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第一章 2

 辺りがとっぷりと夕闇に包まれた練習終了後。

 ソフトボール部のキャプテンはミサキの足の速さをみんなの前で褒め称えた。

「今日の出塁はミサキのバントと足の稼ぎが良かったからだよ。本当にあの判断は良かった!!

 少し早いけど今日は練習は終わり。県大会も明日が最後だから皆悔いの残らない試合にしよう!」

『『『『おつかれさまっっっっしたーーーーーー』』』


 キャップを脱いでお辞儀をすれば左の友人はニヤリと笑い『やっと終わった!!』と口パクで伝えてきた。


 ミサキも試合後のこの練習がキツすぎて正直フラフラである。試合の後なのにラストでダッシュ50本とか無しだ。とキャプテンの前園を軽く睨むと本人も自覚があるのか苦笑いを零した。


 まあ、忙しいのも明日まで。県大会が終わったら少しはゆっくりさせてもらえるかな〜と汗を拭いながら考えた。



 ミサキは中学3年生。この試合を最後に引退である。

 部活が終われば高校受験に向けていよいよ本格始動。体は使わないが頭を使う日々が待っている。


(前に行っても地獄、後も地獄っちゃこのことだよね。)そうため息交じりに更衣室で皆と喋る。

 ソフトボールの名門鞘ヶ谷高校からスポーツ推薦を貰えそうではあるが美咲としては一生ソフトボールをしていくつもりはまだ無いし、その高校の誘いにおいそれと乗っかるつもりは無かった。


 スポーツ推薦はリスクも高いと中学生にしては理解しているつもりだった。偶々入った部活で成果を上げられたのはキャプテンの前園が頭が良くて、采配上手だからだ。


「あ!定期入れ忘れた!」


 泥のついたユニフォームと仕分けるときに鞄から出した定期入れをロッカーに一時的に放り置いたことを思い出す。


「皆先に行ってて!バス停で追いつくから。」そう言いながら階段を駆け登る。

 しっかりしているようで、いつも詰めが甘いと母が言うが本当にその通りだ。

 折角荷物を整理しながら詰めたのに意味ないなぁ。走り込みながら部室のドアを開けるとそこは見たこともない部屋が広がっていた。



 え???



 ドアはバタンと閉まりミサキは多くの外人たちに囲まれていた。年齢は様々な大柄の男たちがズラリと並び美咲を見つめていた。

 彫りの深い顔立ちの彼等は見上げるほど長身で平均身長は180センチといったところか。

 ミサキは少し小柄な155センチだから、目線は彼等の胸元だ。


 何つけてんの?勲章?何?あのヒラヒラしたブラウス。


 ミサキが真っ先に思ったことは目の前の若い男の胸元に光るキラキラの勲章と思しき物体と、渋谷にも今こんな服売ってないよね?と思えるダサいフリルブラウス姿。


「何だ?この少年は?」

 怒気を孕んだ声が響いた。

 先程の若い金髪が蒼い目を細めながら自分を睨んでいる。


「聖女を呼べと言ったのだ。何だこの薄汚い小僧は?この様な小枝の様な小僧がよもや国を救うなどと言うまいな?」

 金髪の偉そうな青年は初めて会うミサキに対して余りにも冷たい視線を投げていた。


 ナニコレ?






 これが美咲の異世界召喚の始まりであった。


 美咲に高圧的な態度で接したのは第二王子。召喚の責任者だとのちに分かるが、美咲は今でもあのバカ殿下が大嫌いだ。

 あの後美咲は少年ではなく女であるとわからせる為に世にも悔しい身体検査を受け入れざるを得なかった。

 王国の偉そうな人間たちは、平和な日本では考えられないような酷い扱いで15歳の少女に接したのだ。


 美咲はどうして神に選ばれたのかは分からないが聖女として異世界の王国に召喚され、この後過酷な魔獣討伐の旅に出ることになる。


 王国は大量の魔獣に攻め込まれており国土の作物は荒らされ危機的状況にあった。美咲は魔獣討伐隊の仲間と共に是非国を救ってくれ!とこの後宰相、王様王妃に頭を下げられることになる。

 王家の人間は決して悪い人たちでは無かったが、第二王子の印象は最悪と言える。あの後スライディング土下座をしてくれた第一王子が居なければミサキは大広間で失礼な王子に鉄拳を喰らわすところだった。

