第49章 夜の密議・爆炎城の真意
「爆炎城」とは、果たして狂気か、慧眼か。
第49章では、完成に向かう砦の裏で行われる密議の場面を描きます。
秀吉が家臣たちに語ったのは、「敵に砦を奪わせ、焼き払う」という苛烈な策。
だが、真の狙いはその“後”――焼け落ちた城を一夜にして甦らせる“幻術”のごとき再建計画にありました。
この章で鍵を握るのは、
灰と土を固めた“灰色の基礎”
あらかじめ加工された「再建用の部材」
民衆心理を逆手に取った情報戦
砦とは、ただ建てるものではない。
戦う前に“勝たせる”ための舞台装置であるという思想が、いま密やかに動き出します。
どうぞ、火の揺らめきの中で交わされる戦略の真髄を、お確かめください。
(1565年10月・落合川・夜)
砦の仮小屋にて、焚き火が赤々と揺れる夜。
竹中半兵衛、蜂須賀小六、堀尾吉晴、そして伊賀の忍び・山田佑才が、秀吉の前に膝を揃えていた。
秀吉は、ゆっくりと火に手をかざしたあと、全員の顔を一人ひとり見回してから口を開いた。
秀吉「……この砦、いざという時には焼く」「以前話した爆炎城とは此処だ」
蜂須賀小六「本気だったのだな」
秀吉(頷く)「わざと奪わせて、仕掛けてある油と火薬で焼き払う。だが、本当の狙いは――そこからだ」
竹中半兵衛(小さく頷いて)「焼いた後、すぐに建て直すおつもりですね。白い粉……セメントの基礎があるからこそ」
堀尾吉晴(目を細めて)「なるほど……建物や防壁の土台が崩れなければ、あとは柱と壁を差し込むだけ。恵那城に加工済みの部材を備えておけば……」
秀吉(ニヤリと笑い)「そういうことよ。朝になれば、また同じ砦がそこにある。武田の奴ら、肝を潰すぞ」
蜂須賀小六(笑いながら)「まるで妖術じゃねぇか……昨日焼けたはずの砦がまた立ってりゃ、奴らも逃げ帰るかもな」
秀吉「“何度でも甦る砦”――噂になれば、それ自体が兵法だ」
山田佑才(低く頭を垂れ)「この策、伊賀の者たちにも徹底させましょう。秘密は決して漏らしませぬ」
秀吉「たのむぞ。だが村人や足軽には、“焼き払う”意図は一切気取られるなよ。“丈夫な守り”“素早く建てられる砦”とだけ伝えよ」
半兵衛、小六、吉晴、佑才(一斉に頷く)「心得た」
焚き火の火がパチリと弾け、壁に影を揺らす。
その火の奥で、秀吉の目は遠い先の戦場を見据えていた。
ご一読ありがとうございました。
本章では、「爆炎城」と呼ばれる構想の**真の意図=“再建前提の戦術建築”**が明かされました。
これは秀吉が墨俣での経験を活かし、「戦って勝つ」のではなく「勝ったように見せる」ための舞台を、地形と工法で作ろうとする試みです。
特に秀吉の言葉――
「何度でも甦る砦」
これは単なる誇張ではなく、**敵の戦意と兵站を削る“心の兵法”**なのです。
そしてこの秘密を握るのは、秀吉に選ばれたごく少数の腹心たち。
表の築城が進む一方で、裏の仕掛けが動き出すという、この“二層構造の戦略”は、まさに秀吉の真骨頂といえるでしょう。
次章では、いよいよ砦が“完成形”を迎えます。
川と砦と舟、そして地形のすべてを組み合わせた、動く要塞のような防衛構造が立ち現れます。
そう言えば昔日本列島を「不沈空母」と言った総理と元米国務長官がいましたね。
どうぞご期待ください。




