第41章 毒と補給隊をめぐる戦術
第41章では、犬山城の軍議の場で、秀吉(健一)が新たに「毒を使った輜重戦術」に踏み出します。
一見過激な戦法ですが、戦国という時代の“現実”を突きつける展開でもあります。
本章では、「食中毒菌」を用いた“現実的で足がつきにくい毒”の活用や、敵心理の撹乱を通じた間接戦の妙をご紹介。
戦国の戦術は刀槍だけではない――“疑念と腐敗”が、最大の武器となる時代が来たことを示す一章です。
※本章には一部、食物汚染や毒物使用を含む描写があります。フィクションとしてお楽しみいただければ幸いです。
(1564年10月 )犬山城
秀吉は地図の上、補給路と物資集積所を指し示しながら語った。
「長対陣が続けば武田の連中が真に狙うのは“物資”――特に米や味噌だ。」
「山賊気質の輜重隊は、補給が尽きれば略奪もいとわない。……ならば、こちらから“奪わせてやる”。」
家臣たちが静かに息をのむ。
秀吉はさらに声を落とした。
「米にも、味噌にも――毒を混ぜる。奴らが奪って本隊まで運び、食えば、半日ほどで次々と倒れる。」
「それを“繰り返し”やれば、信玄の軍は輸送隊に手が出しにくくなるはずだ。」
「輸送隊の警護も少しずつ増やすからな。」
半兵衛が慎重に問う。
「毒の調合や仕掛けは……?」
山田祐才が小声で応じる。
「火薬の密造と並行して、薬草や毒物の選別も進めております。」
「即死よりも、“後から効く”毒を選びましょう。」
「半日ほど後に兵や村に“死者”が出れば、疑心が蔓延します。」
蜂須賀小六が重苦しくうなずいた。
「これは……武田の輜重隊だけじゃない。本国の村々まで“恐怖”が広がるな。」
秀吉は目を伏せ、独白のように呟いた。
「手段を選ばぬのが戦国の道――だが、これで戦を早く終わらせられるなら、無辜の民がまた死なずに済
む。」
「“毒”の恐ろしさは、命だけでなく、心も蝕む。」
「武田の山賊どもに、“奪う恐怖”を教えてやる。」
これは爆炎城の伏線でもある。奪って必死に持ち帰っても毒入りで食べられない。」
「何回も続いた後に食べられる食料を手にしたら。そざ満足した食事になるだろう。酒もある。」
◆食中毒菌を使った毒戦術
秀吉は家臣たちを見回し、ふと笑みを浮かべてこう語った。
「――実はな、毒といっても難しいものじゃなくていい。」
「一番簡単で大量に仕掛けられるのは“食中毒菌”――つまりカビた米から毒を作る。」
「米を船で輸送中に時化などでどうしても濡れてしまう物が出る。」
「商人にそんな米を100文で買うと言えば持ってくるだろう」
半兵衛が目を見開く。
「なるほど……。特別な薬草や毒薬より、よほど現実的ですな。」
「しかも、武田の山賊気質の連中は、補給が十分でも物資が目の前にあれば必ず持ち帰る。その性質を逆
手に取るわけですね。」
山田祐才もすぐに理解した。
「城や補給基地に毒をまぜた米や麦・味噌”を紛れ込ませればいい。」
「奪った後に食べた者が次々と倒れれば、疑心暗鬼が広がる。」
「“織田の物資には毒がある”と噂が立てば、敵は手を出す時躊躇するだろう。」
蜂須賀小六がにやりと笑う。
「これなら手間もかからねえし、足もつかねえ。賢い策ですな。」
秀吉は頷き、静かに締めくくった。
「“戦国の知恵比べ”は、時にこうした小さな工夫で勝敗が決まる。」
「――奴らに“物資への疑い”という毒をしみ込ませてやる。」
ご覧いただきありがとうございました。
第41章では、いよいよ秀吉が“毒米策”という間接戦術に踏み込みました。
ここで描かれるのは、武田軍の“欲に基づく略奪習性”を逆手に取り、物資そのものを“罠”にするという非情かつ冷静な知略です。
ただしこの策は、読者の皆様にもお察しいただける通り、秀吉自身にも重い決断でした。
この章は「戦術の冴え」だけでなく、その裏にある「人間としての良心」と「敵味方を超えた“米”への敬意」も根底に流れています。
※毒の説明:カビの種類フザリウム・グラミネアラム、フザリウム属カビ。加熱では分解されにくい!(120〜180℃の加熱でも安定)急性毒性、嘔吐、吐き気、下痢。
次章(第42章)では、その倫理的葛藤が丁寧に描かれますので、あわせてお楽しみください。




