鼻にネギ突っ込んだ風邪気味獣王が「多分、運命の番」と言って王子を連れ去って行った
「公爵令嬢、いつもの!」
卒業パーティの日、王子がいつものを突きつけた。
「王子特戦隊サイショ!とおーっ」
「同じくキッシー!はあーっ」
「獣王!どすこーい」
「そしてピンク!」
取り巻きとヒロインが王子の後ろに立ち、準備完了。
「殿下、理由を!」
「僕がお前に冤罪かけて婚約破棄したら、お前が前世思い出して国ごとざまぁするという未来を予知した!たかが浮気で国滅ぼす女と一緒になれるか!」
「殿下!政略結婚を台無しにする行為は重罪です!それで無くとも浮気は犯罪です!後、国滅ぼしたのは前世の私であって私の意志では無いのですよね?」
「うるさいうるさいうるさい!お前は危険なんだ!デンジャラスライオンなんだ!お前の中にはこの王国を破壊する爆弾が眠ってるんだ!おい、お前らこの女に石を投げろ!本性を暴いてやれ!」
足元の石を投げつけろと命令する王子だったが、誰も従わなかった。
「キッシー!こーゆー時真っ先に動くのがお前だろ!」
「殿下、これ屋内パーティですぜ。投げられるのなんて生卵ぐらいかと」
「卵は駄目だ!最近値上がりしたし、掃除が大変だ!」
王子と取り巻き達は厨房へ行き、石の代わりになりそうなのを探す。
「王子、これなんてどうケモ?」
「よし、それで行こう」
獣王が見つけたカゴに山盛りのレモンが採用された。
「それーっ、ぶつけろーっ」
ポコン ポコン
「グスンクスン、レモンが一個当たる度にレモン一個分のビタミンCが補給されますわ。このままでは、前世を思い出してしまいそうですわ」
王国の危機カウントダウン。このまま国ごとざまぁエンドになってしまうのか?
「ちょーっと待ったーケモ!」
突如バーティ会場に響くケモケモした声。何事かと声の方を見ると、隣国の獣王が居た。
「お、お前は!いや、貴方様はめっちゃ強いと有名な隣国の獣王様!」
「運命の番の匂いに惹かれて来てみれば、随分と酷い卒業パーティをしてるじゃないかケモ」
「ひいっ、運命の番!?」
「そう、ケモには妻となるべき人間の匂いが分かるのでケモ」
自身の鼻を指さしてドヤる獣王。その鼻にはネギが詰められていた。そして、顔も赤かった。
「今日熱が37.5あったけど、番に会いたくて鼻にネギ刺してきちゃったケモ」
「い…今の御時世、それは駄目でひょ!」
「今は中世ナーロッハでケモ。ペストも天然痘も大活躍だけど気にすんなの時代ケモ。つー訳で、お前多分番。婚約破棄したのなら、ケモが貰っていくケモ」
そう言って、獣王は王子を抱きかかえて去っていった。
「大変ですわ!風邪とネギで嗅覚ツーアウトな獣王が勘で殿下を番と判断して連れていってしまいましたわ!」
運命の番なのかが合っていても、間違っていても大問題。王子特戦隊と公爵令嬢は急いで走り出した。行き先はもろちん難関ダンジョンである。
「さあ、貴方達!獣王とその配下に勝つ為の修行をしますわよ!」
「よーし、いっくわよーん!王子特戦隊サイショ!とーう!」
「へへ、強くなって王子を助けてパフェを奢って貰うぜ!」
「…ここで鍛えれば公爵令嬢より強くなれるかも」
それぞれの思いを胸に難関ダンジョンへ飛び込む。このダンジョンの中は時間の流れが特殊で、中で何年修行しても年は取らず、外の世界の時間も殆ど進まないアレコレとソレの部屋仕様だった。
そして、四人が修行を終えて地上へ戻ると、十月と十日が経過していた!
