転生女神さまの悩み事
ジャンルで非常に悩みました。
異世界転生。
最近は人間界でも有名になりましたよね。
私、その異世界転生を司る女神です。固有の名前は特にありません。
異世界転生を司る、なんて言ったので分かるかもしれませんが他にも神はいます。
でも皆“転生の”とか“運命の”とか“戦争の”とか、司るもので呼び合うので名前が必要無いんですよね。
一部の人間界と関わりの深い神達は人間に付けられた名前を名乗ったりしますが、私と出会う人間ってすでに死んでて自我が希薄だったり混乱してたり無気力だったり、逆に興奮してたりで私の呼び方なんて気にしてくれないんですよね。転生時に他の神に合うこともないですし。
さて、私の自己紹介?はこの辺にして。今私はとても悩んでいます。
事の始まりは“戦争の”がミスを犯した事からです。
とある軍事国家が打ち上げたミサイルが故障し、予定軌道を外れとある国の浜辺に落下。その場にいた一人の少女が犠牲になりました。
ここまでは別に問題は無いんです。厄介なのは犠牲になった少女。“運命の”が500年に一度くらいの真剣さで丁寧に丁寧に調整した、やがて国のトップ、いえ世界の頂点にも立てたであろう少女。
もちろん簡単にそんな才能を付与出来ないので幼少期はそれはそれはもう悲惨なことに……
産まれてすぐに棄てられ、孤児院に預けられるも虐待の毎日。まともな食事は三日に一度食べられれば良い方、寝床も敷地内とはいえ外で毛布も無し。他にも色々な不幸があり余るほどありましたが、引き取り先が決まり、ようやく溜め込んだ幸運が発揮されるという直前にミサイルの直撃を受けるという大不幸です。しかも即死ではなく痛みは長くじわじわと……これはひどい。
そんなわけで元から溜め込んでいた幸運+“戦争の”からの謝罪としての補填、さらに“運命の”からの追加の幸運という、やりたい放題出来る程のリソースを得た少女の転生先を私が決めなければならないのですが……肝心の少女はそれはもう無気力も無気力、膝を抱えて何を聞いてもなんでもいい、どうでもいいと全てお任せされてしまいました。どうしましょう……
ちなみに彼女、身体は無いですが魂が無意識に生前の形をとるので膝を抱えられます。
さて、気を取り直してまずは転生先の候補から決めましょうか。選べるのは大まかに4つ。人間界でもよくある定番の中世ヨーロッパ系ですね。剣と魔法の、ともよく言われているようです。
次に現代系ですね。俗に言うパラレルワールド。妖怪だったり魔物だったり魔法少女だったり超能力者だったりゾンビだったり、元の世界とは少し違う世界への転生。
3つ目は未来系。荒廃した地球だったり宇宙をまたにかけるスペースファンタジーだったりロボット物、あるいはアンドロイド転生等もありますね。コールドスリープは私の管轄外です。あれ死んでないので転生ではありませんし。
最後はそもそも理からして違う世界です。人外系とまとめてしまいますけどほんとうにいろんな世界があって分類も大変なんですよ。スライムだけで構成された世界とか足場が無くひたすら落ち続ける世界とか。まっとうな精神の人は絶対選んではいけないタイプの選択肢ですね。ほぼほぼ懲罰用です。
さて、この4つの候補から選ぶわけですが。4つ目は無いですね。悲惨な生前を過ごしてきたのにさらに辛い目に合わせる必要なんてありません。今度こそ幸せにおなり……
では残り3つ。未来系も外して良いでしょう。女の子ですし。男の子なら結構適応して無双したりしますがこの子に適性無さそうですし。
となると現代系か中世ヨーロッパ系。悩みますね。現代系の方が基本的には安全ですが幸福度は上げにくいんですよねぇ……身分制度採用してる国は大抵途上国ですし下手に超常の力を持たせると国家規模の案件になったりしますし。大抵そうなるとろくでもない結末になりますからね。隠し通すのも大変です。
そうなると中世ヨーロッパ系で決定ですかね。そこそこ大国で身分を王女……だと縛りが強くなりそうなので公爵……いえ、伯爵令嬢くらいにしましょうか。それも次女。身分はそれなりに高いけどそこそこ自由に恋愛出来そうな感じしません?
