仕官できなければ、党を作ろう
「あ?仕官?ダメだダメだ。家はもう足りている!」
「草だと?そんな胡散臭い低級な身分の奴を雇えるか!」
「貴様、変な服装だな!さては南蛮の間諜か!!」
城下町のとある飲み屋
「「はぁ・・・・・・」」
俺と加藤段蔵こと桔梗さんはため息をつく。桔梗さんと出会ってから、幾多の武士の屋敷やら役所に就職活動したのだが、結果は惨敗。どこも雇ってもらえるどころか面接さえしてもらえずに門前払いされた。
徳に俺なんか南蛮人と勘違いされて斬り殺されそうになったし。
まあ、父親がドイツ人だしな
「どこにも仕官できなかった・・・・・」
深いため息をし、お茶を飲む桔梗さん。後で聞いた話なんだけど桔梗って名前は通称で、この国…いや、世界か。その人には通称という名前があるらしく。下の名前は例えば織田信長の信長という名は諱もしくは真名と呼ばれていて仕える主君のみが呼んでいい名前、もしくは親しい人しか読んじゃいけないらしい。もし諱で言ったらそれは失礼にあたるという
「ごめん。力になれなくって・・・・」
「いいえ、弘樹さんのせいじゃないですよ。今の戦乱の時代、他の大名たちは草とかに警戒していますから。それに弘樹さんは違う時代から来たんでしょ?自分のことで精一杯のはずなのに私に協力してくれるだけでもうれしいですよ」
俺が謝ると桔梗さんは首を横に振りそう言う。俺は桔梗さんに自分のことを話した。こことは違う約400年後の時代から来た人間だということを、最初は桔梗さんは疑ってはいたが、自分の身なりや俺が必死になのを見て信じてくれた。いや、身なりというよりも彼女は
『そこまでまじめに言う弘樹さんが言うなら信じます』
と笑顔で言ってくれた。本当にいい人だよ桔梗さんは・・・・・・て、あれ?そう言えば加藤段蔵って・・・
「あれ?そう言えば桔梗さんって前は上杉謙信・・・・・いいや長尾景虎か武田晴信に仕えていなかったっけ?」
「うっ・・・・」
確か加藤段蔵は上杉謙信・・・この時代では長尾景虎か武田晴信。後の信玄に仕えていたはずだ。俺がそう言うと桔梗さんは気まずそうな顔をしてしまう
「は…はい。以前は美空様・・・・・長尾景虎様にお仕えしていました・・・・ですがクビになりまして・・・」
「なんで?なんか悪いことでもしたの?」
「それが…その・・・・胡散臭い・・・と?」
「・・・・え?」
それだけでクビにしたの?俺には桔梗さんは優しい人だと思うんだけどどこが胡散臭いんだろうか?俺がそう思う中、桔梗さんは話をつづけた
「以前。戦が終わって宴をしているときに、家臣の一人に『皆があっと驚くようなことをしてくれ』と頼まれまして。それで必死に手品の練習をしたんです」
「どんな手品?」
「はい。牛を丸ごと飲み込むというものです。そうすればみんな驚いて宴会も盛り上がるだろうな~と思いまして。それで練習をして。宴でそれと他の手品を披露したのですが・・・・盛り上がるどころかみんなにドン引きされて・・・・でも、御大将のご息女の空様には喜んでもらえたのですが・・・・それ以来仕事が減ったんですが、それでもまじめに仕事をしていたのに、御大将・・・美空様にあの一件依頼、「妖術使いの胡散臭い人」と言われ最終的には解雇にされて越後を追放されまして・・・・」
「(理不尽だ・・・)」
俺は正直桔梗さんに同情した。結果は残念だけど。桔梗さんは宴会でみんなを笑わせようと一生懸命に手品の練習して、それに仕事もまじめにやっていたのに胡散臭いで解雇だなんて・・・それはあまりにも理不尽だ。不当解雇もいいところだ
「それでクビになった後、敵対していた武田家に就職したんです。北条や今川もよかったのですが北条には風魔がおりましたし、今川はあまりいい噂がなかったので・・・・」
「それで武田での生活は?」
「長尾と変わらず。まじめに仕事もして家臣の方ともそれなりに・・・・ですが、私を快く思っていなかったのか、もしくは長尾から送られた草と思われたのか、謀反の疑いがあると言われ数か月で解雇に・・・・・それで新たな仕官先を求め美濃まで来たんです・・・・はぁ・・・・」
「(可哀そうすぎるだろ。いい人なのに・・・・)」
俺はため息をする桔梗さんに何かできないか考えた。すると桔梗さんは
「でも・・・・どのみちここでは仕官できなかったと思います」
「え?」
「見てみてください。町の様子を。こんなに荒れて、町の人も元気がないです」
「ああ・・・そう言えば・・・・」
桔梗さんにそう言われ。俺は周囲を見渡すと。町には活気がなく浮浪者が地面に座ったり街並みも少しボロボロ。町の人たちにも元気がなかった
「先の応仁の乱以降、都の京もこれ以上に荒んでいるらしいです。帝も幕府も全く機能していないとか・・・・栄えているのは貿易で潤っている商人の街の堺か、最近豊かになりつつの織田の尾張ぐらいだそうです。美濃も先々代の斎藤利政公《ref》斎藤道三《/ref》が長良川でご息女の義龍殿に討たれてから、義龍公は旧来の制度に戻したせいで商人の出が少なくなったようです」
