第115章 コンクリート土台の砦
(1570年8月 )落合川砦
■ 馬場信春視点
落合川砦を前に、馬場信春は眉をひそめていた。
「噂に聞いていた羽柴の城とは、まさかこんな代物か・・」
竹垣は視界の限り連なり、足元には砂土を突き固めた灰色の土台が走る。
「あの灰色の土台が砂を固めたものか・・」
信春の目は、竹壁の足元に築かれた堅固な土台を捉えていた。砂と土を混ぜて固めたと聞くが、これほど
の規模は想像を超えている。
その堅牢さは、まるで人間の知恵が形になった怪物のようだと、信春は感じた。
「とりあえず火矢を射かけてみろ」
馬場隊の足軽たちが、一斉に火矢を放つ。ヒュウ、と空を切る音とともに、火の矢が竹壁に突き刺さる。
しかし、燃え盛る炎は上がらない。
「やはり燃えないか。これは厄介だ・・」
信春は舌打ちした。火矢が効かないとなれば、攻め手は限られる。しかも、この長大な壁は、砦を囲むこ
とすら困難にしている。
その後、二、三度は寄せたが、砦は動かず。間を置いて乾いた一発が鳴るだけで、射位は見えぬ。
「これは我慢比べか・・」
信春は、苛立ちを抑えきれない。向かい合ったまま、日に二、三回、矢を射かけさせたり、雑兵に渡河を
試みさせたりしたが、本格的な攻勢には出られない日が過ぎていった。
渡河を試みさせるも、下流の渡渉点は材木束で塞がれ、上流は崖の斜面が狭い。
兵糧だけが減る。
馬場信春は、砦の向こうに立つ砦将の姿を想像した。
きっと、あの若武者は、この状況を嘲笑っているに違いない。
彼の心には、屈辱と、言い知れない不快感が渦巻いていた。
「・・いつまで、そうしていられるものか」
信春は、静かに吐き捨てた。
しかし、その声には、いまだ打開策を見出せない焦りが滲んでいた。




