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第45章 密談編 深夜の奥座敷

新年、岐阜城。

信長のもとには、すでに上洛を見据えた政略の風が吹き始めていた。


この章では、信長と秀吉が深夜に交わす“密談”を通じて、織田家が天下を射程に収め始めたその瞬間を描きます。

舞台は伊勢――神宮、朝廷、熊野という「力の見えぬ三重奏」を、どのように味方につけるか。

剣ではなく、言葉と構想で切り拓く外交の戦場に、秀吉が挑みます。


また、ここで秀吉は「度量衡統一」という未来的な提案を信長に持ちかけます。

それは単なる実務ではなく、分裂した日本の仕組みを“再統合”するための基礎――すなわち「秩序」の始まりでもあります。


深夜の静けさのなか、盃のひと揺れが歴史を動かす。どうぞお楽しみください。

(1565年1月元旦)岐阜城


宴席の名残が消え、奥座敷には行灯の灯りがゆらゆら揺れている。


外の雪は深く静か。廊下の向こうで、遠く小姓が下駄を引きずる音がする。


秀吉は膝をつき、信長の正面に座る。


障子の向こうからは、雪が屋根を叩く音がかすかに伝わっていた。


机の上には、信長が静かに指先で転がす盃。その手元を、秀吉はじっと見ている。


やがて、信長がぽつりと切り出した。


「伊勢――どう動くつもりだ。」


その言葉に、私は自然と背筋が伸びる。


伊勢――上洛を目指す上で最大の難所。


武力だけでなく、神宮と熊野、在地の勢力の“気”をいかに掌握するかが問われている。


私は静かに膝をつき、慎重に言葉を選んだ。


「伊勢神宮には、式年遷宮の復活を約束いたします。」


「百余年も絶えていた大祭を、信長公の威で復活させることで、神宮勢力の心を繋ぎます。」


「同時に、領地の安堵と経済的な助力も申し伝え、安心して織田方に付いていただくつもりです」


信長様は無言でうなずかれる。その眼光は“続けよ”と促している。


私はさらに進めた。


「式年遷宮の勅許を得るため、朝廷へは上納金五百貫を用意します。」


「その使者は吉良殿が適任かと。」


「神宮には神威の復活を、朝廷には財と名誉を、同時に差し出して信長公の正統性を盤石にいたします」


頭の中で、伊勢の在地領主や神宮の古老たちの顔を思い浮かべる。


彼らの多くは、乱世で疲弊し、力の強い者ではなく“世を動かせる者”を求めている。


「熊野にも密使を送り、水軍や南方の物流の協力も取りつけておきます。」


「伊勢湾から熊野灘まで織田の旗が立てば、敵対勢力の余地は消えます」


信長様の表情は変わらないが、その沈黙に重みがある。


(神宮と朝廷、熊野――それぞれに“利”と“大義”を与え、織田に取り込む。武力だけでなく、祭祀と権


威、そして実利の三本柱で伊勢を固めるのが要だ)


私は、決意を込めて言った。


「必ずや、伊勢を平定し、信長公の上洛に障害なき道をお開きいたします」


炉の火が、ぱちりと爆ぜた。


その音だけが、部屋に響いていた。

ご一読ありがとうございました。

第45章では、いわば「信長と秀吉の頭脳戦」が描かれました。


伊勢神宮の式年遷宮の復活、朝廷への上納金による勅許の獲得、熊野への密使、水軍と物流網の確保――

これはすでに“戦”ではなく、“天下構想”です。

秀吉は、武将ではなく「政務官」としての役割を、確かに担い始めました。

「戦場」は、常に表にはない。

それを感じ取って動くことが、彼の“人たらし”としての真価なのかもしれません。



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