「詳しいな桔梗さんは?」
「情報収集は大切ですから。何も知らないで仕官するのは危険ですので」
「まあ、そりゃそうか・・・・」
確かに使える主人が無能だったら、つらいよな。知らないでブラック企業に入るのと同じだし
「それで今の当主は誰だっけ?」
「義龍様ですが、噂では病に伏していて。事実上の実権は子の竜興殿となっていますが・・・・・」
「ダメダメなのか?」
「はい・・・・調べたら、政には目もくれず、蹴鞠やら酒なんかのどんちゃん騒ぎで美濃の政務も少数派の家臣たちで何とかしているんだとか・・・・」
「こりゃ、斎藤家が潰れるのも時間の問題だな」
「しっ、弘樹さん。ここはまだ斎藤家の領地です。聞かれたら連行されますよ?」
「おっと。ごめん、ごめん」
俺がそう言うと、店の女将さんが
「あんたら、仕事を探しているのかい?」
二人分のお茶を置いて、そう言うと俺と桔梗は小さく頷く
「それは当てが外れたね。ここりゃへんにはそんな余裕はないよ。重い税金やらお召し上げやラでこの町も貧乏だらけさ・・・先々代の頃は栄えていい街だったんだけどね」
「自分たちで一揆とかしようとは思わないのか?」
「馬鹿言うんじゃないよ。そんな度胸のある奴なんていないさ。相手はお侍様だよ?農具だけじゃ適わないって」
「そうか・・・・」
「まあお茶しかないけどゆっくりしていきな」
そう言い、おかみさんは店の奥に行ってしまった。
「・・・・・・」
弘樹はお茶を飲み、外の街を見た。荒んで骸骨みたいにやせ細っている子供や地面に倒れて動けなくなっている人。正直言って地獄としか言いようがなかった。
そして弘樹は元の時代で読んだ第一次世界大戦後のドイツのことを思い出す。
かつてのドイツもこんな風に荒んでいた。敗戦による賠償金で政府が貧乏になり、さらに世界恐慌で失業者があふれご飯も満足に食べられない子供たちが多くいた。
今のこの町も状況は違えど同じにことなっている。誰かがこの状況を何とかするのを待つんじゃない。自ら動かなければならない。
かつてドイツに現れたあの男のように・・・・
「はぁ・・・・仕方がない。尾張にでも行って・・・・て、どうしたの弘樹さん?」
「桔梗さん。俺この町の状況を少しでも変えたい」
「え?」
「こんなに苦しんでいる人を俺は見て見ぬふりはできない」
「できないって・・・・あなたは何をするつもりなのよ?」
「仕官できなければ俺が党・・・組織を作ってこの状況を変える」
「組織って、あなた一人で?あなたには関係のないことでしょ?」
「関係ないっか・・・確かに俺にはこの美濃や世界のことは全く知らない。でも人が困っているのを見て見て見ぬふりをすることなんてできないし、誰かが立ち上がらなければいけない。かの劉備玄徳が貧困や戦乱に苦しむ人民のために立ち上がり、義勇軍から蜀の国を作ったかのように」
「それは・・・かなり険しい道のりですよ?」
「それでも俺はやるつもりだよ桔梗さん。この状況は誰かを頼りにしてはいけない。救世主を待ってはいけない。誰かが立ち上がらなければいけない。誰かが民を導かなきゃいけない。俺たち自身・・・いや民が一丸となって変えなければいけないんだよ」
俺がそう真剣にそう言うと桔梗さんはお茶を飲み
「・・・・・本当に強引な方ですね?わかりました弘樹さんがそう言うのなら私も協力します」
「え?いいんですか?」
「どこに行っても仕官できないのなら、手伝ってくれた弘樹さんの思想を手伝うのもいいかと、それに弘樹さんと一緒なら、なんか面白いことになりそうだなっと思って」
「面白いって・・・・まあいいか。ありがとう桔梗さん」
「ええ。共に頑張りましょう。これからは相方としてあなたが幹となり、草の私はその陰に控える宿り木となって力を合わせ出世しまし、平和な世を作るため頑張りましょう。あなたが言うように誰もが幸せになる国になるために」
「ありがとう・・・ありがとう桔梗さん」
俺は桔梗さんの両手を握り礼を言うと桔梗さんは少し顔を赤くしにっこりと笑う。こうしてたった二人だが、この国の貧困をなくすための組織が結成されるのだった
「ところで弘樹さん。その組織名というのは考えているんですか?」
「組織名は・・・・・」
俺は右腕につけられている紋章を見て頷く。この紋章はかつては大量虐殺や世界を戦争の混乱に陥れたあの冷酷非道な独裁者、ヒトラーが率いた組織の紋章で現在でも忌み嫌われる印・・・・だが、この時代では違う。決して二度とこの印をあの組織と同様の悪逆非道の組織の旗印なんかにしない。もう同じ過ちは繰り返さない。俺がこの旗印の意味を変えてやる!
「ああ、組織の名は・・・・・・・・」
「国民社会主義日本労働者党・・・・・通称、那智党だっ!!!」