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第13章 策士の目覚め

「理想」とは空論か。それとも、未来を動かす力か。

前章で竹中半兵衛と出会った藤吉郎=健一は、己の理念を胸に、ふたたび彼のもとを訪れます。

武力ではなく「知」と「秩序」によって世を導く未来像――現代の記憶と、戦国の才覚が交錯する対話が、いま始まります。

(1560年9月)竹中家


半兵衛との初対面から数日後、藤吉郎は再び美濃の山館(やまだて)を訪れた。

今度は客ではない。彼は自らの意志で、未来の政の姿を語るために訪れた。


館に入ると、前回と同じく、静かに茶が用意されていた。

半兵衛は既に席に着いていたが、前回よりも目の奥に光があった。


それは、彼の言葉に耳を傾ける準備が整っている証拠だった。


「お戻りとは、少し意外でした。」


「こちらから出向くべきと、そう思いました。」


二人は膝を突き合わせ、再び茶を啜る。


「戦乱の世にあって、秩序とは何か――前回の言葉、忘れてはおりませぬ。」


半兵衛が口火を切ると、藤吉郎はゆっくりと頷いた。


「信玄公の治め方は、国が上で人が下。情や命さえ、国のためには切り捨てる。それが理に適うと、多くの者が信じている。だが私は、国とは“人そのもの”だと考えております。」


半兵衛の眉がわずかに動く。


「人のための国か。」


「はい。人の営み、家族、暮らし、それらを支えるのが政です。武力や恐れでは秩序は続かない。知と仕組み、そして慈悲が国を築くのです。」


その声には、現代に生きた健一の記憶が確かに宿っていた。あの「ノアの箱舟政策」、選ばれた者以外を見捨てる思想への反発――。


(国家の存続のために“無駄”を切り捨てる? それが進化だと? 違う……違うんだ。人を捨てる政では、魂に傷が残る。長い時間をかけて癒されるはずの傷が、また開かれる。)


彼は語る。100年を超える戦乱は、ただ人を殺したのではない、人の魂に深い傷を残したと。


そしてその傷を癒すには、今、誰かが別の道を示さねばならぬのだと。彼の言葉には、単なる論理だけでなく、深い痛みが滲んでいた。


「あなたは仏の道を、政の中心に据えると?」


「ええ。理屈で人を選ぶのではなく、人が安心して生きられる世界をつくる。知の使い方を誤れば、国は滅びる。」


半兵衛はその言葉に、しばらく返事をしなかった。彼の心の中で、藤吉郎の言葉が新たな波紋を広げているようだった。


やがて、静かに息をつき、立ち上がる。


「……なるほど。策とは、勝つためのものと思っていた。だが、まつりごとのための策というものがあるなら、それは面白い道筋だ。」


「その策を、あなたと共に描きたい。私はまだ半人前ですが、共に道を拓ければと願っております。」


半兵衛は小さく笑みを浮かべた。その表情には、好奇心と期待が入り混じっていた。


「世に名を残すかは、わからぬ。しかし、己が信じることを貫く者には、いずれ道が開ける。……あなたと共に策を巡らせてみよう。」


二人は、再び茶を啜る。戦乱の世を終わらせるための政の胎動が、今、小さな一室から始まった。


それは、まだ誰も知らない、新たな時代の序曲だった。

この章では、戦国屈指の知将・竹中半兵衛と、転生者・秀吉=健一の本格的な「理念の対話」を描きました。

戦乱を制する“策”ではなく、人々を生かす“まつりごと”の知――それこそが、秀吉がこの時代にもたらそうとしている本質です。


半兵衛にとってもまた、初めて出会う「秩序のための策論」は、彼の人生観を静かに揺らします。

この思想の萌芽は、いずれ「国づくりの設計図」となり、ふたりの協力関係はその礎となっていくでしょう。


次章では、戦略家としての半兵衛が、いかに実務に踏み出していくか。

そして、理念が“戦国の現実”にどう影響を与えていくのかに注目です。

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