もちろん家族に関しては厳選します。ちゃんと教育はするけど愛情もたっぷり注いでくれる家族でないと駄目ですからね。兄弟姉妹も当然猫っ可愛がりしてくれるようでないと。
まずは行き先がだいたい決まりましたね。順調です。
場所と時代の調整は後でやるとして、次は能力値とスキル、所謂チートの設定ですね。“戦争の”と“運命の”から得たリソースは莫大です。
とりあえず幸運値はカンストさせましょう。これならミサイルも自分から避けてくれるはず。
身体能力については……全体的に高くしましょう。極振りは浪漫らしいですけど実際に暮らすのは彼女ですからね。不便無く過ごせるようバランスよく。どうせリソース有り余って伸び代凄いことになってますし必要になってから伸ばしても間に合うでしょう。
スキルは……必須な語学理解系と鑑定系はカンストさせておいて、回復魔法とそうですね……体術をカンストしておきましょう。定番の光魔法とか剣技とか上げておくと聖女とか勇者ルートになる可能性がありますからね……こっちも余りリソースでスキル獲得も楽々ですし困ってからでも大丈夫。
え?体術ならいいのかって?貴族令嬢なら護身術として習っていてもおかしくはないでしょう。多分。
まだまだリソース余ってますね。さてどうするか……そうだ、護衛付けましょう。なのでスキルに召喚術師を追加してっと。
何が良いですかね。定番は最強クラスのフェンリルやドラゴン、可愛さ狙いでカーバンクルやフェアリーといった所ですが……聞いてみますか。膝を抱えている彼女の横に座り込んで質問。
……猫派でしたかー。猫……猫系で有名所……化け猫?妖怪は世界観がおかしいですね。猫娘……長靴を履いた猫……ただの獣人ですね?
んー悩ましい。いっそ新しく用意しますか。聞き取り調査しつつ作りましょう。
大きさは?大きい方がいいと。地球の猫でも幼児より大きいのとかいますし、いっそ乗れるくらい大きいので……屋内での護衛には向きませんね。ああ。可変型にすれば良いですね。移動時や護衛時は乗れるくらい大きく、普段は子猫サイズで愛らしく。良いですね良いですね。
色はどうします?長毛?短毛?尻尾の長さは?ふむふむ。
意外と拘りありますねこの子。ふっさふっさの長毛の白猫が完成。鼻は高めにしました。鼻ぺちゃだと悪役が膝にのせてそうな感じになりそうでしたので……悪役令嬢ルート駄目絶対。
性格設定は従順、ご主人様至上主義あたりで良いですかね……ふむん、猫らしさが足りない気もしますね……悪戯好きも追加してっと。
あとは主の個人情報や現地の常識とかも入れておいてサポートも万全に。スキルと身体能力もフェンリルやドラゴンと渡り合えるくらいには上げときましょう。ついでに転移系のスキルも入れておけば分断されても大丈夫……なはず……多分……
んー阻害対策に転移スキルは上限突破させましょう。文字通り神級のスキルなら現地の妨害阻害全部ぶち抜きますからね。安心安心。
ん?何か足に違和感が……?
あら。護衛猫の設計で意識を飛ばしている間に彼女寝てしまいましたね?生物としての身体は今は無くても魂が覚えていますからね。精神疲労で寝てしまったんでしょう。
偶然でしょうが私が膝枕してあげてる形ですね。ついでに頭撫でて子守唄も歌ってあげましょう。
少女ー良い子だねんねしよー。
起きた彼女にこちらが申し訳なくなるくらい謝られました。別に怒ってないしむしろ可愛かったのに。
“戦争の”に同じ事をされたら寝てる間にスライム世界に投げ棄てますが。
ようやく落ち着いてくれたので作業の続きでも……彼女ずいぶん落ち着いてきましたね?
何もないのも暇でしょうしお菓子とお茶くらいは用意しましょう。
ついでにテーブルとソファーも用意してと。まあ、別にお腹空いたりお尻が痛くなったりする身体がそもそも無いので気分的な物ですね。
……お菓子を食べては顔をキラキラ笑顔にして、お茶を飲んではまったり笑顔になって。ソファーに座ったらすぐに丸まって寝てしまいました。
見てて癒されますね。ペットを飼うとこんな感じなのでしょうか?それともこれが母性本能……?
