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第43章 新年の挨拶

第43章では、岐阜城での新年の挨拶が描かれます。

雪と朝日、緊張と誇りが交錯する元旦――織田家の重臣たちが膳を前に一同に会し、信長の年頭訓示を受けます。

ここで描かれるのは単なる年始の儀礼ではありません。信長の言葉一つひとつが、家臣の心を引き締め、奮い立たせ、そして密かに評価と圧力を与える“戦略的演出”として作用しているのです。


この章は、「戦の一年を迎える者たちの姿勢」と「信長の人心掌握術」に焦点を当てた心理劇でもあります。

戦だけでなく内政も評価される――それが信長の政権であることを、秀吉たち家臣はひしひしと感じ取ります。



(1565年1月元旦)岐阜城・大広間


岐阜城の大広間。正月の朝、障子越しの光と雪の白さが、緊張した空気を一層引き締めていた。


信長が大広間に入ってくると、座の空気がすっと張り詰めた。


誰かが小さく息を呑む音。


その瞬間、畳の上を走る冷たい緊張。


信長が鋭く全員を見渡すと、武断派の席では柴田勝家が小さく背筋を伸ばし、佐久間信盛が、腕を組んで


前のめりになる。


丹羽長秀が唇を結び、蜂屋頼隆が目を細め、森可成がわずかに顎を上げている。


「まず――長嶋一向一揆のせん滅、これは我が家にとって大きな働きだった。」


「柴田勝家、佐久間信盛、丹羽長秀、蜂屋頼隆、森可成――よくぞ戦い抜いた。」


「皆の武に、心より感謝する。」


武断派の間に、誇らしげな目配せが走る。


勝家が隣の信盛に小さくうなずく。


頼隆がひそひそと「やはり殿は見ている」とつぶやく。


森可成が肩で静かに息を吐き、その武士らしい自負が、座の端々にじわりと広がっていく。


「この一年、戦だけではない。」


「犬山周辺の内政、特に新田開発と水田改革――木下藤吉郎、その手際は見事だった。」


「だが、お前もこれに満足するな。」


秀吉は身じろぎせずに答える。


膳の下で拳をそっと握ると、内政を担当する面々


――蜂須賀小六や、町奉行たちは互いにそっと視線を交わし、「やっぱり手厳しいな……」


「だが、殿に名を呼ばれるのは光栄だ」と、ひそひそ話が膳の下を流れる。


「勝家、信盛、長秀、頼隆、可成――そのほか名を挙げぬ者も、今年もまた、戦に政に手を抜くな。」


「わしは全員を見ている。」


その言葉に、広間の空気がふっと和らぐ。


武断派の席では「さて、今年はどの城を攻めるか」と声が漏れ、内政担当の小六は「田んぼの話も、また


殿に報告せにゃならんな」と小声で笑う。


信長が皆をもう一度見渡わたす。


「我が織田家は、これからが本番だぞ」と結ぶと、家臣たちはそれぞれ、胸に新たな火を灯して、膳の前


で深く頭を下げた。


家臣たちはそれぞれ膳の前に正座し、膳の間を小姓たちが静かに酒を注いで回る。


膳の隅では、箸を持つ手がふるえ、どこかで誰かがそっと衣の裾を直す音もする。


酒の香と、雪解け水の音。正月の朝の岐阜城には、静かな誇りと、これからへの覚悟がしっかりと満ちて


いた。

ご覧いただきありがとうございました。

第43章では、「信長の年始訓示」を通して、武断派と内政派の緊張感と誇り、そして信長という人物の“支配の作法”を描きました。

信長はただ武を奨励するのではなく、内政にも目を光らせ、成果を挙げた者には確実に“名を呼んで報いる”。

それがどれほど家臣たちの士気を高め、また同時に“監視されている”という緊張をもたらすか――この章ではそれを感じていただければと思います。

酒の香に包まれた静かな朝の空気の中に、戦の火種が密かに息づく。

信長の「本番はこれからだ」という言葉に込められた真意が、後の章に効いてくることになります。



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