第74章 信長に南蛮貿易・キリスト教・海軍創設について伺う
(1567年3月)二条城奥座敷
信長公の前に膝をつき、静かに切り出した。
「――桑名湊で南蛮貿易の窓口を広げ、鉄砲や薬、船具、ガラス器など南蛮渡来の品をより多く取り入れ
たく存じます。」
「さらに瀬戸・木曽川筋の港を使い、新たに船団、海軍を立ち上げ、交易の安定を図りたい所存です。」
「そのためには、南蛮との仲介や技術移転の実務に詳しい者、キリスト教徒を使って航海術や操船術を盛
った者を犬山に呼び寄せ、その知識と手腕を学び取らせたいと思いまして――」
信長公は卓の上の扇をしばし弄び、やがて静かに応じた。
「――よいだろう。商いに国も宗派もない。」
「だが南蛮寺の輩、奴らは、商いの裏に教えを広める魂胆があるが船乗りどもならその心配もあるい。」
「桑名で何かあれば、まずそなたが責任を取るのだ。」
「それを肝に銘じて、海のこと、商いのこと、好きに動いてよい。――」
私は深く頭を下げ、「必ずや織田の利と、信長様の大業に資する南蛮の操船技術を根付かせてみせす。」
その言葉には、単なる忠義を超えた、未来への壮大なビジョンが込められていた。
■信長に再び私鋳銭の是非を伺う
「商売の事で付け加えたい事があります」
墨俣で新たな高炉と製錬技術が成熟しつつあることを説明したのち、静かに切り出した。
「――信長様、ひとつお願いしたい事がございます。」
「このたび、墨俣で質の高い鉄と銅の精錬が可能となりました。」
「そこでもしご許可いただけるなら、領内で私鋳銭すなわち、最高水準の独自貨幣を鋳造し、織田領内
の、敷いては日ノ本全ての物の流れを良くしていきたく存じますが、いかがなものでしょうか。――」
信長は扇を置き、じっと私を見つめた。
「私鋳銭、以前お前が捨て置いた件、覚えているか?」私は深く頭を下げ、「その節は誠にに申し訳あり
ませんでした某の勇み足で殿の御不興をこうむり身のちじむ思いです。」
「――漸く思うような銭を作るめどが立ちましたので再度お許しください。」
「粗悪な私鋳銭とは一線を画した、精度・規格ともに天下一の銭を仕上げます。」
「いずれ銭の流れと共に手形の流れも良くしていこうとおもっております。」
「さらに両替商を監督することで流通・交換も責任を持って監督いたします――」と誓った。
信長はしばらく考えた末、「よかろう。ただし・・尾張銭が他国で悪用されたり、粗製乱造となれば即刻
取り潰す。そこは肝に銘じておけ」と念押しする。
「御意」と答え、(これで犬山・墨俣の新しい経済の歯車が、さらに大きく回り始める――)胸の内に静
かな高揚を覚えた。
彼の脳裏には、未来の経済システムが動き出す鮮やかなビジョンが描かれていた。
■新設海軍・貿易団の人材選抜
信長公から南蛮貿易と海軍創設の許可を得た秀吉は、さっそく各地に触れを回した。
「――九鬼水軍はもちろん、伊勢・熊野の海賊衆の中にも、新しい時代に乗りたい者は少なくない。」
「秀吉自身が目利きし、“腕と度胸と才覚のある者”を選び出してはどうか。――」
こう進言すると、信長公もうなずく。
「よいだろう。昔からの家名や血筋ではなく、実力と忠義を持つ者だけを抜擢せよ。」
「ただし、互いに旧怨や縄張り争いもある。上手くまとめられるかどうか、見せてもらおう」
私は犬山から配下を出し、伊勢の湊町、熊野の新宮・勝浦、志摩の海村、それぞれに使者を遣わす。
「――新しい海の時代、陸で戦が終われば、商いと海が天下を動かす。」
「これからは“武も商いも兼ねた海軍”を立ち上げる。」
「九鬼はもちろん、伊勢の船乗り、熊野の漁師、海賊でも何でも、才覚ある者は犬山の名で召し抱る。」
「望む者は全て集めるがよい。――」
こうして、九鬼家を中心にしつつも、伊勢・熊野の有能な船頭・水夫・海人・商人らが続々と犬山へ集
い、多元的で実力主義の新海軍・貿易団が、静かに胎動を始めたのだった。
その胎動は、この国の未来を大きく変える予感に満ちていた。




