ただ、興味があるだけ
「ふぅ」
ひとつ息を吐き、頭を落ち着かせる。
突然の出来事すぎて、俺にしては取り乱してしまったな。
一つ一つやるべきことをしよう。
「大丈夫ですか?」
声をかけつつ、警備員に近づくと力の弱い息の音が聞こえる。
良かった。
致命傷には至っていなかったようだ。
すぐに救急車を呼び、事情を分かる程度に話す。
来るまでに時間がかかりそうなので、止血だけでもしておこう。
「さて、研究員たちの状態も確かめておくか。」
お母さんの状態を確認しに行く。
「・・・」
体をゆすっても全く反応がない。
ただ、間違いなく息はしている。
心音も聞こえているので、無事ではあるようだ。
眠っているだけ・・・
この言葉を思い出す。
「あいつの言ってたことは嘘ではなかったんだな」
「とりあえず、今いる全員の状況を把握することはできたな。次は、やっぱりこれだよな。」
『ドリーム・トラベラー』か。
十中八九、これであいつはどこかに消えたのは間違いないだろうな。
「この装置を頭に着けてたな。仮説だけど、脳電波の感知で意識を別の場所に飛ばしているみたいなことか。小説とかで、異世界転生的な感じで飛ばされるというのは見たことがあるけど・・・ 現実でこれを実現させたのか。まあ、お母さんなら出来なくはない気がするな。」
ただ、本人が倒れた今、さすがに動かすことができないんだよな。
機能も停止してしまっている。
どうしようか。夢の中、興味あるんだけどな。
お母さんと研究員も助けないといけないからな。
まあ、手掛かりは後はこれぐらいかな。
「隠れてないで出てきなよ」
視線を感じていた背後を振り向く。
「す・・・すみま・・・すみません!」
研究員が生き残っていたのか。
すごい勢いで謝罪してきたな。
「何でこんなに冷静何ですか!みんな倒れたんですよ!」
仲間が倒れれば、このぐらいは動揺するよな。
「警備員の人はちょっと焦ったよ。さすがに死んでしまったかと思ったからな。他の人たちはただ倒れているだけだし、さすがに落ち着かないと」
息を大きく吐き、冷静を取り戻している。
「さすがですね。すみれさんの子なだけあります。冷静に周りを見て、自分のするべきことをする」
「すこし違いますね。お母さんは確かにそうするけど、根本的な部分は『人を助けてあげたい』ことになるんですよね。俺はそこが少し抜けている。俺がそうする理由は、『興味』に尽きる」
そう、人や物全てにおいて興味があればそれを探求する。
そのために今回もこの体験に参加したんだしな。
「なあ、ドリーム・トラベラーを起動する補法知ってるんじゃないのか?」
研究員だしな。
「はい。そのために、すみれさんに生かされたので。これをどうぞ」
これはイヤホンか。
「これは、スペアになります。怜夢さんにお渡しする予定だったようです。」
お母さんが渡したいって言ってたの、これだったのか。
「これを装着していただくと、強制的にドリーム・トラベラーの世界へと転送されることになっています。これは試作品になりますので、一部の人の夢の世界にのみ入ることが可能になっています。獏という男も、これとほぼ同じですので、この世界にいると考えられます」
思ったより簡単に行けるんだな。
「夢の支配人という方がいるらしいので、詳しくはそちらに聞いていただけると分かると思います。」
向こうのことはあまり知らないようだな。
だが、これで遂に体験ができるということか。
獏の言っていた『メア』についても気になるしな。
まだまだ知らないことが多そうだ。
「行くのですね。」
「ああ。何があったのか、これから何が起きるのか、全ての真相を知りたいからな。」
装着すると同時に、麻酔のような効果でもあるのか意識が遠くなっていった。