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第二章 パークプレイズの宿屋にて

 5日後。

 美咲は王都手前の街。パークプレイズに到着していた。

 出立の日に執事達から散々ジェロームを待つように頼まれたが彼が本当の事を言うかは分からないので決めた日にち通りに城を出る。

 ジェロームには婚約者が居て当たり前の年齢だし、チャペス伯爵家の親族に美咲は今まで会わせてもらったこともない。使用人は当主の命令が絶対だ。美咲は辺境伯夫人としての家督采配権を持っていなかった。当然ながら延命治療に尽力した美咲のことは当主も使用人も追い出すに追い出せなかったのは想像出来る。


 それにデイビッドの力が及ばなくなったペニシールの城は100%の護りでは無くなったと冷静に判断した。


 キャシーとメンディが聖女である美咲の陰口を言ったと言う事実はどの様な形であろうと消えないのだ。だから友好的とは言えないエスメラルダは攻撃材料を得たとばかりにチャペス辺境伯の城を先触れ無しに訪問して来て追い出しにかかったのだろう。当主不在の折に城を守れない(?)自分が居ても居なくても変わらない。

 そう告げると執事は苦悶の表情を浮かべる。


 エストはペニシールに留まっていては自分も情報が掴めないと言い、王都に行くこと自体は賛成してくれた。しかし何度も『ジェローム様のお気持ちを確かめなくても宜しいのですか?』と聞いてきた。

『???ジェローム様には半年もご迷惑をお掛けしたからお手紙は後でお出しするつもりだけど、まぁ、彼は私が遺産目当ての女だと最初は思っていた過去もあるし多分大丈夫じゃない?』と言えば眉を八の字にし『私の言葉では伝わらないですね』と残念そうに嘆いた。


 パークプレイズを指定してきたのはマリアだ。

 美咲は教えられた高級宿屋へ行くとすぐに部屋へと案内された。


「ミサキ!!元気だった?!」

 ドアを開けるとマリアが飛びついてくる。

 貴族のお嬢様にしては本当に感情に素直なマリアだ。だが、葬儀のときから半年ぶりの再会に二人は心から微笑み合った。


「本当にデイビッドが病気の時は沢山の無理を聞いてくれてありがとう。どの品物も作ってもらえてとても助かったのよ?今日はヘンダーソン公爵は?」

「ウィルは子供と今回は留守番よ。どっちにしても公爵がウロウロしてしまうと色々目立つから。それと魔術師団長がもうすぐしたら転移してくるわ。

 それよりエスメラルダ・ロドリゲスに酷いことを言われたのではないの?」

 マリアの瞳には心配の色が濃く浮かびそれは美咲の心を温かくしてくれる。


 美咲はあの日エスメラルダの訪問後、全てを書き出していたのでそれをマリアに見せる。

「私、デイビッドの元に嫁いだと思っていたけれど違ったのかしら?エスメラルダ様から社交界にそんな話は出ていないと言われたの。教会で取り交わした誓約書は偽物?私は王都ではどんなふうに言われているのかしら?」

「貴女は間違いなくチャペス辺境伯夫人だったわ。それは間違いないの。ただ、美咲は貴族達に後ろ盾を軽んじられていたからデイビッド様は存在そのものを綺麗に隠されていたわ。社交界に普通なら顔を出すはずが1年間閉じ込めてられたし。その後は今度はデイビッド様がご病気になられてしまったでしょう?ペニシールは元々軍事色が強くてベールに包まれた土地なの。

 だから、他の貴族と交流も少ないわ。ミサキの髪の長さが罪人のそれだったから安全を守るには最適だった。だけどそれを逆手にとった派閥があったの。不愉快極まりないのだけど〈聖女は存在してないんじゃないか〉って噂を流した。 


 3年前の前宰相の粛清で反王家は殆ど潰れたけどグレーゾーンのロドリゲス伯爵がその噂を流した筆頭よ。今は貴女の悪評で王家の評価を下げようとしているの。エスメラルダの行動はよく分からないんだけどミサキを守るのにペニシールは今や安全じゃないのは確かね。」


