第99章 近代軍編制
(1569年 七月)敦賀
敦賀手前の陣。
伝令の声が響くや否や、信長は迷わず言い放った。
「三好が京で動いたか・・ならば背を断つは秀吉に任す」
秀吉は膝をつき、一礼する。
「心得ております。即刻、動きます」
信長は地図を畳みながら、ふと口元を緩めた。
「おぬしの手勢、名を“師団”と呼んでいるそうだな」
「左様にございます。“尉団”“佐団”“将団”――新しき戦の形にございます」
(この呼び名は、かつて“信一”だった俺が知っていた近代軍の編制・・組織の骨格を数字で刻めば、時代
が変わっても強く動ける)
「ならば、その師団で京を制せ。三好の目を潰してこい」
――同日夕刻・出撃前。
黒鋤隊四千八百。土木と戦闘を兼ねる重装部隊、鍬と槍を併せ持ち、鎧の上から泥をまとって整列する。
犬山隊二千四百。旧城下の市兵と騎馬足軽からなる先鋒、盾と弓で統一された陣容。
美濃加茂隊千二百、瀬戸隊千二百。鉄工や水軍訓練を積んだ特殊技術者を含む機動部隊。
輜重隊四百。女たちが荷駄を引き、少年兵が医療と伝令を担う。
総勢、一万。
密かに“秀吉師団”と呼ばれるこの軍勢は、簡明にして強靱な構造を持っていた。
尉団:150名
佐団:尉団4つ=600名
将団:佐団4つ=2,400名
補給単位(補給隊):将団4つ+輜重=1万名
指揮系統は明快で、戦場では即応・即撃が可能だった。
秀吉は騎馬で軍の前に出る。
「――よいか。これはただの進軍ではない。“内”の敵を討つ。三好・・そして将軍家中に渦巻く“陰”を、
表へ引きずり出す」
兵たちは無言のまま槍を突き立てた。
歓声はない。だが地面が微かに震えるほどの気が一帯に満ちる。
その静かな圧力こそ、これからの戦の重さを物語っていた。
「・・出るぞ。“天下”の目が、京で待っておる」
こうして、“秀吉師団”一万は京へ向けて動き出す。
その先には、かつての同盟者――そしてもうひとつの策源地、将軍義昭の影が待ち構えていることを、秀
吉はすでに知っていた。