 しかし誤解されたのも仕方ないと自覚もある。

 召喚された時美咲はソフトボール部のユニフォームにスニーカー。日焼けした肌は健康的を通り越して真っ黒であったし、何と言ってもヘアスタイルはベリーショートであった。筋肉が発達しかかった体は細身で日本でも男の子と間違われたこと数回。

 口を開けば少しは高い声だが、運動部特有のどすの利いた挨拶をしているせいか掠れていた。


 あの当時を振り返ると毎日が必死過ぎて記憶は途切れ途切れ。

 異世界あるあるの、言葉の問題はチートに助けられたが生活は一変する。

 言うなれば時代劇の世界に飛び込んだようなものだから。


 王家は国を救ってもらおうと必死に美咲に尽くしてくれたが、あの当時国は荒れており貴族のほうが優勢で、美咲は随分危険な目に遭わされることになる。政治の道具として聖女を見ている貴族からすれば魔獣討伐は二の次。味方の居ない彼女は傀儡の道具にピッタリとばかりに命の危険に晒されていた。

 討伐そのものも安全では無い上に、普段の生活も脅かされている状況は美咲自身にストレスとなってしまい、二度ほど生理が止まる。

 だが市民の困窮した姿を見せられたら討伐の参加も『分かりました』というしか無かったし、そもそも断って仕舞えば美咲は野垂れ死ぬことが決定だ。

 運命には従うしかないとあの当時悔し涙を幾度も流した。


 国力が弱っているので手を取り合って頑張りましょう!というのは物語の中だけであって、建前は王家を尊重しながらも実権を握りたい野心あふれる人間はごまんと居る。

 その国自体が無くなろうとしていることに気付いている貴族は半々で、危機を危機だと思わない愚かな人間は多い。

 ある意味第二王子も王太子と実権を争っていた訳だし国政の中は本当にドロドロしていた。

 美咲は自分に聖なる力があるとはとても思えなかったが、これも召喚3日と経たずして力が発揮できるようになる。

 主には癒しの力と結界シールドだ。


 魔獣と戦えるような『ファイアーボール!!』や『出よ!水柱!!』は無かった。


 色々試した結果、他は適性的には少量の氷が作れる程度。夏場の暑い時期に〈カラン〉と小気味の良い音を立てる丸い氷グラス二つ三つ分が精々で、しかも結界シールドを張る時と同等なくらい疲れた。


 癒しの力は欠損部分が小さければ再生可能であるが、大きい場所は難しい。

 例えば腕を生やすのは無理だが、拳大の抉れた箇所は何とか形を戻せる・・・と言った感じだ。

 討伐が進むにつれ自覚していくのだが恐らく癒しの力は『生命エネルギーの前借り』ではないかと今では思っている。錬金術師とは違うが、魔法は日本人の美咲からすれば理解の範疇を超えている。無尽蔵の力など理としてあるはずは無く、対等にはれる価値は何かと交換するしか無い。


 病気に関しても癌をそのまま取り除いたり、毒物が体内に侵入したものをサラッと無くす・・・なんて神業は使えない。

 傷んだ箇所の出血を止めたり、修復したりできるが根本的な病気を叩く事は難しい。

 16歳くらいからは病の元を除去するというのはまた癒しとは違う力なのでは無いかと思いついた。だが残念ながら病気を治すと言うことをこの2年間毎日色んな形で研究を重ねているが分からなかった。