「ちょっと長く居すぎましたわ!」
「王子が獣王の子供出産していてもおかしくないぐらい修行しちまったぜ!」
「強くなれたのは違いねえが、こりゃ急がねえとな!」
「見て、あそこに獣王と王子の結婚式の告知が貼られてる」
ピンクが見つけたビラには、今日正式に王子が獣王の嫁になると書かれてあった。
「こればマズイですわ!けれど、どこに乗り込めばよいかハッキリしてるのは好都合!行きますわよ!」
「「「オーッ!!!」」」
結婚式場に乗り込むと、案の定武装した獣人達に取り囲まれた。
「皆さん、今こそ数万年の修行の成果を見せる時ですわ」
「分かったわよん。まずは俺から行くぜ!お命頂戴!」
サイショは一瞬で全裸になり敵陣へ飛び込むと、周囲に石化魔法を乱発した。彼が難関ダンジョンで得た職業は剣聖。読者の皆さんご存知の、敵の攻撃を一手に引き受け回避しながらバステをばら撒く職業だ。
「くそっ、足が石になって動けん!」
「この全裸、こちらの攻撃を避けまくるぞ!一体何者なんだ!」
「俺は見ての通り剣聖よ!」
「「我々の知ってる剣聖と違う!!」」
この世界では、剣聖は剣を使い戦うアタッカーとされているが、公爵令嬢の前世記憶ではサイショの戦い方が一番強い剣聖のムーブらしい。知らんけど。
「ヒューッ、やるじゃねえかサイショ。こりゃ、俺も良い所さんを見せねえとな。オラっ、レベルが2の倍数の奴ら全員燃えろ!」
キッシーが叫ぶと同時に、獣人兵士の半分近くとピンクの肉体が豪炎に包まれた。彼が得た職業は賢者。あらゆる属性の最上級魔法の使い手であり、更に公爵令嬢の助言により、魔法の発動対象に制約を付ける事で詠唱を破棄して最上級魔法が放てる様になっていた。
「うう、何ぇアタシまで燃やされるのよ。許さない…ころしてやるぅ…殺してやるわよ獣王配下」
キッシーの立てた条件に引っかかり黒焦げになったピンクが呪いの言葉を吐くと、無事だった奇数レベルの獣人兵士達が炎に包まれた。
「あぢゃー!」
「何でー!」
「意味分かんねー!」
ピンクが得た職業はじゅじゅちゅし。受けたダメージを敵へと放つ扱いづらい職業だが、実は味方からの攻撃でダメージを受けた場合でも普通に発動するし、任意の敵を対象に出来る。当然これも公爵令嬢の前世知識のおかげである。
サイショが回避盾となりながらバステ攻撃をし、キッシーが雑に敵を焼き払い、余りをピンクが仕留める。三人の連携により、新郎新婦への道は開かれた。
「特戦隊の皆様、ご苦労様でしたわ。残すは獣王のみ。ここからは私が戦います」
公爵令嬢はバージンロードをひた走り、獣王と王子の目の前に立つ。
「殿下、助けに参りましたわ。どうにか間に合った様ですわね」
「間に合ってないっ!」
王子はドレスの上からでも分かるぐらいにボテ腹だった。どう見ても出産間近である。
「この式が終わったら、そのまま産婦人科直行だよ!というか、何で僕妊娠してるの?」
「『王子がアホ過ぎて、性別を誤認していたテンプレ』ですわ」
「あのテンプレ、僕自身にも適用されるの!?」
王子は女だった。国王からは以前から散々説明されていたが、すっかりそれを忘れてしまい、王子として振る舞っていたのだった。
「と、言う訳で私は婚約者である王子が王子をしたいが為に無理矢理令嬢をやらされていたのですわ」
「そんな設定、僕は聞いてないぞ!」
「今生えましたわ」
つまり、王子が姫で公爵令嬢が公爵令息だったから、獣王の番センサーはちゃんと仕事していたのだ。良かったね。
「さあ、獣王!私の婚約者を返して貰いますわ!」
公爵令嬢はドレスを脱ぎ捨て、龍の入れ墨の入った背中を見せつける。
「勝った方が、王子の番ケモね!」
獣王も毛皮を脱ぎ捨て、虎の入れ墨が入った背中を見せつける。
【獣王】
ドドン!
「さあ、死にてー奴だけかかってこいケモ!」
「あの獣王様、私実は前から貴方に言いたい事がありましたの」
「これから殴り合うって時に何だケモ」
「ネコにネギって猛毒ですわよ?」
バターン!
獣王は鼻に刺したネギの中毒で死んだ。かれこれ一年近く刺しっぱで平気だったのに、何故今になって即死したのか?それは、公爵令嬢が悪役令嬢だからである。
悪役令嬢という職業は、言葉一つで常識を自在に塗り替える力を持っ。かつては何の問題も無かった卒業パーティの婚約破棄が非常識と呼ばれる様になったのも、悪役令嬢の能力によるものである。恐るべし、悪役令嬢!
こうして、獣王と側近達の死により獣人王国は崩壊し、誘拐された王子も救出された。
「う、生まれるー!」
救出の翌日、王子は四つ子を出産。四つ子はそれぞれ、公爵令嬢・獣王・サイショ・キッシーにソックリだった。
「アタシだけ仲間外れですか、そーですか」
そう言って、ピンクは自発的に修道院に入った。彼女も王子の性別を知らなかったらしい。
ピンクが居なくなったのを知った王子は悲しんだが、暫くするとある事を思い出した。
「あ」
王子が思い出したのは、この物語の冒頭で彼が言った事だった。
ホワンホワンホワーン
『僕がお前に冤罪かけて婚約破棄したら、お前が前世思い出して国ごとざまぁするという未来を予知した!たかが浮気で国滅ぼす女と一緒になれるか!』
ホワンホワンホワーン
「あの予知は当たっていたけど、読み違えていたんだ。滅んだ王国は、僕の国じゃ無くて獣人の王国だったんだ」
真実に気付いた王子は公爵令嬢に謝罪。公爵令嬢は笑いながら王子をベッドに押し倒して、サイショとキッシーと共に一年分の性欲を発散したそうな。
めでたしめでたし