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第67章 犬山城への帰路と新たな命

掛川の戦を終え、犬山へ戻る秀吉のもとに、新たな報せが届く。

征夷大将軍、足利義昭――

そして信長からの命、「京に集え」。

次なる戦は、政治の舞台――「都」での戦いです。

(1566年9月)犬山


秋風が野を渡り、帰還の隊列が犬山へと向かう途中、京からの急報が届いた。


「足利義昭公が、ついに征夷大将軍に就かれた――」


遠江の戦を終え、わずかな安堵を得たばかりの秀吉は、その歴史の転換点に静かに息を呑んだ。


犬山城へ戻るや否や、信長からの書状が届く。

「このたび、幕府より三国(尾張・美濃・伊勢)の国主に任ずるとの沙汰が下された。」


「さらに幕府要職に就くよう要請があったが、いま要職に就いている者たちを無理にのけて就任するのは


憚られるゆえ、これを丁重に辞退した。」


「そのかわり、武田包囲網のための根回し役を引き受けた。幕府もこれを快諾している――」


「六角はほぼ壊滅した、浅井に残存処理をお願いしている、三好三人衆もたいしたことはなかった。


等 勇ましい文面もあった。」


信長の筆はいつも以上に端的で力強く、事の成り行きがどれほど急であるかを物語っていた。


「これよりは、天下の動きがさらに早まる。備えを怠るな――」


書状にはそう結ばれていた。


秀吉は深く一礼し、己の役割の重さと新たな時代の鼓動を噛みしめるのだった。


■信長への報告


犬山城に戻った秀吉は、すぐに信長へ出征の報告書状をしたためた。


――このたびの掛川攻め、徳川軍との連携により遠州・駿河境をほぼ平定し、朝比奈泰朝は自害、岡部元


信を説得し、これを家臣として迎え入れました。


また、今川氏真については家康殿にお渡ししようといたしましたが、家康殿もいったんは面会されたもの


の、最終的には当家で預かることとなりました。


その後氏真は「京へ上りたい」と強く願い出ましたので、家康殿の意向もあり扶持を与えて京に向かわせ


ることといたしました。


なお、今川方が崩れた隙を狙い、武田家の間者と思しき者や、歩き巫女を装った“すっぱ”たちが、各地で


活動を活発化しております。


油断なきよう、諸城・城下町の警備も厳重にしております。


戦況・政情ともに一段落を見せておりますが、未だ油断ならぬ気配が漂っております。


今後ともご指示賜りますよう、謹んで申し上げます――


こうして、秀吉は一連の戦の経過と政情の変化、家中の動静、諜報活動の兆候までを余さず記し、使者に


託して岐阜城へと送り出した。


■信長からの招集


秋も深まるころ、信長から新たな書状が犬山城に届いた。


「今年は京で新年を迎える。主だった家臣たちは京に参集せよ。」


「新年の初めには、天皇上覧の馬揃えを催すので、その準備を怠るな」たび重なる献金や、復活させた式


年遷宮が奏功し、天皇からの覚えもひときわ厚い。


「このたび、官位として“従五位下・弾正忠”を拝領した。」


「年が改まれば、さらに官位も進めてくださるご意向と聞く」


信長は将軍屋敷や京の町の再建も主導する構えであり、「長期にわたり京に滞在することになりそうだ」


と結んでいた。


「明日にも、将軍より上杉・北条へ、武田討伐の要請が発せられるだろう」


都の空気が、にわかにざわめき始めていた。

この章では、戦国武将の"帰陣"と"報告"という静かな場面にこそドラマがあることを描きたかったのです。

また、「氏真のその後」や「堺・石山への派遣」など、現実政治の裏側を通じて、戦国日本の構造的な側面にも触れました。

次章では、ついに信長との謁見。そして、幕府の中枢へ――。



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