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第40章 武田家分析 その2

前回に引き続き、犬山城の軍議の場から「武田家分析 その2」をお届けします。


本章では、巷で語られる「武田の騎馬軍団」神話に対して、未来人・秀吉(健一)が冷徹にその実像を解き明かします。

また、武田家の“山賊的性質”を逆手に取った大胆な戦略「爆炎城の計」が披露されます。


※武田信玄・武田家に強い敬愛や思い入れをお持ちの方には、やや刺激的な内容を含みます。フィクションであることを前提に、必要に応じて「読み飛ばし」や「一時退避」をおすすめします。歴史的評価を否定する意図は一切ございません。

(1564年10月 )犬山城

 ◆武田の騎馬神話と山賊的実態


 秀吉は軍議の中、静かに語りだした。

「皆、よく“武田の騎馬軍団”などと言うが、あれは話が大げさすぎると思う。甲斐は貧しい。」


「騎馬武者用の馬を養う余力はない。馬は贅沢品で、食わせるにも草や穀物がいる。」


「そもそも“馬回り”に従者を揃えるような余裕もないのが甲斐の現実だ。」


「馬一頭養うのに小者2~3人分のお金と3人の世話人がいるのだぞ。」


「馬は急斜面を非常に嫌う。馬の産地なのはたしかだ。」


「育てるのには涼しい気候が向いているので、出来るだけ、なだらかな場所で育てているのだろう」


「しかし山地で戦うには馬は不向きだ。」


「馬は本来草原に生息している動物なのだから当たり前なんだ。」


 蜂須賀小六が苦笑する。「なら、戦場に現れる武田の騎馬武者どもは何者です?」


 秀吉は地図の上、山村を指して続ける。


「普通の大名家の騎馬武者には5人から7人供がつく。」


「戦場では足軽や従者が守り立てておるな。だが、甲斐の連中は違う。“山賊”だからな。」


「馬も従者も、皆が同じ目的――要は“略奪”と“現場の損得”が第一だ。」


「だからそもそも馬は騎馬武者用ではなく奪った略奪品を運ぶための物だから、荷物が無い時は馬賊のように使うようになったのだろう。」


「最初から集団戦術として組まれた騎馬武者として使う目的ではないので理にかなった運用ではなく、乱取りしようとして突撃していくように見えるのだろう。」


 半兵衛が頷き、言葉を継ぐ。


「行軍中は出来るだけ平な道を進むことで一応隊列も保ち威容を保だろうが、戦が始まれば、まとまりも名目だけ。伝令が多いのもそのせいであろうな。」


「命令を行き届かせるため。そして現場の状況を細かく知るため、そして最後の各自が勝手に動いて良い頃合いを伝える為。」


 秀吉はさらに踏み込む。


「“主従関係”といいながら、実態は“山賊仲間”。命令は一応通るが、結局“獲物が取れるか”どうかが全て。」


「大軍をまとめるには“伝令”を乱発し、現場で逐一損得を判断させるしかない。」


「だから武田軍は“素早い”が“まとまりが悪い”のさ。」


 蜂須賀小六が冗談めかして言う。


「“損得勘定でしか動かん連中”景気の良い時は無類の強さを発揮する。」


「……逆に言えば、大将が餌を出せなくなったり、見込みがなくなればすぐ裏切るということですな。」


 秀吉は重々しく頷いた。


「まさにそれだ。大将が利を配り続ける間は強いが、利が切れれば群れはばらばらになる。」


「――それが“山賊気質”の恐ろしさであり、脆さでもある。」


 軍議の間には現実的な空気と、武田軍団の“神話”を打ち破る、歴史の重さが静かに満ちていた。


 ◆秀吉「爆炎城の計」を説く


 軍議の間に静かな熱気が満ちる。秀吉は地図の上に数カ所の小さな城の印を描きながら、家臣たちを見回した。


「よいか――“山賊気質”の武田軍は、奪えるものがあればどこまでも動く。その性質を逆手に取る。」


 蜂須賀小六が身を乗り出す。「まさか、わざと城を……?」


 秀吉はにやりと笑う。


「そうだ。補給基地となる小城を、武田の進軍予想地に何カ所も置き、これ見よがしに物資や米をため込む。武田の間者どもは必ず情報を持ち帰る――“あそこを落とせば米と金が手に入る”、と。」


