人形
「わたしどうしたらいいかしら?」
ナターシャは自分の影に向ってききました。
すると真っ黒な魔人がナターシャの影の中から出てきて言いました?
「わたしにきかれても。わたしの役目はご主人様の願いを叶える事だけですから?ご主人様の望みは何ですか?」
「それを答えたらまた別の力がなくなっちゃうわ。」
「わたしのご主人様はやはり賢い。」
「言われ慣れると、そう思えて来たわ。」
ナターシャはその日、ずっと肌身離さずモウリーのくれた人形を持ち歩いていました。
そして、自分がヨクバールから買った同じ人形を見比べました。
ナターシャが買ったのは赤で、モウリーがくれたのはピンクでした。
ナターシャは翌日ゴミ置き場に向いました。
モウリーを探しに来たのですが、その日モウリーはいませんでした。
家に帰る途中、一番最初にナターシャの家に来た使いの人が声をかけてくれました。
「どうされたんですか?」
「人を探していたの」
「それはどんな人ですか?私でも知ってる人でしょうか?」
「わたしと同じくらいの男の子よ。」
「ああ、お友達ですか」
「ううん、友達になりたかったの。」
ナターシャは何時の間にかまた泣いていました。
使いの人はナターシャを屋敷まで送ってくれました。
ナターシャが使いの人と一緒に屋敷に戻ると。玄関先でヨクバールが待っているのが見えました。
「あいつは、業突く張りの商人で有名なんですよ。」
「知ってるこのお人形10倍の値段で買っちゃった。悪い人なの?」
「悪い人かどうかは、とる人によるでしょうね。」
「どうして取る人によって何でも変わってしまうのかしら。わたしそういうの凄く困っちゃうの。」
「ははははは」
使いの人は楽しそうに笑うと、少し考えてからまた離しだしました。
「私の思う処、悪い商人は、これ以上売りつけられないと思うと、態度をひるがえす人です。私の主人はそのような事をしません。良い商人は買う人売る人互いの利益を大切にします。」
「利益って何?」
「誰かのため”になることですよ。では私は仕事がありますので。」
使いの人は恭しくお辞儀すると、去って行きました。
ナターシャは少し俯いて考えて、空を仰ぎました。
空は真っ青で良く晴れています。
「こんにちは」
ナターシャは自分からヨクバールに挨拶しました。
「これはこれはナターシャ様」
ヨクバールは一瞬渋い顔をしましたが、すぐいつもの笑顔になって、汗を拭いていました。
ナターシャは持っていた二つの人形をヨクバールに差し出しました。
モウリーのくれた方の人形はまだ値札がついています。
ヨクバールははっとした顔をしてから、深々と頭を下げました。
「すすすす、すいません。こんな立派なお屋敷に住んでる方に、安物は売れないと思いまして…」
しどろもどろ話すヨクバールを真ん丸な目で眺めながらナターシャは口を真っ直ぐ一文字にしていました。
ヨクバールが焦って更に汗をかいていると、ナターシャはゆっくり口を開きました。
「わたし欲しいものがあるの」
「はい?はい!何でしょうか?」
「お金を払うから、あなたの商売を教えて頂戴。」
ヨクバールは屈んだままの姿勢で、ナターシャの顔を見たまま、あんぐり口を開けていました。