「ジェローム様の婚約話は本当?私は何の相談もされなかったからちょっとショックだった。ジェローム様とはある程度親しくなったと思ってたから。」

「え?!それってジェローム様のことが好きってこと?!」

 何それ!?と今度は美咲が素っ頓狂な悲鳴をあげる。

「違うわよ!!信頼関係の問題よ。第一彼は私が聖女だと知った後もそんなに態度を変える事ない人よ。好きあってたらもう少しピンクな雰囲気になっても良さそうだと思うけど・・・ないな。

 うん、無い。」

 美咲は何度も思い返してみたが二人の仲に恋愛の空気は流れた記憶は無い。

 もしかしたら自分が落ち込んでいる時に記憶が曖昧だから何かあったりしたかな?と考えてもみたがやはり無い。

 寧ろコーディの方が美咲を励まそうと、綺麗な花や珍しいお菓子をお土産を買ってきてくれたり、お茶をしに街で人気のカフェに誘ってくれたりしたくらいだ。

 男色と知らなかったら誤解しそうなくらい距離が近いこともあった。

 感覚としては〈女友達〉と言ったところだろうが。

 あまりに美咲がキッパリ話すのでマリアは気圧されたように頷く。

「そ、そうなの?それなら良いんだけど。婚約の話はどうもチャペスの遠縁が勧めているらしいわ。ジェローム様がキッパリ断っていればこの話は断ち消えていると思うから、ここはハッキリとは判ってないわ。出来ればジェローム様に直接話を伺いましょう。

 そしてここからが本題なんだけど、ミサキ、社交界に出ましょう。」

 はぁ?


 美咲は首をコテンと傾ける。


〈社交界に出る?〉


 王都の一平民として心機一転頑張ろうと故郷ペニシール?を後にした美咲としては斜め上の提案をされたようなものだ。


「急で申し訳ないのだけど、この王家の情勢も色々変化があったの。これからの話は其方の魔術師団長に聞いて頂戴。」


 え?と振り向けばそこには長身痩躯の魔術師団長が静かに立っていた。デイビッドより一回り年下とは言え父親に近い年齢のターナー魔術師団長は物静かで美咲の第二の父と言っても過言ではない。


「聖女様。少しお元気になられたようですね。葬儀には行けず申し訳ございませんでした。」深々と頭を下げる魔術師団長に慌てて美咲は立ち上がる。


「こちらこそ立派なお花を贈っていただきましたのにお手紙一つでお礼がお座なりになってすみません。ところでどうして師団長がこちらに?」


「勿論ミサキ様をお守りする為でございます。ロドリゲス伯爵に襲撃を掛けられたと聞きましたよ?」

「大袈裟な!ただの御令嬢の訪問です。あ、突撃訪問の間違いですね。

 ですがお陰で自分がチャペス辺境伯のお邪魔になっていると気が付いたと言いますか、これを機会に自立しなきゃと思い立ったと言いますか…」

「ロドリゲス伯爵に何か言われましたか?」

 そう言われると伯爵に言われたわけではないがと、美咲は手元に残したメモを見ながら罵られた内容を魔術師団長に事細かに話し出す。

 事細かに話す時点で、其れなりにムカついたと言っているのと同義だがそこは敢えて誰も突っ込みは入れない。


「私の立場はどうなってるんですか?そして社交界に出なさいというのはどなたのご意見でしょう?」

 魔術師団長はフムフムと頷いたあと自分の見解ですがと述べ始めた。

「ロドリゲス伯爵は今宰相の地位を狙っている近年力をつけた貴族です。エスメラルダ嬢は多分父親にチャペス辺境伯と結婚をする様に申しつけられているのです。

 王家は4年でかなり力を取り戻しましたが今権力闘争では『王の左』と呼ばれる地位が覇権を左右すると言われています。所謂軍事の事です。チャペス辺境伯達の軍は北の護りとして国軍とはまた違う軍事の要でした。