 それでも聖なる力で強力な防御壁シールドを国境に張り巡らせば魔獣は見事に制圧出来た。


 結局魔獣が生み出される仕組みも解明できず、美咲としては不本意に全てが終わってしまったが、王国の皆は命の危機から救われたととても喜んでくれる。


 大嫌いなバカ王子だが予想外に商売上手で、その後国境付近の死んだ魔獣と住処にあった鉱石を解体してひと財産を築いて王家に献上していた。

 色々ムカつくことは多かったが国家の復旧を後押したのは間違いない。

 第一王子は王太子として国外からこれ以上付け込まれないように手腕を発揮した。

 運が良かったのは、王家の人間が傲慢すぎず、美咲を蔑ろにはしなかったことだ。


 結界シールドを見事張り巡らした救国の聖女はその後物語となり市井にも話は出回るが、困ったことに美咲の容貌は討伐終了後4ヶ月そこそこでは目覚ましく変化はしなかった。

 討伐の間はロングローブにフードを目深に被ることで自分を隠すことができた。

 必要最低限の人間とだけ交流を持ち、いざとなったら貴族の次男坊という設定でパンツとシャツ姿で男の様に振る舞う。

 美咲の日焼けは顔を少し分かりにくくしてくれる効果もあり、周囲は聖女付きの傍仕えの少年と思っていたことだろう。


 討伐終了後。


 城では男なのか女なのか分かりづらい自分の容姿を更に隠して歩くしかなく、長袖を着用しても尚腕の日焼け、顔の日焼けの色は褪めることが無かった。

 侍女のエストが色々と工夫はしてくれるが、ドレス姿も現状の姿じゃ似合わず顔も隠し辛い。

 王国では短い髪の女性は居ない。貴族は勿論、平民もそれなりに長いのだ。女が髪を切る時。それは即ち〈縛り首〉もしくは〈斬首〉の時と決まっている。所謂罪人で死刑の前だけ。

 王家は異世界から来たのだから仕方ないと理解は示すがこの状況は狸な貴族たちには恰好の攻撃材料になってしまう。

 折角魔獣を退けたのに腹立たしいことこの上ないが、懇意にしてくれる王家を美咲のせいで窮地に追いやるわけにはいかない。それ程王家の権力は弱っており自分の為にも不利な状況を招く訳にはいかなかった。

 本来なら年齢の釣り合う第二王子が娶り囲い込むというのが一般的だそうだが最初の印象が悪過ぎて美咲は『それだけは死んでも嫌だ』と懇願した。

 まあ、向こうも山猿のような嫁が来ても形だけの嫁にしかならないだろうことは予測出来た。

 討伐が終わるまでの間に美咲と仲を深めていったのは王家の家族と、宰相の家族。そして次代の宰相家の娘2人だ。

 当時の宰相は高齢で貴族たちを抑え込むことに執心しており、反王家の彼らを道連れに引退を目論んでいた。

 一年後にそれは実行されるが美咲としては思い出すたびに感慨深いものが込み上げる。本来優しい人間であるが、国を守るということはどういうことなのかを一番教えてくれた男性であったから。


 後任を任されていたのは、討伐隊にも紛れ込んでいた中年男性トーマス・グリフィン。美咲のイメージは『細身な森のクマさん』である。


 髭が濃くて190センチの大男。細いくせに器用にハルバートを使い熟して大型の魔獣にも怯まなかった。

 戦えない美咲を真っ先に守り続ける汗臭いおっさんには感謝しか感じてない。

 本当臭いなんて些細なものだ。本当だ。


 嘘です。清潔なサラリーマン家庭のミサキにその匂いは……………新鮮だった。


 そんな男の娘はマリアとベス。彼女達は貴族の中でも割りに活発な性格で長女も次女も非常に性格が良かった。(彼女達は清潔でいつも花のように素敵な香り)

 貴族は18歳までに結婚することが望ましいらしく本来なら嫁に行くところ長女は国政が安定しなかった為、嫁ぐことが出来ない状況であった。


『王国は生きづらいわね〜私たちの世界だと女が結婚するのは今や29、30歳は当たり前。結婚を選択しない人だって居るんだよ。』と教えると目を輝かせて2人は懐いてくれた。

 結果的に12歳年上の公爵に嫁ぐのだが、美咲はこの夫婦が大好きだ。

 というか尿瓶を作ってくれたのはこの夫婦である。


 話は昔に戻るが、救国の聖女を皆にお披露目したいが姿が見せられない。当時はそれが大問題となった。


 貴族達はお礼を言いたいので是非会わせろと煩く騒ぐが裏が無いとも言い切れないし、信用するほどお人好しでは無い。

 あの当時皆ノイローゼになりそうな程悩んだのはそんな案件であった。

 その上聖女を第二王子が娶らないと分かれば、『是非ウチの嫁に!』と野心家たちは騒ぎ立てミサキも王家も頭を抱えた。

(因みに第一王子は隣国の王女が翌年に嫁いでくることが決定しており、そこは政治的にも譲れなかった。)


