、薄闇の中で、数対の赤い瞳が光っている。


 怖い。


 焦れてきたのか、森狼たちがまた後ろ足立ちになって、木の幹を掻きはじめた。

 ここまでは登って来られないから大丈夫。

 そう安穏と構えていたけれど、だんだん血の気が引いてきた。


(この子たち……まさか、木を倒そうとしている?)


 鋭い爪で、頑丈な牙で、森狼たちは木の幹をみるみるうちに削り取っていく。


(いやああああーっ、うそーっ!)


 なんとか助かる方法を一生懸命考える。


(木が倒れる瞬間に、隣の木に飛び移るとか?)


 もうちょっと上の方まで登れば、倒れた時に隣りの枝が近くなる。

 食われるまでの時間を先延ばしにできる可能性がなくもない。

 わたしは必死で、さらに上に行こうとし――足元の枝が折れた。


(ドッグフードなんて死に方は絶対嫌ーっ!)


 間一髪で、下の枝にぶら下がる。

 森狼たちが、さあ来い、もうあきらめろ、とばかりに盛んに咆えてくる。


(でも、でも……もうダメかも)


 手の力も萎えてきた。ぎゅっと目を瞑った瞬間――わたしを励ます声がした。


「もう五秒だけ、そのままで」


 優しく、でも力強い声。


 森狼たちの間を、人影が駆け抜けた。

 白銀の剣閃が走る。後には、森狼たちが倒れている。

 騒がしかった森が、一瞬にして静かになった。


「ニナ、ケガはありませんか?」


 立ち止まったグラン様は、剣を振って血を払い落とした。

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