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未定  作者: hayassi
3/4

遭遇

「ひ、人違いだと思うが」

突拍子のない発言にどもってしまった。先ほどまではなぜか懐かしいようなそんな不思議な感覚に襲われていたが、よくよく考えてみるとこのエリーナさんとやらとは初対面だ。今までに会った記憶などあるはずはない。多分人違いをしているのだろう。

「ううん。あなたで間違いない。私があなたを見間違うはずがない」

「いや、案外見間違いなんじゃないか?だって俺、あんたのこと何も知らないし」

「まさか。そんなはずはない。じゃあ、ザナリアでの戦いのこと、覚えてる?」

「ザナリア?どこだそれ。ザナリアなんて地名、聞いたことないんだが」

「……そう。どうやら見間違いをしていたよう。ごめんなさい」

彼女は寂しげな顔をして俺の隣の席に座った。俺はそんな彼女のことがなぜか無性に気になった。


午前の始業式が終わり生徒はそおのおの学校を後にする。新しい店ができたから一緒に行こうとか、どこそこに遊びに行こうだとかそんな話声が聞こえてくる。

ふとエリーナのことが気になった俺は彼女の姿を探してみるも彼女の姿はなかった。どうやらすでに帰宅してしまったようだ。

「さあ帰るわよ、シン」

ドアの開かれる音ともにリコの声が聞こえてくる。どうやら俺を迎えに来たらしい。

「いつまでたっても来ないから迎えに来てあげたわよ」

「すまん。今いく」

俺は教室から出る。廊下を通り階段を下りる。靴箱で靴に履き替え外に出ると朝は降っていなかったはずの雨が降っていた。そんな気配は全くなかったのだが。

「ね、ねえ。あんたどうせ傘、持ってないんでしょ?」

「ああ。降るとは思ってなかったからな」

「わたし一応念のためと思って持ってきてるの、傘。わたしのでよかったらはいらない」

うつむきがちにリコは言ってきた。よく見えない彼女の顔にはほのかに朱がさしていたように見えた。

「すまない、助かる。こちらこそ願ったりかなったりだ」

「じゃあ、決まりね。それじゃ、帰るわよ。傘に入りなさい」

促されて俺は彼女の傘に入る。お互いの肩がぶつかり、リコはキャッとかわいらしい声を漏らす。

「肩が当たってしまった。気をつける」

「べ、別に嫌じゃないから。大丈夫、気にしないで」

「そうか」

「う、うん」

しばらく歩いただろうか。いつもならリコは何かしらこちらに話を振ってくるので会話が絶えないのだが、珍しく今日は全く会話が続かない。少し話してはやめ、少し話してはやめを繰り返している。今日のリコはどこか変だ。

「どうした?風邪か何かか?今日のお前は少し変だぞ」

「わたし?特にどこかが悪いっていうのはないんだけど……。わたし変だった?」

「ああ」

「そっか。そうだよね。いつもどおりがいいよね」

「?どういうことだ?」

「ううん、大丈夫。解決したから」

なんだ?俺の頭の中ではてなが大量に出ている。どういうことだ?

と俺は彼女の肩が傘からはみ出して濡れていることに気付いた。少し震えている。どうや俺に気を使ってか、黙っていたようだ。俺はそっと彼女の肩が濡れないようにこちら側に彼女の肩を抱き寄せる。

「えっ!?」

突然彼女の歩みが止まる。俺も歩みを止める。視線を向けるとリコは顔を真っ赤に染め、ワン罠と肩を震わせていた。

「どうした?」

「そういうとこなのよ……」

「何か言ったか?」

「何もないわ。意識してるのはこっちだけか、まったく」

「じゃあ、行こうか。あまり外にいると本当に風邪をひいてしまうかもしれないからな」

俺たちは俺の家へと急いだ。


大通りを抜け、小道に入る。小道を抜けると俺の家は見えてくる。茶色い屋根の一軒家。なんでも俺の両親が昔二人で住んでいた家だそうだ。親父の転勤に伴って今の家に移ったらしい。その際に後々必要になるかもしれない、ととっておいたのがこの家だそうだ。

ということはうちの両親は十数年前にこの状況を予測していたとでもいうことか。まあ、たまたまだろう。たまたま……だよな。

そんなことはともかく早く家に入らなければ。リコは歯ぎしりをし両手で自分の体を抱いている。方は大きく震え、いかにも寒そうだ。

ガチャリ。俺の家の鍵が開いた。

俺は今カギを開けようとはしたものの、まだ開けるまでには至っていない。というか鍵穴にカギを指してもいない。まだカギをカバンから取り出した段階だ。というか今家には誰もいないはずだ。そして鍵も俺の持っているこの一つのみ。スペアキーを作ったりはしていない。

ということは強盗目的で誰かが俺のいない間にスペアを作った?なぜ?俺の家には金目のものはほとんどない。財布などお貴重品は常に持ち歩いているからだ。じゃあ誰が?なんのために?などと考えているとドアが開いた。ドアから顔をのぞかせたのはなんとエリーナだった。


「なんでエリーナさんがいるんだ?ここは俺の家なんだが」

「私が学園に転校するときに私は自分の住む場所がないことに気付いた。しかしあいにく私は大した額のお金を持っていない。なので友達のアンネに相談したところこの家を教えてくれた。後鍵も。道理でおかしいと思った。アンネは家具はすでに用意してあると言っていたけれど男性用のものばかりだったから。なるほど。納得がいった」

「勝手に納得してんじゃねーーー!」

どうやらうちの母アンネ・シュトーリネンが仕組んだことらしかった。

「あ、そう。あなた宛てに手紙が来ている」

「手紙?手紙なんてめったに来ないんだが」

母さんからだった。曰く。

ーあなたの家でエリーナを預かることになったから。どうせ一人暮らしには広すぎる一軒家なんだから一人増えたところでそんな変わんないでしょ?エリーナに変な気を起こさないように。ということで拒否権はないから!よろしく!ー

ということだった。今度家に帰ったら母さんを一発しめよう。久しぶりにそう思った。






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