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第46章 伊勢には行かず

第46章では、信長との密談を経た秀吉が、伊勢ではなく東の国境・恵那・岩村方面へと向かう姿を描きます。

歴史的に見れば、伊勢平定は織田家の“表の戦線”――名声を得るための舞台。

だが、信長が秀吉に託したのは“裏の要”とも言える防衛線。

岩村・小里の在地勢力との連携、落合川沿いの築城計画。そこには、武力だけでなく、土と人と流通を見極める眼が必要とされました。

戦国の国境は、ただの線ではなく、呼吸しうる生きた空間。

秀吉が“城”を通じてそれをどう再構築していくのか――どうぞご覧ください。

(1565年1月)岩村城


軍議のあと、秀吉は静かに広間を後にした。


伊勢攻略の名簿には、己の名はない。


だが、秀吉の脳裏には信長の言葉が繰り返し響いていた。


――「恵那の城も、落合川の砦も、何より岩村との連携が肝要だ。」


犬山に戻った秀吉は、まず小里城に急いだ。


城門をくぐると、小里光明(おり みつあき)が迎えてくれる。


「いよいよですね、藤吉郎殿。」


「恵那の築城には、小里の人足と資材が要る。」


「そして、砦の前線を固めるには、岩村遠山氏との協力が欠かせぬ。」


光明はうなずき、「岩村には私からも強く申し伝えます」と力強く応じる。


秀吉はその足で岩村城へも使いを出す。


「これからの備えは、岩村を中心に据える。甲斐・信濃からの圧力には、岩村の力と呼吸を合わせねばな


らぬ。」


岩村の遠山氏もまた「いざとなれば全力で協力する」と約束する。


さらに、前線となる落合川沿いの村々で砦の工事を始める。秀吉は農民や職人たちを前にこう語る。


百姓たちがざわめき、若者たちが新しい役割に胸を張る。


落合川沿いの測量現場では、「ここには新しい城を建てる。川の流れも石も、全部活かす。」


「“灰色の壁の砦”――誰も見たことのない新しい砦だ。」


村人たちは半信半疑ながらも、秀吉の言葉と行動に少しずつ信頼を寄せていく。


伊勢の戦いから離れたこの東の国境で、岩村との連携――その息遣いが、静かに新たな戦の礎を築きつつ


あった。

第46章、いかがでしたでしょうか。また短めな章になりました。これからすこし短い章が続きます。

この章では、秀吉が「名を上げる戦」からは距離を置き、むしろ地味で重要な役割――境界線の建設と安定化に乗り出す姿を描きました。

信長が見抜いていたのは、伊勢という神威の地ではなく、甲斐・信濃と美濃との「接合点」を制する者が未来を握るという戦略眼です。

秀吉もまたそれを理解し、小里氏と遠山氏という一筋縄ではいかない地元勢力を繋げる架け橋となろうとしています。

そしてこの時点で、秀吉はまだ「名前も出ぬ田舎侍」にすぎません。

だからこそ、彼のひとつひとつの言葉と行動が、将来の「太閤」を予感させるのです。

次章では、小里と岩村、それぞれの思惑に挟まれながら、秀吉がいかにして“戦わずして味方を増やす”のか、その駆け引きをお届けします。



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