第120章 第2次石山合戦
(1570年10月)石山本願寺
織田信長が率いる石山本願寺包囲軍に、柴田勝家が合流した。
権六は、当初の予定通り、担当した城を全て落とすか降伏させ、一万五千もの兵を信長のもとへ引き連れ
てきた。
これで、信長軍は総勢四万五千。
圧倒的な兵力で石山本願寺を取り囲んだものの、その巨城は容易には落ちそうになかった。
本願寺は強固な防御を誇り、門徒衆の抵抗も激しい。
信長は状況を見極めると、柴田勝家に命じた。
「権六、そのまま包囲を続けよ。わしは京へ戻る。将軍義昭に、直接会う必要がある」
信長は、苛立ちと同時に、新たな策を練っていた。本願寺を力攻めにするには犠牲が大きすぎる。
それよりも、この戦の真の火種である将軍義昭を叩くことこそが、急務だと判断したのだ。
柴田勝家は、信長の意図を察し、深く頭を下げた。
「はっ! お任せくだされ。この権六、必ずや本願寺を抑え込み、殿をお待ち申し上げまする!」
権六は堀塞ぎを命じ、外郭に土手と矢倉を次々と足した。
「舟手が要る――河口を押さえねば、米は尽きぬ」
雑賀・泉州筋の商船はまだ本願寺に出入りする。
権六は堺の行商を呼び出し、塩と油の目録を逆算して締め付けを始めた。
信長は、残りの兵を柴田に預け、少数の供を連れて京へと馬を向けた。
石山本願寺の重厚な門は、信長が去った後も、頑として閉ざされたままだった。
京では、信長と将軍義昭の最後の対決が迫っていた。
■将軍義昭と信長
京・二条御所。土塀の白に、秋の光が鈍く反射していた。
「殿下御成――」
侍臣の声が細くのび、織田信長は十数騎の供回りだけを連れ、馬をゆるめた。
廊に並ぶ近習の眼が、冷えている。
将軍・足利義昭は御座敷の襖をわずかに開け、そのまま閉じた。
信長は扇を畳み、献上の目録と意見状を机上に置く。
「まず一つ、私戦を禁ず。一つ、本願寺への縁を絶て。一つ、畿内の諸役は一年止める。その
うえで――天下の軍令は、将軍の御名にて出す。儂はただ、執行するのみ」
義昭の扇が小さく動く。
「織田殿。仏法の山を焼き、いままた法灯を断てと申すか」
「焼いたのではない。乱を摘んだ。そして、乱の根はここにある」
「・・・・・よい。申してみよ、その“天下の次”を」
数呼吸の沈黙。
障子の外で、鴨脚の葉が一枚、ゆっくり落ちた。
信長は深く一礼し、“合意の設計”を語り始めた。