女神とはいえ神に母性本能ってあるんですかね?まあいいか。
さて続き続き。能力値もスキルも護衛も決まりましたがまだまだリソース有り余ってますね。“運命の”はいったいどれだけのリソースを彼女に注ぎ込んだのか……
“戦争の”も彼女の境遇を聞いて、かなり凹んでましたから無理してとんでもないリソース割り振ってそうですねこれ。奴もなんだかんだ弱いものには優しいんですよね。戦争司ってる癖に。
しかしこの有り余るリソースどうしましょう?成長の余地に残すのは多すぎます。というか成長にだけ使うならステータス全カンストした上で現存スキル全部獲得してもまだ余るんですよ。やりすぎです2柱共。
んー……神託スキル付けましょう。これは後から選べませんしそこそこリソース食いますからね。カンストさせておけば私とも気軽にお話できますし。アフターケアも万全ですね。私有能。
あとはお菓子美味しそうに食べてましたしお菓子創造スキルも良いですね。ってコスト高っ。創造系はかなりコスト高いんでしたね……まあ問題無いです。むしろ無駄になりそうなリソース使いたいわけですから。
あ、また起きましたね彼女。寝惚けてそうですが。魂で構成されてるのに寝惚けるってなんでしょうね?生前の環境では寝惚ける余裕なんで無かったでしょうし。
様子を見てるとふらふらと寄ってきて抱きつかれました。そのままにっこり笑顔で二度寝。まあ可愛い。
いっそこのまま娘にしてしまいましょうか?流石に許されませんけどね。私転生の女神ですからちゃんと生まれ変わらせてあげないと力を没収されてしまいますし。私もこの子も。
可愛いこの子の安全のためにも何か切り札が欲しいですね。いえ、護衛の猫でも充分な気もするのですが……折角ですし新スキルとして従魔合身を作りましょう。
従魔、この場合護衛猫ですね。それを一時的に取り込む事で能力3倍化です。2倍ではないのがポイント。
超強化ですがその代わり従魔の特徴が出ます。護衛猫の場合白髪化して猫耳が生える。きっと可愛い。
猫耳生えるスキルも付けましたし猫耳の似合う外見設定を……する前に家族の選定が先ですね?髪色とか合わせないと余計な軋轢生まれそうですし。
条件は戦争が暫く起きてなくて少なくとも彼女が生きている間は平和な世界は大前提ですね。
その中で伯爵で家族仲が良くすでに長女がいて人格的にも問題無く政敵も少ない裕福な家庭……ヒットしたのは3件だけですか。まあ選べるだけ良いでしょう。
3件からさらに吟味して……あ、これは遠縁によくないのがいますね。候補から外して……うーん、幼なじみが男の子の方か女の子の方か……女の子の方にしましょう。男の子だと許嫁にされてしまいそうですし。
この子には幸せな恋愛結婚をしてもらわないと。いえ、幸せなら結婚しなくても良いのですけれども。
さてお楽しみの外見設定ですね。身体のベースは前世の設定を使って現地に合わせて微調整するとして、髪は……親の遺伝資質的にピンク、金髪、青、銀ですか。銀だと白髪化があまり映えませんね。金髪も周囲の比率が高いですから微妙ですねぇ。つまりピンクか青。
……青にしましょう。実は私の髪が薄い青なんですよね。お揃いお揃い。
瞳の色も合わせて青にしましょう。ついでにリソース突っ込んで呪いでも魔力でも見ようと思えばなんでも視られる神眼にしてしまいます。
……神眼入れたらちょっと変質してしまいましたね。まあラメでも入っているかのように輝いて綺麗ですし問題無いでしょう。
成長後の体型に関してはベースよりお胸を少し大きめにしましょう。清楚に見える上限一杯にまで。大きすぎて下品になるのはいけません。腰のくびれも不健康に見えない程度に……コルセットとかある世界でしたね。もう少しだけ引き絞った方が良いかもしれません。お尻とのバランスも考えて……よし。
なんとか華奢の範囲内ですね。お胸が他よりちょっと自己主張してますが許容範囲でしょう。
ダイエットに悩まないように体型維持の加護もつけちゃいます。
ほら、貴女は転生後にこんな姿に成長するんですよー?美人さんでしょう?
