1章 声を求めて③
低い音で鳴り響く鐘の音で目を覚ます。何事かと借りていた部屋から飛び出て、昨夜食事をとった部屋へと着く。
「おはよう。よく寝れたかい。」
そこには、村長の息子とその妻が朝食の準備をしている。
「おはよう、ございます。あの、鐘の音が聞こえたのですが。」
「ああ、この村では、起床の音が鳴らされるんだ。村のみんなが同じ時間に起きることを大切にしていてね。」
なるほど。警報の鐘と勘違いしてしまった。
「そうだ、家の庭にある鶏舎から卵をとってきてくれないか。」
「わかりました。」
そう言い、庭の鶏舎へと向かう。鶏舎には七羽ほどの鶏がいた。
「ごねんね。卵もらうね。」
一人でそんなことを言いながら、卵の回収を済ませ、キッチンへと向い、朝食をとった。食事が終わり、コーヒーを入れてもらいそれを飲みながら言う。
「泊まらせていただいた上に、朝食までご馳走になってしまい、本当にありがとうございます。」
「いいんだよ。旅の人は珍しいからね。次の行き先は決まってるのかい。」
あたたかい言葉にありがたさがさらに募る。
「ええ、次はカナミに行ってみようと思います。」
カナミは西部に比べ発展が遅れている東部の中でも、大きな町の名前だ。
「そうか。俺も昔カナミに出稼ぎに行っていたことがあるんだ。あそこは何でもあるから、楽しんできな。」
村長の息子は、カナミで働いていたのか。若い頃に大きな町で就業するのは少なくない。この村の人も何人かはカナミに出稼ぎに行ったこともあるだろう。
コーヒーを飲み終え、出発の準備を整える。すると、昨日とはうって変わって黙り込んでいた村長の孫のニックが言う。
「また、来てくれる?」別れが寂しかったのだろう。
「ええ。もちろん。旅が終わり、目的を果たしたらきっと会いに来ます。」
その言葉でニックの心は寂しさより、次に会う楽しみへと変わったようだった。強い子だ。
そうして、お世話になった村長の家を出る時が来た。家族総出で玄関まで見送りに来てくれた。別れの挨拶を済まし出発した。
ごめんなさい。私は心の中でニックに謝る。寂しがる彼を励ますためとはいえ、私は噓をついていた。きっと貴方とはもう会うことはできないでしょう。この旅が終われば、きっと私はこの大地にはいない。別れの寂しさを振り払うように、カナミの地へと歩きだす。