君に相応しい場所は此処じゃないそうです。ですよね。
「君は王太子妃にには相応しくない。君との婚約は破棄させてもらう」
一息にそう言うと、彼は豪奢な入り口を指した。
「馬車を用意してある。このまま辺境へと行くがいい」
その瞳はまっすぐに私を見つめている。
「君に相応しい場所を用意した。今すぐここから出ていけ」
彼は私に、そう告げた。
「王太子様! それはあまりにも…」
「いや、だが彼女のことを考えると…」
「王はこのことをご存じなのですか?」
「許可するわけがないだろう。だからこそこのタイミングでの…」
周りの混乱が聞こえる。私は一度目を閉じて、それからできる範囲で最上のお辞儀を披露する。
「承知いたしました」
王太子に指さされた扉へと向かう。私を引き留めようとする人、王太子に掴みかからんばかりに詰め寄る人。
そんな群衆を見向きもせず、私は扉から外へ出た。
王宮の扉につけてあったのは、粗末な馬車。
私が馬車に乗り込むと、すぐに走り出した。
既に行先は指示されているのだろう。
「お嬢様」
乗り込んでいた私の侍女が、頷く。
私も頷いて、あちこちに着けていたジュエリーを外していく。
私の好きな花を模したイヤリングを。
彼の瞳の色をした宝石とダイヤが散りばめられたネックレスを。
8つの頃から着けていた婚約指輪を。
それからドレスを脱ぎ捨て、特注の鎧を身に着ける。
カチリと最後の留め具をつけると、愛用の大剣を手に取る。
侍女が扉を開ける。走り続ける馬車の隣には、愛馬がもどかしそうに並走していた。
「お待たせ。行こうか」
私が愛馬に飛び乗ると、愛馬は馬車を追い抜き、スピードを上げて森を駆け抜けた。
「待たせたね!」
愛馬の上から声をかけると、馴染みの兵士がぎょっとした顔でこちらを見た。
「な…王太子妃殿下!? なぜここに…」
「ちょっと婚約破棄されてね。もう王太子妃じゃなくなったんだ」
だから、と私は愛馬に乗ったまま大剣を構える。兵士の向こうには森よりも大きな蛇が見える。
「今度こそここで皆を守るよ」
「そんな…王太子様は…」
言葉をなくした兵士の脇を走り抜ける。魔力に反応して大剣が光りだす。
「婚約破棄の痛み! 思い知れ!!」
私は大蛇に向かって、光り輝く大剣を振りかぶった。
私と彼は、幼馴染だった。
公爵家令嬢である私と、王太子である彼。
私たちは仲良く、親たちも身分の釣り合うよい結婚相手だと喜んでいた。
しかし、辺境から魔物が襲ってくるようになった。
王家に属するものは、魔物を祓う為の結界を張る必要がある。その為には、王都から外へ出ることは許されなかった。
私には結界を張る為の魔力があったが、それ以上に魔物を屠る大剣を扱う才能があった。
だが、魔物と直接戦うためには、辺境へ赴く必要がある。
王太子妃である以上、私にはそれは許されない。
魔物はどんどん強くなる。兵は疲弊する。
私が戦場へ行けば、きっと魔物を倒せるだろう。
彼はそれに気づいて、苦悩していた。
結界を広げる方法を何年も模索していた。
それでも襲い来る魔物に対抗できる手段を、とうとう見つけることができなかった。
それで彼は私に告げたのだ。
「君の居場所は王都ではない。辺境へ赴き、魔物を倒し、民を守ってくれ」と。
嗚呼なんて君主として相応しいのだろう。
大好きな彼。
辺境へ行ける日の為にと訓練を続ける私を見て、何を思っていたのだろう。
大好きな彼に応えるために、私は今日、ここで魔物をせん殲滅しよう。
そして戦乙女の活躍により、魔物が一次撤退。
王太子が主導していた研究チームが新たな魔術式を構築し、辺境から大型の魔物の侵入を防ぐ門を開発。
戦乙女と王太子の功績を称え、二人の婚姻が認められるのは、もうあと少し先の話。
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