スタイルよりも私とお揃いの髪色に喜ばれてしまいました。嬉しいやら頑張って調整した身体に興味もたれなくて悲しいやら……9対1くらいですね。つまり嬉しい。抱き締めてあげましょう。
うーむ、なんでか懐かれましたね。さっきからずっとくっついたまま。
これはあれですね。悲惨な生前のせいで優しさに飢えてた所にお菓子を用意したり頭撫でたり抱き締めたりしたから好感度上がりまくった感じですかね。
可愛いんですけどそろそろ新しい世界へ転生させないといけないんですよねぇ……これはちゃんと転生出来るんでしょうか……説得大変そうな……
説得……無理でした。滅茶苦茶泣かれました。ママ呼びは卑怯です。転生させないで娘にしたい。でも出来ないんですよね……説得続行。
神託スキルでお話出来るというのはかなり説得に使えました。護衛猫も予定より早く実装してこの子の説得に当たらせました。結果、かなり不満げに、不承不承といった感じながら、しょうがないので、他に手がないし、っといった感じで一応うなずいてくれました。
かかった時間は気にしてはいけません。単位が時間ではなく日数だった気もしますが気にしてはいけません。
さあ、仕上げです
魂を新たな身体へと送り出す。それで私の役目は終了。神託スキルがあるとはいえ、抱き締めてあげられるのはこれが最後。ぎゅっと抱き締めてあげます。
また会えるか……ですか……きっと良い子にして、幸せに人生を全うすればまた会えるかもしれませんね。
たとえ、もう一度記憶をもったまま転生するのが困難だとしても、この子を不安がらせる必要はまったくないので教える必要はありません。
転生先では誰からも愛されるでしょうし、いつしか私のことも忘れていくのでしょう。
ですから。私はただ、貴女の未来に目一杯の祝福を。
いってらっしゃい。私の可愛い娘。貴女の進む道に溢れんばかりの幸せが訪れることを。
暇です。
あの子を送り出してから数件転生者を送り出しましたがそもそも転生案件って少ないんですよね。だいたい同類の失敗の尻拭いですし。
あの子への神託も最初のうちは小まめにしてましたが、あまりすると家族関係の構築の邪魔になりそうなので最近は控え目にしています。
まあ、頻度が減ったあたりからちょくちょく逆神託がきますが。
いえ、逆神託とか凄い器用な事してますねあの子。神託スキルって基本神から一方的に連絡するスキルなはずなんですが。
今は新たな転生者もいませんし、娘からの連絡もつい最近きたばかり。なので暇です。
あら?“運命の”。良いところにきましたね。暇ですので話に付き合いなさ……ん?なんです?私が何かやらかしたですって?いえ、私は貴方達と違って思慮深いですからミスなどそうそう……
え?転生者に異常な者がいる?神獣を従えて、部分的とはいえ神の身体と神力をもった少女?それはまた、死後は神々の仲間入り確定じゃないですか。とんでもないのが現れましたね。
私のせい?いえいえ、神獣も神の身体も心当たりありませんけれど?
ふむ、神獣は白猫。転生者は神眼を持ち、限定的とはいえ創造の能力を持つ……
あれ?なんだか身に覚えがある気がしますね?神獣ってあれですよね?転移スキルが上限突破してる……神眼って青く輝く感じですね?創造スキルってお菓子限定なやつだったりします?
oh……つまりあれですか。私が良かれと思って追加していったスキルやなんかが巧く噛み合っちゃって新たな神候補が生まれたと。
ええ。全部心当たりがありました。これ罰則逃れられないパターンですね。わかります。それで私への罰は何かきいてます?
え?対象の死後、新たな神となった際の教育係?それって、え?
ええ……罰則じゃないですよねそれ。というか見られてたんですか?見てたんですね?何故止めなかった“裁定の”……
ん?何ですか“運命の”。“裁定の”からの手紙?
『非常に尊い良いものが見れた。これは礼だと思ってかまわない。
追伸
義親子の百合はありだと思う』
“裁定の”?貴方そんな、俗世に穢れたような存在だったのですか?というか百合って……そんな関係じゃないですからね私達。
とりあえず今度あったら殴りながら弁明しましょう。私達は親子です。百合ではありません。最近逆神託で妙な熱意が籠ってる気がしますがきっと気のせいです。
その後。神託にて神族入りを知った我が娘が躊躇いなく人生終わらせて帰ってこようとするのを必死に止め、説得の結果何故か聖女になったり勇者になったり挙げ句の果てには多種族をまとめて大国を立ち上げた英雄女王になったりした娘が神界にドヤ顔で帰還するのはまだまだ先のお話。
どうしてこうなった……
~fin~
楽しんで頂けたなら幸いです。