 ロドリゲス伯爵家はチャペス辺境伯を絡め取ることで国での地位を上げようと企んでいるのです。

 現在の宰相トーマス・グリフィン様は討伐隊でも活躍されて国軍でも信頼が厚い。それに対抗するために何としてでもチャペス家を手中に収めたいところでしょうな。

 王家は彼の財力に現在圧されています。ロドリゲス伯爵は兎に角手段を選ばない商売がお得意ですから。

 統治には後一息第二王子が努力せねばならないといったところでしょう。彼は国民からの人気が少し…少し問題なのです。第一王子と比べると…ちょっと…腰が低くなりきれない。

 因みに第二王子と再婚という選択肢もありますが如何でしょうか?」

 美咲はウンウンと頷きながら話を聞いていたが突然自分の苦手な人間の話をされてウッと詰まる。


「ターナー魔術師団長様。私の様な身元の不確かなポッと出の女がキラキラしい王子のお相手なんて務まりません。

 何よりま、マー??まー?えっと、第二王子様が嫌がられますよ。却下で。」

「マーティン殿下です。お名前も覚えて頂けないとは…」ターナー魔術師団長は残念そうに『人気を得る為には手っ取り早いのですが仕方ないですね…』と呟いた。


 目下の作戦としては先ずは聖女の存在を国に知らしめることだ。討伐は国王たちの采配によって成功したと国民が認識しておかなければ支持率が下がってしまう。


 ロドリゲス伯爵は討伐そのものは王家主導では無くチャペス辺境伯の活躍で成り立ったのだと4年前の状況を塗り替えたいらしい。


 あの当時の立役者たちを貶めて自分の手の者達が活躍していたと物語を変え、国民の支持を一気にロドリゲス一派に傾ける手段を取るのではないかと予想される。


 聖女が表舞台に立てていないことを良いことに好き勝手に話を変えて王家の人気を削ぐつもりだという。


「私が表に出れば解決でしょうか?」

 美咲は自分の役割が見えてきた。

 聖女と王家の関係性を貴族に知らしめ国民からの人気を取り戻すことがミッションなのだ。


「聡いですね。貴女の人気は国全土からの支持を意味します。聖女様がどちらの派閥に属するかで王の統治が決まるでしょう。」


「お願い。グリフィン家を助けて。父が今宰相の地位を譲ってしまったらきっと国民に苦しい政権に変わってしまうわ。美咲が頼りよ。」

 マリアは意志の強い眼差しを美咲にぶつけるが美咲はニッコリ笑うとマリアの手をとる。


「勿論私に出来ることはするから何でも言って?デイビッドの為に色々して貰った恩を返せると思えば安いものよ。それに私に友好的ではない方に実権を握られるなんてそれこそ自分の命が脅かされそう。踏ん張りどころだわ、頑張りましょう!デイビッドは何も教えてくれなかったから貴族のあれこれは今から詰め込みで覚えるしか無いけどね。本当は四年前にするはずだった『異世界に来たからには〇〇無双』を社交界で実行するわ!」


