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転生令嬢人生は、ヤンデレ騎士の監視付き  作者: サモト


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12話 深まる勘違い

 数日経って、恋人役にも慣れてきた。


 修練は日々の積み重ねから――もとい、役作りは日々の習慣から。

 わたしは家の中でもミシェル様と恋人っぽくふるまっている。

 今朝も、庭で鍛練しているところへ駆け寄って行った。


「おはようございます、ミシェル様。今日もすてきです」

「おはようございます、ニナ。あなたの顔を見ると、世界に光が満ちるようです」


 挨拶とともに、ハグする。

 1、2、3、4、5……

 昨日は「抱き合う時間が短いと思います」とミシェル様に注意されたので、今日はしっかり五秒数えた。


 よし、完璧――と思ったのに。

 離れようとしたら、離してもらえなかった。


「7時間36分も離れていた恋人とやっと会えたのに、それだけなんですか?」


 悲しそうな顔をされる。

 物欲しそうな視線が、わたしの口元に注がれた。

 言葉にしなくても、何を望まれているか分かる。


(ううっ、おねだり上手……!)


 わたしは背伸びをして、ミシェル様の頬に口づけた。


「小鳥についばまれたような気分です」


 ふふ、と笑われる。

 短すぎたか。やっぱり照れが入っちゃうな。


「明日は期待してますね」


 ちゅっと、小さく音を立てて、頬にキスされる。

 ようやく体が自由になった。


(なんて駆け引き上手……!)


 どこでそういう手口を習得するんですか?

 人生二周目としか思えない。


 わたしは深呼吸して、動揺を落ち着けた。


「今日は、午前中はお掃除で、午後からは暇になると思いますけど……」


 ピクニックしたり、教会の音楽会へ行ったり、乗馬を教えてもらったりしてきたけど、今日は何しよう。


「お天気悪そうですから、家の中で何かしましょうか?」

「いいですね! 私、そういうの好きです」


 予想外の食いつき。

 ミシェル様、運動が得意だから、てっきりアウトドア派だと思っていた。

 使徒だと出張多いから、休みは家でゆっくりしたいのかな?


「ミシェル様の理想のデートって、どんなものですか?」


 毎度わたしの希望を尋ねてくれるから、ミシェル様の希望を聞くことを失念していた。この機会に聞いておこう。


「そうですね……基本、愛しい人と居られれば幸せなんですが」


 そう前置きした上で、ミシェル様は続けた。


「できれば、デートの間はずっと二人きりがいいですね。だれにも二人の時間を邪魔されたくないです」

「二人で何をしたい、とかは?」

「そこは何でも。一緒に読書してもいいですし、ゲームをしてもいいですし、ただ寝るだけでもいいですし」


 その様子を思い浮かべているのか、ミシェル様の表情はどこかうっとりしていた。


「とにかく、好きな人を独り占めしたいです」


 熱っぽく力説される。

 おうちデート、そんなに好きだったんだ……


「なら、今日は部屋にこもって過ごします?」

「賛成です。今日はニナを独り占めですね」


 ミシェル様は本当に嬉しそうに言う。

 なんだか心がむず痒くなった。


(勘違いしちゃいそうになるなあ……)


