ブルーフィクションイメージング
あくまでも、考えなのでご了承ください。
「では、空想科学小説──SFのショートショートを書いてもらいます」
先生の一言にみんなはどよめいた。
「無理ー」
「できない!」
「え!?」
「ムズいよ……」
しかし、栄生は目を輝かせる。
「小説?書いてみたい!」
そう──栄生は積極的だった。
近くの晃は、
(こいつにかかるとムズいのも楽しくなっちゃうんだよね…)
と呆れ半分、感心半分。
親友のリコは愛想笑いをする。
(さすが栄生ちゃんだよ…)
一番近くで見てきたからそれなりに性格は分かるつもりだ。
(いや…ある意味憧れるよ)
チラリと栄生を見たシュンが心のなかでつぶやく。
「栄生より上手いの書いてあげる!」
そう、さけんだ彼女は。
ド派手な宣戦布告を言える唯一栄生と腐れ縁の沙羅しかいない。
「宣戦布告?」
「そう。だって、いろいろと悔しいし」
栄生は面白そうに笑った。
「乗ってもいいけど」
いつしか、純粋なショートショートから過激な小説バトルとなっていた。
✑ ✑ ✑ ✑ ✑
テーマは空想科学小説──SF。
小学校6年生としては難しいテーマだ。
「なんで、SFなんだよ…」
ぼやく晃に栄生が反応する。
「先生は、みんなが環境問題にどう感じてるのかの調査のつもりだって」
「……分かるわけないことを」
嫌がる顔で、テーマを決めだす。
「何のテーマにしようかな…」
栄生は思考を巡らせた。
「地球温暖化とか」
「いや、それ常連だし」
確かに地球温暖化は重大だ。
大切な問題だ。
けれど、他の、気づかれていないけれど重大な問題を書きたいのだ。
「まだ決まってないの?」
「そうだけど」
「早くして方がいいよ。私のライバルなら」
挑発をやめない沙羅。
「で?沙羅のテーマは?」
「地球温暖化と溶け出す氷」
途端に栄生は頭を抱えた。
もう、地球温暖化のテーマは使えない。
使おうとはしていなかったけれど、逃げ道が閉ざされたのだ。
「まあ、私の場合、どっちかっていうとウイルス系なんだけどね」
「ウイルス……?」
地球温暖化とウイルスが関係あるのか。
気になるところだ。
✑ ✑ ✑ ✑ ✑
次の時間は理科だった。
電気の作られる物の授業だ。
「電気で作られるのは、光、音、熱、動きの4つです。そして、これからも電気を作ることは可能です。光なら太陽光発電、熱は地熱発電、動きは風力発電と」
そこで、晃が挙手した。
「先生、音はー?」
「音か……確かに。音力発電とか?今研究しているかもしれませんね」
音力発電。
音だけで電気を作れるならエネルギーもかからないし、理想だろう。
しかし、それはまだ発明されるか分からない。
「……!」
(それだ!)
栄生はひらめいた。
そして、沙羅をみやり、ふふっと笑った。
✑ ✑ ✑ ✑ ✑
一週間後、書き始めることになった。
「何書くの?」
「……沙羅にネタバラシになるから教えない」
「参考にしたいから!教えろって」
懇願する晃に栄生は笑みを浮かべる。
「まあ、半分晃のおかげで思いついたんだけどね」
「……?」
「一週間前の理科。覚えてる?」
「細かくは覚えてない」
「なら、音は?」
「………ん?」
ああ、と晃は目を見開いた。
「音力発電!?」
「そう。まあ、電気系っていうこと」
「へー。全然参考になんなかった」
「言わせといてそれはないでしょ!」
晃は放っておき、栄生は紙に向かう。
──そして書き始めた。
✑ ✑ ✑ ✑ ✑
ガスを使うのは消費が多く、CO2をたくさん排出し、資源も減っていく。
だから──人類は考えた。
電気に切り替えることを。
「これなら、エネルギーがあまり出ない‼」
「電気推薦しよう」
人類は電気を流行らせた。
電気自動車、電車……全て電気に塗り替え、生活を新しくした。
それが、間違いだったのか正解だったのか──それは、30年先に分かる。
✑ ✑ ✑ ✑ ✑
「よし」
栄生は書き始めはそう書いた。
我ながら暗い、SFのような書き方だ、と自画自賛する。
「出だし書けたの?なら、見せ合おう」
一瞬で沙羅に取られた。
「……!」
代わりに沙羅の出だしが置かれていた。
✑ ✑ ✑ ✑ ✑
今、世界はパンデミックに襲われている。
どこからともなく、来たウイルス。
原因不明の症状。
そして、対象法も分からなく右往左往するだけ。
それだけの間に、地球人は消えていった。
✑ ✑ ✑ ✑ ✑
「こわ……ってか、これ地球温暖化関係あるの?」
「あるわよ。まあ、今言いたくないけど」
「今言わなくていいけど。わたしだってネタをバラしたくないし」
「じゃあ、勝負が楽しみになるね。出だしは悔しいけど栄生も上手かったし」
沙羅と栄生の間に火花が散る。
「……おもしろい小説書いてきてあげる」
「こちらこそ」
笑みを浮かべた二人は、やがてまた紙に向かった。
✑ ✑ ✑ ✑ ✑
栄生の小説は、電気についてのSFだ。
電気はすごいと、人々は推奨し、石炭火力発電が主流となる。
原子力発電は、大惨事があったため、中止になったから。
他の、風力、地熱などは、大きな電気を作らないため、火力発電を中心として人類は快適な生活を送りはじめる。
──しかし。
石炭も資源。
資源がどんどん底をついていき、ついにはなくなった。
そして、燃やした時のエネルギーも地球の負担となる。
電気は、もう火力発電では作れない。
風力や地熱、太陽光では限界だ。
だから、人々は長年使わなく、使用停止にしてきた封印していた原子力を使いはじめる。
けれど、それも放射能が漏れて、人々は白血病や、他の放射能による病気にかかっていく。
そして、原子力発電は海の近くのため、そこを泳いでいる魚などにも影響が及び、それを食べる人間は放射能に侵されていってしまう。
人類は後悔する。
電気はいけなかったと。
けれど、電気以外にも何か便利なものはあるのだろうか?