 勢いよく喋った後少し恥ずかしそうに笑う聖女は清楚で眩しい限りだ。

 守られてばかりだった15歳から4年経ったと感じさせる強さがそこにはある。

 本当は落ち着いた王政の中、今度こそこの少女を優しく真綿に包むように保護してあげたかった。

 それが当時を知っている者たちの総意だ。

 しかしこの国は未だ聖女に安らぎを齎すことができないでいることが心苦しい。

 日焼けした身形の整った少年が現れた日をターナーは覚えている。

 あの当時、柔らかく見たこともない丈夫な布の漆黒のジャケットと揃いのパンツ姿からは想像もしなかった美しい肢体が現れたと侍女たちは語っていた。

 この国よりも安全で、豊かな国から現れたと分かる、傷のない体に未発達の少女の美貌が見え隠れした。

 髪こそ短かったがそれは決して罪人であるという訳では無く、彼の国では女性にも自由が許されているという象徴。


 聡い一部の人間は其れをよく理解していたが、今政権を揺るがそうとしている貴族たちはそれを卑しいものとして差別している人間たちだ。この戦いは負けられない。


 それにしても美咲は美しくなった。

 肌は陶器の様に肌理が整っており意志の強そうな瞳とバランスの良い顔立ち。

 短い髪の時は分からなかったが黒髪は艶やかで真っ直ぐに伸びている。

 卵型の輪郭は可愛らしく少し幼い表情がこの国には見られないエキゾチックな美を演出していた。


 何も学ばなかったと言ったが言葉遣い一つとっても辺境伯の地で体も精神も大人に成っている…辺境伯は矢張り聖女を慈しみ囲い込んでいた。

 ターナー魔術師団長はそう確信したのであった。


 >>>>>>>>>>>>>>



 王家主催の夜会にサプライズ登場する。

 王家と王党派の決めた夜会は割と直近で美咲は正直顔が引き攣りそうになった。

 〈聖女は幻ではない〉と表舞台に立つことで支持を獲得する作戦の決行である。


 美咲はグリフィン侯爵家でその日に向けて特訓に明け暮れていた。

 指南役はマリアとベスの姉妹。

 ダンス、マナー、言葉遣い、貴族の常識と学ばなければならないことが山積みなのだ。マリアも効率よくその日をこなす為にかなり絞り込んではいるがそれでも最低量は膨大である。

 だが作戦に失敗が許されない分指導に熱が入るのは当たり前の事で…

〈安請け合いするものじゃ無いわ。メチャクチャ大変じゃん〉

 美咲はストレスの捌け口を求めて焼き菓子を頬張りながら誰に愚痴ることも叶わずやけ食いをしていた。


 今や毎日のスケジュールは分刻み。

 腹の立つことにダンスの教師はエスコート役に第二王子マーティン殿下を指定してきた。


『フ…少しは見られるようになったじゃないか。山猿から飼われた猿程度には毛並みが整ったようだな。』

 グリフィン邸で再会したマーティン(第二王子)は相変わらず尊大な男であった。


『私も安心いたしました。変わらぬ美貌にその性格の歪みっぷり。王子なのに結婚できない理由が手にとるように分かってしまうなんて…聖女として新しい能力が目覚めたかもしれません。』

 出会い頭にゴングが鳴る。あわや地位を超えた掴み合いの乱闘騒ぎであった。


 今回も第一王子がスライディング土下座を披露し事を収めてくれたが誰か王太子として彼が土下座をしなくて済むような環境を作ってあげてほしいと美咲は切に願う。

 お互い4年経ったとは思えないほど非常に子供っぽい一面を晒してしまったが作戦を立てるときは最強の味方となる。


 人当たりの良い王太子と違い第二王子も美咲も自分たちの敵対勢力に対してコテンパンにやっつけるという気概があるのだ。


 ああでも無い、こうでも無いと意見を出し合えば第二王子は人の気持ちをポキリと折るような素晴らしい案を出してくる。

 お互い結婚は無理だと自覚はしているが同志としては最適と言えた。


 美咲は自分の存在を知らしめるのだと今回は前向きであったし、第二王子も討伐隊での役立たずと噂を流されたらしく憤慨していた。


 政権に口出しはさせないと、ロドリゲス伯爵には二度と浮上できないほどのダメージを与えたいと決意を口にする2人は悪巧みには最も長けている・・・と王家を震えさせた。


 それにしても忙しい…想像以上に。


 貴族の令嬢令息の日常はこの様に面倒臭い…いや、形式張っているのかと尊敬の念さえ覚える。貴族とは1人の時間が満足に取れず、その上人の手を借りながら生活するのが常である。

 服装一つから庶民の3倍時間をかけて誰かの手を借りて着用し、食事もマナーを守り挨拶、所作、退室時のタイミングと神経を尖らせて行わなくてはならない。

 ちょっとその辺を散策したいなぁ〜と気紛れに提案すれば、護衛を頼んだり侍女たちに服装を着替えさせてもらったり………

 本当に全てにおいて手間も時間も掛かる。

 体を動かす事が好きな美咲にとってダンスは身につけるのは早かったがその他諸々の貴族の生活は窮屈でならなかった。


 王宮とグリフィン侯爵家の間にはエストとマリアの夫ヘンダーソン公爵が状況把握と連絡役を買ってくれたがこの報告の時間が唯一の息抜きの時間だ。エストとは今までよりも目的がある分親しくなり、雑談も増えた。

