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第42章  毒米”策への葛藤

第42章では、いよいよ「毒米策」に対する家臣たちの葛藤と、秀吉(健一)の“内なる苦悩”が描かれます。


秀吉はただ知略を誇るだけの人物ではなく、「戦の本質は、民を守ることにある」と理解する為政者としての顔を見せ始めます。本章は、戦国の過酷な現実の中で“理想と現実”をどう調和させるか、その心理的な重みを扱います。

前章で提示された毒戦術の裏にある「心の痛み」を描いた回ですので、武田軍への痛烈な皮肉が前面に出ていた前回とは異なり、本章はどこか静謐な空気が流れます。

毒を「使うこと」よりも、「それでも使わねばならぬ時が来たら」という“覚悟”と“責任”の物語として、お読みいただければ幸いです。

(1564年10月)犬山城


 秀吉が策を語り終えると、広間に微妙な沈黙が落ちた。


家臣たちは顔を見合わせ、誰もすぐには言葉を返さなかった。


 蜂須賀小六が、渋い顔でつぶやく。


「……いくら敵が山賊気質だと言っても、米を、わざと毒にするなんて、なあ……。」


「考えはしても、いざやるとなれば誰だって気が引けるもんで……」


 祐才(伊賀者)も神妙に続ける。


「米は“命の糧”ですからな。その尊い米を、毒にするなど……。」


「民百姓には絶対にやらせられませんし、たとえ敵用でも、どこか心が痛みます。」


 半兵衛は静かにうなずく。


「……それほどの“禁じ手”だからこそ、敵もまさかやられようとは思わないでしょうな。」


 秀吉はゆっくりと頷き、重い声で言った。


「そうだ――だからこそ、これは本当に最後の策だ。民の米を粗末にして良い理由にはならん。」


「だが、いよいよの時は、命を守るためにも“禁じ手”を使わねばならぬ場面がある。」


「戦とは、それほど残酷なものだ。」


彼の言葉には、理想と現実の狭間で苦悩する、深い感情が滲んでいた。


 ◆豊作と“禁じ手”の関係


 沈黙の中、秀吉は天井を見上げ、小さく息を吐いた。


「……そもそも、こんな策が成り立つのは、今年の犬山が、ここ何年かにない“米の爆増”を果たせたから


だ。」


 半兵衛が納得したように頷く。


「確かに、例年通りの収穫なら、余計な米一粒たりとも粗末にできませんでした。」


「“毒米”など、ただの夢物語です。」


 蜂須賀小六が苦笑しながら言う。


「今後は領内の多くで収穫量が増加していく」


 秀吉は静かに皆を見回す。


「どれほどの禁じ手であれ、この一年の改革と天の恵み――それがあったからこそ、我らは“選択肢”を持


つことができた。」


「民の食い扶持を守りつつ、敵にだけ地獄を味わわせる。……それでもなお、重い策だがな。」


 家臣たちはあらためて、今年の米俵の山とその裏の苦労と奇跡、そして自分たちの“責任”の重さを、深


く心に刻んだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


今回の第42章は、「毒米策」という禁じ手に対して、家臣たちが感じる“良心の痛み”と、秀吉自身の“内面の苦悩”を丁寧に描いた一章です。


前章で語られた戦術の裏側には、「米」という民の命綱を“あえて毒に染める”という深刻な選択がありました。

その一線を越えることの意味――そして、それを「最終手段」としてしか扱わない慎重さ――本章ではその精神的な厚みを大切にしています。


同時に、ここ数年の農政改革と天候の奇跡により「初めて生まれた余剰米」が、戦略的“選択肢”を生んだ事実も見逃せません。

戦争の裏には、飢えを防ぐ日々の積み重ねと、政治の重みがある――それを示す章でもありました。

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