 何方にしても和風の顔、美咲が眉毛の下に影を作るような彫りの深い旦那を貰うことが全くもって想像が出来ない。

 日本には居ないくっきりパッチリの顔が迫って来たら、思わず顔を背ける自信があった。


 散々考えあぐねていると討伐隊の一つを任されていた辺境伯が名乗りをあげる。

『聖女ミサキ様を娶り、我が領地に迎えよう。』

 それがデイビッド・チャペス。御年48歳のオジサンであった。

 討伐隊の作戦会議でも彼は非常に目立つ存在で勿論知り合いである。

 身長は2メートル。筋骨隆々のムキムキボディに半袖シャツ。

 大剣を腰に佩いて歩く姿は彼が誰よりも強靭だと教えてくれた。

 渾名は『闘神ガリバー』神話の神の名前だ。

 彼は先ず体幹が人と違う。

 大地に根を生やしたように重心が重く、スポーツを齧っていた美咲から見て大剣を振り回せるだけの力が彼にはあり、魔獣に対する強さは鍛え上げられたあの肉体のお陰と理解した。その上人智を超えた戦闘センスの持ち主。寡黙であるが、作戦会議での発言は的を射ていたし人間性は悪くない。

 討伐隊の中では部下に情も熱く慕われていたのを見ていたので美咲は異論は無かった。

 結婚以外で自立の道も模索はしたが、やはり後ろ盾がない人間にはどう考えても無理だし、何より心細かった。


 美咲は高校生に上がろうかという歳だったから勿論男女のことも全く無知という訳はない。生理も来れば初体験を済ませた早熟な友人だって居た。


 なので48歳の男に娶られれば、勿論やる事もやらなければイケナイと理解もしていたが、知らない人間に自分の身柄が渡されるくらいなら少しでも為人を知っている人間の元へ身を隠したかった。


 よく見れば顔立ちそのものはデイビッド・チャペスは悪くない。貴族の御令嬢から見れば強面過ぎるだろうが、顔の刀傷も某漫画の主人公に見えなくもないし、動物が好きだと言う点も悪くない。毒液で首あたりに焼け爛れた痕も残ってはいるが、美咲からすれば些末なことである。


 それよりも主に『アレは私の体に入るんだろうか?』と15歳らしい悩み?疑問?は残った。

 その思考に止まる猶予は既に残されていない程に事態は切羽詰まってはいたのだが。


 王家のサインと教会のサインをもぎ取った婚姻宣誓書を片手に2人は人目につかないように王都を出発することにした。

 聖女の姿はいつも通りフードとローブに隠れたままで皆はいつもその存在を探し回っている。


 辺境伯は政治的にも上位であったのか、婚姻の発表は他の貴族から異論は出ず、美咲は直ぐに辺境伯の領地、ペニシールへとつれて行かれた。


 馬車に乗り込む際、大柄なチャペス辺境伯はミサキを大事そうに抱え上げてくれた。

『なんて男らしい人…物語の闘神に喩えられていたけれど本当に女性を軽々と抱えて歩けるような人がいるんだ。』と驚いた。


 しかし、馬車に乗った後美咲はさらに驚く事になる。

 辺境伯の態度が急に人が変わってしまったからだ。

 大仰に踏ん反り返っていたデイビッドは出発と同時にスッと足を組むのをやめると徐に鞄の中からキャンディボックスを取り出して美咲に手渡す。




『ミサキちゃ〜ん。今度からはそう呼ぶわね。アタシはデイブって呼んでちょうだい。どうぞ宜しくね♪


 アタシみたいなオッサンと2人じゃ楽しく無いかもしれないけど、これからのことを考えてもそこはお互い歩み寄りましょう?

 宿ではお風呂先に入っちゃいなさいな。アタシは後で良いから!

 あ、アタシの良い匂いの石鹸試すぅ?

 アタシ本当はラベンダーのポプリ入れてるフカフカ枕じゃないと眠れない派なのぉ。だからコーディに預けてるんだけどミサキちゃんは何処でも寝れる派???

 あとオススメの化粧水あるから使ってね!』


 この野太いながら立板に水の如く喋るテンションが高い声。もう1人馬車に乗り込んだ年の離れたお姉さんが側仕えになったとかではない。


 デイビッド・チャペスその人の声だ。と言うか喋り方だ。

 彼は性的マイノリティ・・・・そう。

 男の体で、同性の方に好意を寄せる、所謂『男色』であった。


私はどこでも寝れる派

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― 新着の感想 ―
[一言] 旦那様はオネェだったか…(笑) またハードな主人公ですね… 中学生にして異世界転移…
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