 5年近く一緒に居るがエストは無表情で分かりにくいのに非常に博識であると改めて彼女を見直す。

 毎日細やかな時間ではあるがお茶を飲みつつ状況分析をし、2人とロドリゲス伯爵一派の動向を話し合う。

 たまに市井の噂話なども織り交ぜながら。


 意外だったのはジェローム・チャペスから公爵家に到着後すぐに詫び状が届いたことであった。

 非常に長い手紙(13枚の大作)であったが要約すると〈結婚するつもりのない令嬢の縁談を断っただけだった。ミサキに要らぬ心配を掛けたくなくて黙っていただけだ。御免なさい。〉という内容である。


 外から見ればジェロームとデイビッドが自分のことを社交界で成人後に公表してくれなかったりしたからエスメラルダ・ロドリゲスに侮られたのだと考えていた。美咲としては思い返せば納得の行かないことも多かったが何も自分の意思表示が足りなかった結果であると今は思える。

 デイビッドの死は自分が受け止めるまでに随分と時間が必要であったし外部と接触を絶っていたジェロームにも考えがあってのことだろう。

 ウィリアムにそう話すと『うーーーむ。私としては別の見解もあるかと思いますが・・・私の口から言えはしないですし。残念な男ですねぇ。』と苦笑いしていたがミサキにその見解は全く分からない。なので手紙の内容通りと受け取っておく。


 話し上手なウィリアム・ヘンダーソン公爵はマリアの夫にして非常に優秀な大臣の1人である。


 マリアが23歳、ウィリアム様が36歳なので一回り離れた2人ではあるが非常に仲睦まじくウィリアム公爵が夫人を甘やかしているのがよくわかった。お見合いで知り合ったとは言え子供も生まれて順風満帆。

 公爵という肩書きではあるがとても気さくな良い方で美咲もかなり心を許している。

 兵役も経験している事もあり、討伐隊の面々に対し尽力してくれているのだ。ロドリゲス伯爵側が勝利すれば国政は彼らに厳しいものとなると分かっているからこそ公爵は協力し、王家はロドリゲス一派を抑え込むために気を抜かない。


 美咲は勿論15歳の時より成長しているからこそ日の当たる場所があるからには影ができると解っている。

 ウィリアム公爵はその点も既に理解を示す。

「ロドリゲス伯爵は王太子を傀儡の王として掲げるのは間違いないでしょう。

 王家が乗っ取られるのを防ぐ為、マーティン殿下は資金の運用に努力されています。正直ロドリゲス伯爵の金を稼ぐ才能は飛び抜けているんです。

 ですがロドリゲス伯爵に政権を牛耳られると絶対にまずい点があります。

 彼は諸外国の人間を取り込みすぎている。外貨がこれ以上取り入れられると我が王国の貨幣の暴落は避けられません。そこを隣国に突かれて仕舞えば我が国はお終いだ。きっと国土を切り売りして国民が貧富の差に喘ぐことになる。

 ミサキ様が聖女として国を護り続けていると貴族に知らしめれば更に王家の威厳を示すことになり、余計な勢力も削げる。新興貴族が推し進めている貧しい者からも税を搾取する法案は潰せるでしょう。貴女を保護すると言いながら私たちは貴女に守られることにもなる。」

 公爵は穏やかに話してはいるが率直に多くの情報も教えてくれた。



 ウィリアム公爵は元来声を荒げたこともなく、穏やかで賢い人間だ。だから驚いたのだ。


「ミサキ様!マリアが攫われました!!」

 こんな大きな声が出るなんて知らなかった。


 執事にドアを開けてもらうことももどかしそうに玄関に雪崩れ込んだウィリアム公爵は聞いたこともないような大声でそう叫んだ。


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[一言] なんだ〜? ロドリゲス派の仕業か〜? 早く禿げればいいのに。
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