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第48章 爆炎城の計画

第48章では、秀吉が恵那・中津川の前線にて構想する、前代未聞の“罠としての砦”――

後に「爆炎城」と呼ばれる仕掛けの全容が明らかになります。

砦を築きながら、いざとなれば焼き払うことを前提に設計する。

それは狂気か、あるいは計算か。

民には「守りの城」として安心を与えつつ、その実態は“戦術の誘導装置”。

この章では、秀吉がいかにして「兵法」「土木」「心理戦」を組み合わせ、砦そのものを“武器”へと変えていくか、その思考の核心に迫ります。


ただの築城では終わらない。これは、“焼けても甦る戦略拠点”という、未来の日本の兵站思想への萌芽でもあります。

どうぞ、その火種をご覧ください。



(1565年7月・中津川沿いの前線村)


灼けつくような夏の日差しの下。 


秀吉は村人や職人たちを前に、にこやかに笑みを浮かべながら声を張った。


秀吉(手を広げて)「皆の衆、この砦は甲斐や信濃から万が一にも攻め込まれたとき――村を守る、最後


の“楯”になる場所だ」


若い職人「“灰”ってのは、あの白い粉のことですか?あれで固めると、石よりも丈夫になるとか」


秀吉(笑ってうなずく)「おう。灰と水と砂でつくる“練り物”だ。これで土台も壁も、びくともせん城が


出来上がる」


百姓の男「こりゃあ立派なもんですな。これがあれば、このあたりも安心できますわ」


秀吉(肩を叩いて)「まかせておけ。おぬしらの手で、新しい“守りの時代”を一緒に築こうぞ」


――だがその夕暮れ、村人の姿が引いた頃。


仮設小屋の中。


秀吉は、竹中半兵衛、蜂須賀小六、堀尾吉晴、そして忍びの山田佑才と、工事の指揮役の棟梁を密かに呼


び集めた。


秀吉(焚き火を見つめながら、低い声で)「……この砦、いざという時は“すべて焼き払う”」


堀尾吉晴(驚いたように)「殿……自ら築いた砦を?」


秀吉(頷く)「ここは“城の皮をかぶった罠”だ。敵が入ってきた瞬間、2本の壁の間を火薬と油で火の海


にする。中に入ったら、全員まとめて爆ぜる」


蜂須賀小六(笑みを消し)「こりゃ……鬼の発想ですな。だが、確かにそれなら数で押してくる奴らには


堪える」


秀吉(鋭い眼差しで)「火薬と油の仕掛けは、すべての工事が終わってから。村人には絶対に気づかせる


な」


山田佑才(深々と頭を垂れ)「心得ております。設置も監視も、すべて我らが請け負います」


工事指揮の親方(声を潜めて)「必要な部分だけ、職人に伝えます。細工の意味までは一切話しません」


秀吉うなずき「“出入り口は巻き上げ式の落とし戸2つのみ、鉄壁の守り”――それだけを皆には伝え


ろ」


小屋の中に沈黙が満ちる。


山の夜風がひやりと吹き抜け、焚き火の炎が一瞬揺れた。


秀吉(最後にきっぱりと)「この秘密は、命より重い。必ず守れ。――必ず、だ」


全員が静かに頭を下げた。


その目の奥には、秀吉の企てた未来の戦略が、静かに燃え上がっていた。

読了ありがとうございます。


「爆炎城」という名の通り、この砦は“敵に奪わせること”すら計算に入れた特殊な戦術構造です。

秀吉の口から語られた「火薬と油による焼き討ち」「仕掛けを伏せて再建する計画」は、ただの守備ではなく――

戦術上の“撹乱装置”としての砦設計という、まさに近世戦略の先駆けと呼べる発想です。

村人たちには一切知らされず、それでいて村人をも守るためのこの構え。

信長が伊勢で“正統性の戦”を繰り広げる一方で、秀吉はこの東の果てで、“幻惑と破壊の兵法”を構築しようとしている。

砦はただ守るためにあるのではない。

敵を欺き、敵を引きつけ、そしてこちらの思うままに誘導するための、巨大な仕掛けの一部なのだと、秀吉の目が語っていました。

次章では、この“焼けても甦る砦”が本格的に建設され、いよいよ幻の兵法が姿を現しはじめます。

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