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第52章 初火の予兆

第52章では、ついに砦周辺に異変が起き始めます。

落合川の上流に“見知らぬ焚き火”、甲斐方面から届く異常なほどの馬の足跡。

そして、地元の猟師たちの間で広まり始める「山の気配が変わった」という言葉。

秀吉は即座に察知します。

――これは「来る」、と。

この章では、秀吉が砦内の全員を再配置し、偽装や情報操作、撤収路の確認など「開戦前の無音の備え」を行う緊張の描写が続きます。


火はまだ灯らない。だが、すでに“導火線”には火が走り出している。

(1565年11月末)恵那


山の間に鉈や斧の音が響いた。


村の若者、足軽、職人――数十人ずつの班に分かれ、誰が一番早く、良い材木や石を切り出すかで大声を


張り上げている。


「よし、今日はこの斜面の松と楢だ!一番に十本切り出した班には金子三分!」


「川向こうの石切場も忘れるな!石の質と数で競え、上位三班には褒美を出す!」


秀吉自ら現場を見て回り、竹中半兵衛が帳面に記録し、蜂須賀小六が賞金袋を持って声を張る。


堀尾吉晴は人足や馬の手配に奔走する。


川では丸太筏に石材が積まれ、「急げ、もう一つ筏を流せ!」と声が飛ぶ。


石垣現場では、「例の白い粉――セメントを水で練れ!石を並べたら間にどんどん流し込め!」若い石工たちが腕まくりして、「こりゃあ今までにない速さだぞ!」と、積み上げた石の間 に白いセメントがじゅわじゅわと浸透させていく。


昼になると、川原に炊き出しの釜と大鍋が据えられる。


湯気の立つ味噌汁に、握り飯や干物が並ぶ。


空き地には竹囲いの“露店風呂”まで作られ、「一番早く作業を終えた班から入れるぞ!」と声が上がり、若い衆が笑いながら争って体を洗った。


土壁は一間半(約2.7m)の高さ、厚さ三尺(約90cm)でどっしりと築かれ、その上にさらに板壁を三尺


(約90cm)立てて、「ここから弓も弩も並んで撃てる」と、射手たちが構えを試す。射台には腰掛も据


え付けられ、射手が並ぶと壁の上に黒い影が一列に並ぶ。


城の形は川に沿った長方形。


川面から吹き上げる風が土壁と板壁を冷やし、敵が攻めてくるなら南西の陸路、補給や脱出は北東の川筋


から、と経路も明瞭だ。


秀吉は竹竿の先で設計図を地面に示し、「板壁の裏には狭間すきまを空けておけ。


弓でも弩でも、隙間から撃つのだ」と指示する。


工事はまるで祭りのような賑わいで、班ごとの競争に火花が散る。


「今日の首位は西の石切班!」


「風呂場一番乗りは南の大工組!」笑い声と掛け声が谷あいにこだました。

いよいよ物語は、戦端を迎えつつあります。


第52章では、実際に敵が現れる前に、周囲の空気が変わっていくさまを描きました。

秀吉の感覚は、もはや軍師というより“野生の獣”に近い。

あらゆる異変を読み取り、その先手を打つ――これぞ「死に戻り」を幾度も繰り返してきた者の“嗅覚”でしょう。

一方で、砦の機能、兵の配置、村人の避難ルート――それら全てが**「焼けることを想定して準備された装置」**であることが、ここで再確認されました。

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