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第32章   稲作チート

戦わずして国を変える――その最短の道は、「田を変える」ことだった。

藤吉郎は、農村改革の本丸に乗り込む。「正条植え」「種もみ選別」「中干し」など、現代農法のエッセンスを次々と導入していく様は、まさに“戦国アグリテック革命”。

肥料設計から度量衡の統一、田の形状改革まで踏み込み、単なる豊作ではなく、社会制度そのものの均質化・制度化へと話を展開します。

夢は、一反六俵、二百万石超え――その先にあるのは「新たな国家の原型」です。

(1564年1月)犬山城


雪のちらつく犬山城の広間。家臣や村役人、伊賀者、修験者たちが杯を交わす中、農業の話題に花が咲いていた。 


蜂須賀小六が笑う。


「今年は忙しかったな。田も村も、見違えるようだ」


前田利家が杯を掲げる。


「正条植えは、どの村でも話題だぞ。皆が真似したがってる」


藤吉郎(秀吉)はうなずき、やや真顔で続ける。


「だが、正条植えを本当に生かすには田んぼ自体を長方形に揃えねばならぬ。」


「苗の間隔も決まりがある。」


「縦は三~五寸ごと、横は二寸ごとに、縄を五本は張って目安にして植えていく。」


「形がいびつでは、それも難しい」


「それとこの際だから全ての度量衡も全て統一したものにしようと思っている、とりあえず長さ(厘分寸尺丈間


町里)・重さ(厘分匁斤貫)・量(合升斗石)を統一しないと不公平だし、今後の分業体制に於いては致


命的欠陥となるゆえな。」


「だれがどこで作った物でも同じ物が出来て来ないと分業にならないので巣急に行いたい。」


半兵衛は「それは信長様の裁可が必要になることゆえ、またにしましょう。とりあえず今は田の統一規格


についてです。」


そう言いながら半兵衛が帳簿を広げる。


「田の形を変えるとなると、村全体で相談せねばな。


「隣との境もある」村の顔役がうなずく。


「名主が“やる”と言えば、村はまとまるのではないか?」


蜂須賀小六が聞く。


健一は藤吉郎に転移した時に藤吉郎のそれまでの記憶が入り込んで来た時の幼い頃の記憶がよみがえった。


そして村名主の事を思い出して嫌な顔になった。


「たしかに村は全員が家族みたいなもんだしな。」


『実際、多夫多妻の現実を生で見せられた時、健一にとってはショックであった。」


「数世代遡れば村中血の繋がりがある可能性が高いのだ。」


「しかしこのことは村の総意をまとめやすい理由の一つでもあった。」


藤吉郎は「名主とその取り巻きの大人達で重要な事はほぼ決まる。」


「如何にして全ての名主達の同意を得るか。そうだな?」


村の顔役は「一応その通りですが、こと田んぼの事となると中には跳ねっ返りが出てくるものです。」


「その際はご相談させてください。」


藤吉郎はさらに続けた。


「それだけじゃない。種もみも、これからは塩水で選別するぞ。」


「よく実る粒だけを選んで、苗作りに使う。弱い種は初めからはじくんだ」


「苗もな、ただ直播きするのではなく、春先は陽当たりがよくて暖かい場所で苗代を作って育てる。


しっかり育った苗を田に植えれば、病にも負けにくい」さらに手元の紙に図を描きながら続ける。


「田んぼを改造する時は、水路の位置も見直すし、水の出入りが早ければ中干しもやりやすい。」


「中干しは一度田の水を切って、土を締めて根を強くするやり方だからこれも今年からやってみたい」


「そして転がし除草機の絵図だ。」


利家が感心してうなる。


「まるで百姓頭が百人おるみたいな細かさだな……」


秀吉はにやりと笑った。


「工夫は尽きぬぞ。」


「肥溜めの肥も見直してもっとよく発酵させて臭みも減らすつもりだ。」


「魚や籾殻の灰も混ぜて、土が肥えるようにしてやる」


「堆肥の黄金比は下肥:草木灰:油かす(魚かす)=5:3:2だからな」


(収穫量を最大にする比率はN:P:K ≒ 7:3:3 だからこれでよいはず)転生前の健一の祖父の受け売りであった。


少し間を置いて、秀吉は皆を見渡した。


「――これら全部を上手く重ねていけば、計算上、一反で五俵、いや六俵までいける。」


「今の二倍近い収穫だ。もし尾張・美濃のすべてで実現できれば、いま合わせて百十万石の土地から、二


百五十万石――倍以上の米が採れる。そうなれば、国が変わるぞ」


一同は驚きと期待の混じった顔で秀吉を見つめた。」


「広間にはしばし沈黙が流れ、やがて誰からともなく「それは…まるで夢だな」


「ほんとうにそんなことが?」という声が漏れた。


秀吉は杯を高く掲げる。


「夢を現にするのが、人の知恵と手間というものよ。皆、今年もよろしく頼む!」


広間には熱気と活気が満ちていく。


外は雪、しかし犬山の城には確かな“春の兆し”があった――。


※現代の科学肥料と農薬・品種改良された米種なら1反10表は取れる。

この章は、「農業の底力」と「制度設計の妙」が交差する地点を描きました。

耕作面積や品種ではなく、“やり方”の工夫だけで収量を倍にする。

そのロジックを「家族制度」「村落秩序」「名主の合意形成」などの現実構造と絡めた点に、藤吉郎の“政治家としての知略”が光ります。

また、N-P-K比や下肥管理の知識が、単なる農技ではなく“国家計画”の一部として組み込まれる様は、近代国家の予兆すらあります。

「夢はうつつにできる」――藤吉郎の笑みには、知識を力に変える者だけが持つ確信がありました。

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