他の方法でどうやって電気を作り出せたのだろうか?
そちらにせよ、逃げ道はなかったと、解決策はなかったと絶望の果てで地球は消えていく……。
✑ ✑ ✑ ✑ ✑
「その後、音力発電でどうかって言う話になって、でも遅い……ってなる。それで、こうならないでほしいと主人公のメッセージを書けば完成‼」
栄生は紙にペンを走らせる。
荒れた地球。
苦しむ人々。
電気以外にも、いろいろな問題が起き、滅亡を辿ってしまったから。
『君たちはこうならないでほしい。
まだ、君たちにはチャンスは残っている。
僕にはできなかった、逃してしまったチャンスを君は受け取ってほしい。
君たちのために、この美しい地球のために。
どうか、どうか、考えてほしい。
問題が起き始めている今ならまだ間に合うから。
どうにかして、この地球を汚さないでほしい。
誇り高い人類や動物、植物、命を滅亡させないでほしい。
これが僕の願い。
もう、生きる望みもない僕に言えること。
だから、おねがい、チャンスを逃さないで。
今は間に合う。今、頑張ってこうしないでね。
君たちのためにも、僕のためにも、生き物のためにも』
「終わった‼」
栄生はふうっと息を吐き、安堵する。
書き終えた、書き終えたのだ、感動ものだ。
初めて書いてみたが、出来栄えは自分でも惚れるほどだ。
他の人の意見も聞きたい。
そう思って、沙羅のところへ行った。
「沙羅は?終わった」
「もう少しだからっ‼」
怒ったような声で返される。
「沙羅はどんなテーマなの?」
「地球温暖化」
「ウイルスも?」
「そうだよ。まあ、読んでみなさい」
✑ ✑ ✑ ✑ ✑
エネルギーを使いすぎたおかげで地球温暖化が起きる。
どんどん高くなる温度。
余計に涼しくしようとエネルギーにたより、またひどくなる。
その繰り返しという酷い地球になってしまった。
──ついに南極の氷に亀裂が入った。
溶け出す水。
水量が多くなり、沈殿する都市も増えた。
人々の住むところは狭くなっていく。
そして、そんなときに起きた最悪なことが”パンデミック”だった。
その後には、未知のウイルスによって苦しむ人々が描かれている。
斬新で、残酷な、けれどこれが現実だと思い知らされるリアルさ。
下手なホラーより怖い小説だった。
栄生と違って沙羅は表現が迫力がある。
✑ ✑ ✑ ✑ ✑
「で?パンデミックの正体は?」
興味津々に栄生に、沙羅は今書いてる、と答える。
「あともう少し……書き終えた‼」
ドヤ顔で最後の場面を渡された。
栄生はページをめくっていく。
パンデミックの正体は……
『南極に封印されたウイルス』
だった。
南極には水銀や未知のウイルスがあると予測がたてられている。
南極が溶けて、未知のウイルスが放出される設定だ。
「なるほど……。予想を裏切られた」
「でしょ?実際、ウイルスがいるかもしれない、と言われているの。でも、仮定だとも言われてるし、いたとしても人間には害を与えてないだろうと言ってる…けど」
「けど?」
「だって、ウイルスが本当に未知過ぎてわからない可能性だってあるでしょ?寒さの中だと冬眠したように眠るウイルスとか、害を与えるウイルスとか」
栄生は唸る。
なるほど、そこまで考えていたのか。
自分は電気の使いすぎだけだった。
沙羅は、もしかしたら…と自分で想像したのだ。
「これは……勝利は沙羅に譲るよ」
「あらら……いいのかな?私に敗北気分?」
「そういうわけじゃなくて。純粋にすごいなって思ったし」
「悔しいけど、栄生の設定も面白かったわ。電気の使いすぎだけでなく、原子力発電とか詳しく書いてるし。あと、最後のとこ‼主人公のメッセージが悲痛で心を揺り動かされた」
「わたしは、地球温暖化は、結構深刻だと思った。ただ、熱くなるだけじゃない。こうやって、パンデミックも起きる可能性もあるんだなって」
「そう?でも、学者は起きないって断言してるのよ?」
「それは仮定でしょ?断言できないじゃん。もしものときに備えるのも大切だし」
「これは、引き分けというか」
「……まあ、そっちの方が気分的にはいいけど」
栄生と沙羅は二人で笑った。
✑ ✑ ✑ ✑ ✑
フィクションをイメージする……SFというテーマ。
みんなが環境問題にどんな感情を抱いているのか、充分分かるテーマだった。
先生は、集められた生徒分のショートショートを読み終え、ため息を付いた。
ゲームから想像している者もいる。
ニュースを丸呑みして書いている者もいる。
自分で想像して書いている者もいる。
「優勝は……卯月と中山かな。まあ、優勝なんてないけど」
その名前は、栄生と沙羅の名字だった。