 フリなのに、この人は本当にわたしが好きなんじゃないかって、錯覚してしまいそうになる。


「それじゃあ、また午後に」


 踵を返し、姉の姿に気づいた。

 わたしたちの様子を見ていたらしく、したり顔で笑っている。


「ニナにも春が来たわねえ。最初はぎこちなかったけど、今は様になってきたじゃない」

「様になって見えた?」


 わたしのセリフを、姉は不可解そうにした。


「見えたも何も、付き合ってるんでしょう?」

「あれはミシェル様のお仕事を手伝ってやっていることなの」


 わたしは事情を説明した。


「池にいる悪魔に出てきてもらわないといけないから、がんばって恋人のフリを練習してるところ」

「へー……フリ、なの。あれ」


 姉はあっけにとられていた。


「グラン様の方は、とてもそうは見えなかったけど」

「うん、ミシェル様は演技がすごくお上手で。ついていくのが大変」


 姉は何か言いたげに口を開いたけど、結局、何も言わなかった。


「まあ、いいけど。朝食の準備を手伝ってくれる? お母様とお義姉様は赤牙猪の解体で忙しくて」

「分かった」


 姉と厨房に行きかけて、止まる。

 エプロンのポケットに入れていたものを思い出した。


「ごめん、先に行っていて。すぐ行くから」


 わたしはもう一度、ミシェル様のところへ戻った。


「ミシェル様。お手紙出したいので、確認お願いします」


 封をしていない手紙を差し出すと、ミシェル様は目を見張った。


「ニナ、わざわざそんなことまで……?」

「お知りになりたいかと思ったんですけど……気の回しすぎでした?」

「拝見します」


 引っ込めようとすると、ミシェル様は素早く手紙を取った。

 遠くへ嫁いだ従姉への手紙だ。

 内容は出産のお祝いだから、変なことは書いていないと思うけど……


「……心のこもった、良いお手紙ですね」


 ミシェル様は便せんを封筒に納め、微笑を添えて返してくれた。


「ニナの方から進んで協力してくれるので、こちらの気が楽です」

「本当ですか? よかった」


 笑ったわたしとは逆に、ミシェル様の表情は翳る。


「ニナ。……嫌になりませんか?」

「何がですか?」

「こんな生活」


 端麗な顔に、罪悪感が浮かんでいた。


「どう考えたって、普通ではないでしょう? 監視されて、行動を報告して……耐えられなくなりませんか?」


 それはもちろん……だれかに監視されている生活なんて嫌だけど。

 悪魔として殺されるよりはマシだ。


「たしかに、理不尽に思う気持ちもあります」


 率直な感想を述べて、そっとミシェル様を見上げる。

 眉根が自己嫌悪で曇っていた。


「けれど……ミシェル様だって、お辛いでしょう?」


 はっと、青い瞳が見開かれる。


「本当はこんなこと、したくないですよね?」


 返事はない。

 でも、そう思っているのが雰囲気で伝わってきた。


 わたしは悪くないけど、ミシェル様だって悪くない。

 仕方ないのだ。わたしは転生者という、自分の生まれを呪うしかない。


「……そうです。したくない」


 ミシェル様が小さくつぶやいた。


「でも、あなたを見張っていないと、安心できなくて」

「そんな顔なさらないでください、ミシェル様」


 わたしは精一杯、明るく笑いかけた。


「わたしという人間を信じてもらえるまで、がんばります!」

「ニナ……!」


 突然、強く抱きしめられた。


「あなたは、どこまで……どこまで優しいんですか」

「ミ、ミシェル様。痛いです」


 ひい、さすが使徒様。力が強い。潰されそう。

 どうしようと悩んで、思いついた。

 意を決して、ミシェル様の鼻先にそっとキスをする。


「ーー!」


 予想通り、ミシェル様はびっくりして手を緩めた。

 絶好のタイミングで、拘束から逃げ出す。


「へへへ。ミシェル様には驚かされてばかりでしたけど、初めてびっくりさせることができましたね」


 わ。珍しい。ミシェル様のお顔が少し赤い。

 イタズラ心が湧いてきた。


「こんなことするの、きっとわたしが初めてですよね?」


 ミシェル様にされたことを、わたしもアレンジしてやり返してみる。

 相手の首に両腕を回し、その耳元でささやいた。


「これでわたしのこと、忘れられなくなりましたね」

「……もう、骨の髄に刻んでます」


 ミシェル様は片手で顔を押さえた。

 照れた顔でいう。


「あなたが小悪魔にも思えてきました」


 小悪魔て。

 悪魔認定されて、でも天使と言われて、今は小悪魔て。


 評価が上がったのか下がったのか、どっちなんだろう……


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