ドリーム・トラベラー
約700万年前、人類が誕生した。
同時に、一人の神が生まれる。
人々の夢を司る神『デザイア』の誕生だ。
人々は夢を見るが、ほとんどが見た夢を覚えていない。
これは、デザイアによって全ての夢の管理がされているためである。
デザイアは人々にとって最も大切な脳を守る番人として祀られていた。
書記にはこのような伝承が残っている。
デザイアの能力は絶大で、人類すべての夢を一括で管理し、操作することが可能。
この能力を扱うことでストレスにより死ぬ可能性があるものを事前に知ることができ、人々の夢により知らせることで一人の人間の命を救ったといわれている。
実際、この夢を無視し、何もしなかった男は数日後に死んでいる。
心身的なストレスや病を未然に防ぐ不思議な夢を見ることから、夢神として今も祀られている。
「『神の能力をこの手に』か~」
紙をパンパンとたたきながらため息をついていた。
「出来ると思ってなかったんだけど・・・まさか実現させるとは」
駅の改札を出て、紙に指定された場所に向かう。
「お待ちしておりました」
背丈の高い警備員?のような男性が車から姿を見せる。
「東城怜夢様ですね。こちらの車にお乗りください」
言われた通り、車に乗り込む。
「今回のイベントにご参加いただきありがとうございます。最初の体験は怜夢様にとのことでしたので。すみれ様もお喜びになられていますよ」
そう。今回、俺が呼ばれた理由は、お母さん・・・「東城すみれ」が開発した機械の試作品の体験と確認を行うためである。
学校も夏休みに入って時間にも余裕があったからな。
それに、今回のプロジェクトには興味がある。
『ドリーム・トラベラー』
お母さんの作ったこの機械には、夢神デザイアと同一に限りなく近い能力を発揮することが可能であると聞いている。
この技術を開発しようとした人は、お母さんだけでなく何人も存在した。
だが、その技術者たちも、せいぜいVR止まりで完成にたどり着けなかった。
そして、6年前、この開発をお母さんにソムニウムという会社から話を持ち掛けられた。
お母さんは天才だ。そもそもVR技術自体もお母さんが開発したものだからだ。
そして、完成させた。VRでも何でもない完全な新技術を。
他人の夢への介入が可能となる技術。
夢の改変により眠りやすくする。
そんな用途での実用化を目指しているらしい。
「すみれ様から言伝です。渡したいものがあるので制御室に来てほしいとのことです。」
「わかりました」
しばらくすると、城と呼べそうなほど大きな屋敷が見えてきた。
「到着しました。足元にお気を付けください」
そういいながら車のドアを開ける。
「ありがとうございます。」
「では、制御室にご案内します。」
警備員の後を歩き、屋敷の中に入る。
外観は屋敷のような見た目をしていたが、中は想像以上によくある研究所のような姿をしていた。
中は思ったより普通なんだな。
ん?あまりにも人手が少なすぎるような。
なんなら、一人も見かけないな。
「おかしいですね。誰もいないなんてありえないのですが。」
「バン!!」
その直後、破裂音が制御室から鳴り響いた。
同時に、前を歩いていた警備員が倒れた。
・・・どうなってる?・・・撃たれた?
頭が真っ白になる。
次第に視界が開け、前を捉える。
施設の研究員が全員倒れている。
そして、そこに一人立っている男が視界に入った。
「誰だ!研究員全員お前が殺したのか!」
「物騒なことを言うなよ。まさかここに他に人が来ると思っていなかったからな。そいつだけは殺さずにはいられなかったが。」
とてつもなく重い声で、だが、殺意を全く感じない優しい口調で男が口を開いた。
「久しいな怜夢君。俺が一方的に覚えているだけでお前は覚えてないだろうが」
誰だ?こんな奴は見たことがないはずだが。
「ソムニウムの社長。俺のことは獏と呼んでくれたらいい。」
「お前の母親に話を持ち掛けに行って以来だな。」
ソムニウムの社長だと?
「お前裏切ったのか!お母さんはどこだ!」
「裏切ってはいないさ。ただ俺が一番こいつの使い方がわかっているだけだ。母親ならここで倒れているよ。でもさっき言ったはずだ。殺してはいない。眠っているだけだよ・・・永久に起きはしないがな。」
眠っているだと?お前は一体・・・?
「何が目的だ?ここまでするなんて。」
「目的か・・・もう俺もここから離脱するし少しは教えてやろう。」
話しながら何か装置を操作し始めた。
「俺の目的はただ一つ。メア様を復活させることだ。」
「そのために開発させたんだ。お前は誇っていいぞ。東城すみれは間違いなく天才だ。想像以上のものを作り上げた。これで、自由自在に喰らうことが可能になった。」
メアって何だ?喰らうというのも意味がわからない。
「『ドリーム・トラベラー』これは、兵器として使うことでより絶大な力を得るだろう。」
「じゃあまたね。今度は悪夢に喰われた世界でまた会おう。」
「まて!」
すると、獏という男は現実からいなくなったように消えていった。
「どこに行った!くそ!」
『ドリーム・トラベラー』一体何なんだ?
静かになった部屋で一人、立ち尽くしていた。