表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/181

第118章 武田軍視点

(1570年9月中 )落合川砦


武田軍視点


織田方から奪い来た俵は籾付きが主、一部は玄米に麦が混じる。


夜半、臼の音が止むころには、大釜の湯気が立ちのぼっていた。


炊き手は同じ釜で続けて炊き、汁も皆で分け合った。


「今夜は久方ぶりの米だ」


湯気に濡れた顔々に笑みが戻り、濡れ藁と飯の匂いが陣に満ちる。


明けて翌日――。


「うっ・・腹が・・」


「なんだ、身体がだるい・・」


食い過ぎか、疲れかと誰もが笑って済ませた。


昼の刻にはぽつり、ぽつりと小屋の隅でうずくまる者が目につき始め、同じ釜で食った連中に似た


ような不調が見えてくる。


さらに一日を置くと、数は雪崩のように増えた。


腹痛・吐気・下し、そして妙な倦怠。


六割近くが動けず、残る二割は介抱に追われ、自ら槍を持てる者は二割にも満たない。


「これでは・・戦にならぬ」


馬場信春は歯噛みした。


原因は見えぬ。見張りは怠らず、渡河も控えた。それでも隊は根っこから力が抜けるように弱っていく。


「やむを得ぬ・・一旦、後退する」


その声は低く、しかし抗いがたい。


担架と杖にすがる列が、落合川砦から這うように遠ざかっていく。


振り返れば、砦は静まり返ったまま、ただ風に竹が鳴っているだけ。


(まさか……あの米か?)


信春の胸に、遅れて、その恐ろしい可能性に思い至った。


しかし、すでに手遅れだった。


彼らは、見事なはかりごと嵌められていたのだ。



※食中毒の説明:カビマイコトキシンとは?カビ(糸状菌)が産生する毒素で、人間や動物の健康に重大な影響を与える物質。熱にも強く、加熱しても分解されにくいという特徴があります。今回のカビはデオキシニバレノール嘔吐・免疫抑制、発生条件は低温高湿(収穫期の雨が好発)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