 半兵衛が地図をじっと見つめる。


「もし武田が動けば、その進路はこれらの“餌場”に向かう。こちらはそれを見越して兵を配し、あるいは“逆空城の計”で引き込み、一気に叩く」


 秀吉が重々しくうなずく。


「注意すべきは、あまりに弱そうに見せれば疑われるし、逆に堅城すぎると見向きもしない。」


「“落とすのに難しすぎず、楽すぎず”、絶妙な小城に“欲を誘う餌”を置く。」


 蜂須賀が楽しげに声を弾ませる。


「武田の連中は、餌に目が眩めば必ず動く――しかも伝令と間者が群れを引き込む。まんまと“爆炎”の中に引きずり込んでやりましょう。」


「山田その時は頼むぞ。間者をわざと少数入れて誘導役をはたしてもらわねばならぬからな。」


 秀吉は静かに締めくくった。


「……これが、武田の“山賊魂”を利用した策だ。“利”の流れを操れば、いかに勇猛でも群れは思い通りに動く。爆炎城の煙が、甲斐の空に上がるのを想像してみろ。――これは生き残りをかけた知恵比べよ。」


 家臣たちは深くうなずき、軍議の間には新たな自信と闘志が生まれていた。


 ◆爆炎城の真意


 秀吉は地図の小城に印を付けながら、家臣たちの顔を見回した。


「……爆炎城の計、ただの囮ではない。敵が“城内で残した酒や食料、武器を手にして宴会中に”その瞬間――油と火薬で一気に爆炎を上げる。城もろとも、敵を焼き尽くすのだ。」


 軍議の間が一瞬ざわめく。


蜂須賀小六が目を見開く。「……つまり、城を“餌”にして、酒や食糧で敵を奥まで誘い込む。そして一気に――」


 半兵衛が冷静に続ける。「爆薬と油の仕掛けを張り巡らせておく。敵が物資を漁り、油断した隙に火を放つ。逃げ場もない。……武田の連中は、一撃で壊滅する。」


 秀吉は静かにうなずく。

「山賊気質は“利”に群がる。だが欲に目が眩んだ時こそ、一番隙ができる。」


「“爆炎城”は、まさにその本能を逆手に取る死地だ。」飛んで火にいる武田虫


 家臣たちの顔つきが厳しくなる。祐才が小声で確認する。


「火薬の量と油の手配、脱出路の偽装……慎重に計画せねば、こちらの犠牲も出かねません。」


 秀吉は力強く頷く。


「……ただし、すぐに実行できる策ではない。今は火薬も油も、着々と“蓄えの下準備”を進めている最中だ。」


「無闇に急いで使えば目論見が漏れるし、何より安全な保管と仕掛けの工夫が要る。」


「各所の小城や物資集積所に少しずつ“餌”をため、必要な時に一気に仕掛けられるよう備える。」


 半兵衛がうなずく。


「そうだ。“爆炎城の計”は、時と準備がすべて。時機を見誤れば、逆にこちらが火傷を負う。


 ※馬の説明:19世紀の軍馬マニュアルでは、最大勾配12〜15%が限界とされる。起伏ばかりの山岳地では本来の能力が出ません。「木曽街道」や「甲州街道」などでは急坂には「馬子(引き手)」が必須とされていました。


ご覧いただきありがとうございます。


本章では、甲斐という国の“地理・経済・文化”の中から、なぜ武田家が「戦のプロ集団」となったのか、そしてその強さの構造と同時に、脆さや限界がどこに潜むかを描きました。


また、秀吉が考案する「爆炎城の計」は、ただのトラップではなく、“利で動く組織の本質”を見抜いた上での戦略です。

現代に通じる「組織論」「リスク管理論」としても読んでいただければ幸いです。


次回はいよいよ、武田との対決に備えた外交戦・経済戦略へと物語は移ります。戦場は地図の上だけではない――戦国の叡智をお楽しみに。



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